コント 魔王と息子の啓蒙活動
魔王「最近、手下を従えて何かやってるらしいな」
息子「はい、父上」
魔王「手下を使うのは構わん。だが問題はその中身だ。……答えよ、博愛とは何だ」
息子「はい、全ての者を愛し慈しむ事です」
魔王「いや、待て。私たち魔族だ、私が魔王でお前は」
息子「その息子です」
魔王「そうだろう、それが博愛とはどういう事だ」
息子「全ての者を愛し慈し」
魔王「分かった分かった!少し質問を変えよう。……最近、体を鍛えているようだな」
息子「はい」
魔王「それはいい、次なる魔王として強大な力を蓄えるのは必要な事だ。だがその目的は何かのイベントをする為らしいが、それは何だ」
息子「走ります」
魔王「ほう」
息子「24時間走って愛の力を世界に向けて発信しようと思います」
魔王「待て待て! それがおかしいのだ。走るだけなら手下にさせればいい、魔族ならもっと邪悪な方法で力を蓄えたらいいだろう。例えば人の生血を啜るなり」
息子「父上! そんな事が許されると思ってるんですか!」
魔王「許されるよ! むしろ魔族にしか許されないよ! やってよ!」
息子「……父上、私には出来ません」
魔王「うん、本気で拒否したな。大層ショックだぞ」
息子「でも安心して下さい、そんな父上にも喜んで貰える活動を始めました」
魔王「ほう、何だ」
息子「献血活動です」
魔王「出しちゃった! 生血を分け与えちゃった!」
息子「父上も如何ですか?」
魔王「しないよ。……というかあれだぞ、私の血を飲んだら大変だぞ。ずっと絶倫だぞ、ずっと鼻血出てるぞ」
息子「鼻血でもいいです」
魔王「やだよ。……おい、親をそんな目で見るんじゃない。聞き分けのない子供を見るような目をするんじゃない。他にも話は聞いているんだ」
息子「今も絶倫なんですか?」
魔王「ああ。……何でも共に歌を歌って平等とか言ってるらしいな」
息子「はい」
魔王「分かってる? 私は魔王だ、そしてお前は」
息子「その息子です」
魔王「分かってるじゃないか。いずれはお前が魔族の長、つまり魔王になる訳だ。それが平等とか言ったらダメでしょ。革命起こっちゃうよ? クーデターよ?」
息子「しかし命の重さに違いはないでしょう」
魔王「ん……? 待て、その質問はちょっと答え辛いぞ。下手な事を言ったらリアルで炎上しちゃいそうだぞ、だから答えない」
息子「魔王たる者が何を恐れるのですか!」
魔王「うるさい! こういう時だけまともなこと言うんじゃないよ」
息子「お忘れですか、私が息子であなたが」
魔王「魔王だよ! 悪かったよ! そうじゃなくて……、魔族は力で配下を押さえつけるのだ。力による上下関係、これが全てだ。分かるか?」
息子「分かりました」
魔王「あ、分かった? やっと分かってくれた? よし、いいぞ私、良く頑張った。じゃ、そういう事で」
息子「この力を全ての者に分け与えます」
魔王「分かってない! 何一つ分かってない」
息子「今も絶倫なんですか?」
魔王「ああ。……うーん、どうしたら分かって貰えるのかなぁ。魔族っていうのも大変なんだよ、弱いと思われたら終わりなの。凄い競争社会なの、分かる?」
息子「分かりません」
魔王「だよねぇ、何も分かってないよねぇ」
息子「今も絶倫なんですよね?」
魔王「そうだよ! さっきから何だよ! 息子が親の息子の心配か! 己じゃないが己のような物が心配か!」
息子「兄弟は何人居るんですか?」
魔王「……それを誰から聞いた」
息子「名前は匿名でと言われています」
魔王「チッ、余計な入れ知恵を」
息子「答えて下さい」
魔王「そんなの答えられるか! 分かるか? 魔王っていうのはだな、種馬だよ。強い後継者を産まなきゃならないから大変なの。分かる?」
息子「誰が魔王になってもいいんですよね」
魔王「いや? 当然その中で一番強い奴が私の後継者となる、つまりはお前だ」
息子「実は兄弟たちと会ってるんです」
魔王「……マジで?」
息子「実は何度か入れ替わってるんです、お気づきですか?」
魔王「……マジ?」
息子「最近、兄弟たちの間で父上への不満が高まっています。兄弟で協力して倒そうなんて話まで出ています。何とかイベントや歌で気を紛らわしていますが、このままではどうなるか……」
魔王「じゃあ最近の活動ってそういう……」
息子「父上も参加して貰えると兄弟たちの印象も変わって来ると思うのですが」
魔王「そんな事が出来るか! しかしだな、考えようによっては面白い話だ。魔王が百人以上も居たら何が来ても怖くはない。今後、魔族は安泰だな。ハッハッハ!」
息子「父上は本当にそれでいいんですか?」
魔王「……いいよ?」
息子「恐らく想像以上に悲惨な事になると思います。リンチなんてレベルじゃなく」
魔王「……イイヨ」
息子「体がバラバラなんてレベルじゃ済みませんが、それでも」
魔王「イイヨ」
息子「それよりどうですか、父上も一緒に走って仲良く汗を流しませんか?」
魔王「……イイネ」
ナレーション「そして魔族は民主化への道を歩んだのであった」