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エピローグ 誓い

カクヨムコン6に応募いたしました。

もしよろしければ、応援お願いします。

<(_ _)>






 ――それは、十数年前のこと。

 フランス某所で一人の男が、複数人を相手に戦っていた。

 男の名前はダース。マフィア――『イ・リーガル』の一員であり、その首領の右腕とも呼ばれている者だった。彼はいま、敬愛するボスの妻を警護している。


「奥様、もう少しで仲間と合流できます」

「ふふふ、貴方がいれば百人力ね? ――昔から、本当に頼りになります」

「やめてください。こんなところで昔話なんて、縁起でもありませんから」


 どこか突き放したような、そんな口調でダースは言った。

 学生時代からの仲とはいえ彼の恋敵。そして今では、自分の大切な人の最愛の相手だった。組織の一員として尽くすと心に誓ってはいるものの、複雑であることに変わりはない。それを知ってか知らでか、ボスの妻――赤羽コノハは、くすりと笑った。


「気にする必要なんてないでしょう? ダースが守ってくれますもの」

「それは――絶対ではありません。奥様……」


 冗談めかす彼女に、ダースはどこか苛立った声色で応える。

 二人に対して敵の数はその倍以上。この状況で冗談を口にできるコノハの精神が、ダースにはまるで理解が出来なかった。


 ため息をつきながら、戦況を確認する。

 正直なところ、増援がない限り勝利はあり得なかった。

 ある建物の中に身を隠しているが、それを取り囲むように敵は配置されている。


「これでは、ジリ貧です。どうか奥様だけでも――」

「それはいけませんよ。旧友を見殺しにして、私に逃げろと言うのですか?」

「しかし、この状況ではどうしようも……!」


 ダースの訴えに、首を縦に振らないコノハ。

 頑として譲らないその姿勢は、まさしくマフィアの妻として正しかった。だが、その正しさがダースにとっては苛立ち以外のなにものでもない。

 しかし、自身の上に立つ者の意見を無碍にもできない。

 そのことに舌を打とうとした――その時だった。



「ねぇ、ダース? もしも、私がいなくなったら――」



 不意に、コノハが窓の外を見て微笑んだ。

 そして何かを覚悟したように言う。






「ミレイのこと、守ってね?」







 その直後だった。

 部屋のドアが乱暴に開かれ、銃を手に持った男たちがなだれ込んでくる。ダースはとっさに銃を構えて、そして引き金を――。



「――――コノハ!?」



 それは、一瞬の出来事だった。

 鳴り響く数多の発破音と共に、ダースの前に出たのは――コノハ。

 彼女は微笑みながら、銃弾の雨に身を晒したのだ。そのことに怯んだのはダースだけではない。敵もみな瞬間に、なにが起きたのか理解できずに立ち尽くした。


 その最中に、ダースには見えた。

 彼女の口がこう動くのを。



『お願い、ね……? 私の宝物を、親友に任せます』――と。



 刹那にダースの中では何かが弾けた。

 声もなく銃を引き抜き、弾丸を打ち放つ。



「ああああああああああああああああああああああああああっ!」



 そして、直後に絶叫した。

 悲鳴にも近い声が、建物全体にこだまする。

 やがて出来上がるのは、真っ赤な血の海だった。



「コノハ、コノハ――!」



 すべてが終わり、ダースは親友の身を起こす。

 すでに息はなくしかし、口元には優しい笑みが浮かんでいた。そんな彼女の遺体を抱きしめて、ダースは大粒の涙をこぼすのだ。


 そして思う。

 思ってしまった。



『あぁ、よかった』――と。



 これで、自分は呪縛から解き放たれるのだと。

 愛憎という名の呪縛から、ついに解放される時がやってきた。



「あああ、ああああああああああああああああああああああああっ!?」



 だがすぐに、その邪悪な思考に気付き絶叫する。

 そしてある結論に至った。


「コノハは、私が――殺した?」



 それから十数年の間。

 彼は、その時の自責の念に苛まれることとなる。





 そして、それにも終わりがやってきた。

 ダースはその生涯を終えて、深い眠りにつく。

 すべてが終わった。自分の役割は、あの少年に任せた。


『――結局、私は何がしたかったのでしょう?』


 暗い闇の中で、ダースは思った。

 されども答えは出ない。


 きっとそれは、あの時の自分しか知らない。

 あの日、コノハの最期を目の当たりにした時の、邪な気持ちを抱いた自分だけ。


 だけども考えてしまうのだ。

 もしあの時に、もっと違う結末を辿っていたのなら――。



『それは、たられば、ね。どうしようもない、でも……』



 自分は、親友に顔向けできるのだろうか。

 願うならば最後にもう一度だけ、彼女に謝罪したかった。




 守れなくて、ごめんなさい。

 貴女の宝物を最後まで、守れなくて――と。




『ありがとう、ダース。もう十分ですよ?』

『え……?』


 そう思った時。

 不意にそんな声が聞こえた気がした。


 そして、完全に意識が消えていく瞬間に、その答えへと辿り着いた彼は――。



『あぁ、それなら。良かったわ……』



 大粒の涙を流しながら、笑みを浮かべたのだった。




◆◇◆




 中庭にある墓の前で、俺たちは手を合わせていた。

 そこに眠るのは大切な家族であり、ミレイの理想の母親だ。


「ダースは、満足してくれたかな」


 俺は面を上げると同時に、ミレイにそう問いかけていた。

 それはあの時の行動が最善だったのか、という憂いがあるから。要するに俺の中では、まだ後悔があったのだ。

 彼もまた、一緒に笑って生きる道があったのではないか、と。

 そう思えて仕方がなかった。


「大丈夫ですよ、ミコトくん」

「え……?」


 悩んでいると、力強いミレイの声がする。

 驚いて彼女の方を見ると、そこにあったのは慈愛に満ちた表情。

 ミレイは大きく深呼吸をすると、ダースの墓を撫でながらこう言った。


「きっと――」



 それは、憶測でしかないけれど。



「お母さんたちは、私たちの未来に賭けたんだと思います」



 そうではないか、と。

 不思議と腑に落ちる答えだった。


「だから、これで良かったんです。ダースは、それを分かっていました」



 すっと身を寄せてくるミレイ。

 俺はそれを受け止めながら、墓石に向かって小さく頭を下げる。


 そして、改めて誓いを立てた。



『貴方の娘は、俺が責任をもって守ります』――と。




 俺にはなんの取り柄もない。

 強いて言えば寿命が見えるくらいで、それ以外には何もない。



「そろそろ、飯かな? ――冷えてきたし、行こうか」

「そうですね!」


 ミレイにそう声をかけて、踵を返した。

 しかし、もう一度だけ振り返って、こう呟くのだ。





「いつの日か、またみんなで――笑おうな」




 静かに、それでも確かな決意を込めて。

 再会を誓ったその言葉は、いつの日かきっと果たされるだろう。








 俺はその日まで――最愛の人を守り続ける。




 


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました!

この話はここまでで終わりとなります。

ですが、完結にはまだ致しません。


番外編として、その後の彼らの暮らしを描いていければな、と。


そう思っていますので、よろしくお願い致します!!

<(_ _)>

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