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3.義理堅い少女






 ――数日前。

 俺はアレンに作戦を伝えた。

 それは、アレンが『裏切り者』だと伝えることで本物を炙り出す、そんな賭け。俺がアレンを呼び出し、あえて守りをがら空きにした。そう見せかけたのである。

 もちろん、ミレイは別の場所に隠れてもらって、だ。


『すべては、オレたちだけで――か』

『穴だらけの作戦だと思う。それでも、やるしかないんだ』


 この作戦は、アカネにも伝えていない。

 何故なら、僅かながら彼女にも疑惑があったからだ。

 それと同時に、本当の『裏切り者』へのアピールの意味もあった。本気で俺がアレンを敵だと誤認している、という誤情報の発信。


 あとは、どちらかが網にかかってくれることを祈る。

 本当に穴だらけの作戦だった。


『……分かった』

『いいのか、アレン?』


 それでも、俺の兄弟は頷いてくれた。

 思わず訊ねると、彼は微かに頬を緩めて言うのだ。



『オレは兄弟を信頼し、尊敬しているからな』――と。



 それは、少し意外な言葉だった。


『信頼、はいいとして……尊敬?』


 まったく想定外のそれに首を傾げると、アレンはこちらの肩に手を置く。

 そして、真っすぐな視線を俺の顔に向けるのだった。



『あぁ、尊敬だ。ミコトのような力があれば、もっとたくさんのことが出来たはず。それこそ私欲を満たすような、汚い使い方を。だがお前は、その力を純粋に――ミレイお嬢様のためだけに使ってきた』



 ――きっとそれは、並大抵の気持ちでできることではない、と。

 アレンは、俺の今までを肯定してくれた。


『………………ありがとう、アレン』


 すると自然、感謝の言葉がこぼれる。

 力を抜けば感情もこぼれそうになってしまったが、どうにか堪えた。それは本当に最後まで、『最期』のその時まで、我慢しなければならない。


 だから、笑った。

 ちゃんと笑えているか、自信はなかったけど。


『こちらこそ、だ。――兄弟』


 結局、どんな顔をしていたのだろうか。

 アレンは俺の表情を見て、歯を食いしばりながらそっと抱きしめてきた。彼の肩は震えている。だから、あやすように背中をポンポンと叩く。

 俺は自分のことを、つくづく幸福な男だと、そう思った。


 だって、こんなに想ってくれる人たちに出会えたのだから……。



◆◇◆



『すまない、兄弟――俺の責任だ』

「心配するな、アレン。すぐにそっちに向かうから!」


 無線の先からアレンの声がした。

 しかし、彼がダースを前に感情的になるのは、想定の範囲内。

 だから俺はすぐに、次のフェイズに移った。それは相手よりいち早く、ミレイのもとへとたどり着くこと。ここからは時間の問題だった。


「アカネ! ダースの動きは分かるか!?」

『いま、3階ですわ! 赤羽さんはどこにいますの!?』


 息を切らせて、俺は御堂邸の前までやってくる。

 これなら間に合いそうだ、と。俺はそう思いながらアカネへ伝えた。



「地下室、あの金庫の中だ!」――と。





 ――御堂邸管制室。

 アカネはミコトからの情報を受け取り、監視カメラの画面を切り替えようとした。しかし緊張からかその手は震え、思ったように作業は進まない。


「分かりましたわ。今すぐに――」


 それでも、それを表には出さないように彼女はミコトに語りかけようとした――その時。カチャリ、という音が彼女の後ろから。

 そして、聞き慣れた男性の声。


「あら、なにが分かったのかしら?」

「――――――!」


 背中にはなにか、無慈悲で冷たいものが突き付けられた。

 声の主は間違いない――ダース。彼は息を呑むアカネとは対照的に、どこか余裕を感じさせる声色でこう続けるのだった。


「どうやら、ミコトちゃんと繋がっているみたいね。それで、アカネちゃん? 貴女に訊きたいことがあるんだけど、答えてくれるかしら」

「…………………」


 彼女は何も言わない。

 だがしかし、ダースはそれでも構わないように、こう口にした。


「ミレイお嬢様は、どこ? ――教えてくれるわよね」


 弾丸を装填する音が、ガランとした管制室に。

 アカネは、思わず発狂しそうになる心を落ち着かせながら――不敵に笑った。そして肩越しに『裏切り者』を見つめながら、こう言う。



「残念ですわね。わたくし、こう見えて義理堅いんですの」――と。



 それは、紛れもない拒否の意思だった。


「そうなの。残念ね」

「えぇ、本当に残念ですわ」

「ならもう、貴女に用はないわ」


 淡々としたやり取りの後。





 管制室では、少女の悲鳴がこだました。




 


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