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1.裏切り者は……?






「悪いな、アカネ。変なことに巻き込んで……」

「構いません。むしろ、ここで手を貸さなければ気が済みませんわ。それに、わたくしも無関係ではないですから、ね」


 実家を離れた俺は御堂邸に身を寄せていた。

 それはミレイやアレン、そしてダースも同じくだ。少しばかりの気後れはあったが、素直に甘えさせてもらうことにする。

 あのまま同じ場所に留まっていては、いつ襲撃を受けるか分からない。

 その点で御堂邸なら、セキュリティも整っているし、最適だった。


「それで、あの話は本気ですの……?」

「あぁ、本気だよ。本当はこんな手を取りたくはないけど――学校が休校になってる間に片付けないと、ミレイの生活に支障も出る」

「本当に、赤羽ミレイが基準なんですのね。ミコトは」

「ははは、それほどでも!」

「褒めてはいませんわ……」


 だだっ広いリビングで今後について話し合っていたのだが、何故か呆れられてしまった。俺の話はそんなに変だったのか、自分では分からずに首を傾げてしまう。

 そうしているとアカネが咳払い一つ。

 真剣な表情で、こう言うのだった。


「でも、もしかしたらミコト自身が危険な目に遭うかもしれませんわよ?」


 それは俺の覚悟を問うようなもの。

 昨夜遅くに、俺はアカネにある作戦を伝えた。その内容を驚きをもって迎えた彼女は、最後にそう確認する。

 不安が大きいのだろう。

 しかし、それを打ち消すように俺は笑ってみせた。



「大丈夫だよ。きっと、後悔はしないから!」



 そして、そう告げる。

 もう迷いなんてなかった。あるはずがない。

 俺の命はあの日から、あの子のために捧げられているのだから。



◆◇◆



 ――御堂邸の正門前。

 ダースは、そこで番をしていた。

 集中を切らさない彼に、労うように俺は声をかける。


「お疲れ様、ダース」

「あら。ミコトちゃん? どうしたのかしら」


 すると、彼はその顔にいつもの優しい笑みを浮かべ、こちらを出迎えた。ミレイも彼のことは母親代わりだと、そう語っていたが、偽りはないように思われる。

 慈愛に満ちたその表情は、マフィアである以前に、一人の人間としてのそれだ。

 そんなダースに、俺はやや遠慮がちにこう言う。


「いや、ちょっとだけ。ダースと話をしておきたいと、そう思ってさ」


 彼にはたくさん訊きたいことがあった。

 ミレイのこれまで、そして彼女の両親のこと。さらには、あの日に見せてもらった写真に映る光景について。たくさんの、知りたいが詰まっていた。

 今日はその中でも、最も重要なことを訊ねることにする。


「ダースにとって、ミレイはどんな存在なんだ?」

「ミレイお嬢様のこと、ね」


 それは、彼の娘といっても過言ではないミレイについてのこと。

 ダースはあの子のことを、どう思っているのか。

 俺はそれが知りたくて仕方なかった。


「そう、ね――」


 彼はこちらの質問に、少しだけ悩んだ後にこう答える。



「敬愛するボスの愛娘。最初は、そう思っていたわ」――と。



 ゆっくりと、言葉を選んで語り始めた。


「以前に写真を見せたけど、私たち――ボスとお嬢様のお母様、そして私は学友だったの。中でもボスと私は幼馴染みでね? 彼の家のことは、昔から知ってたわ」


 そこで一度、言葉を切ってから彼は目を細める。

 昔を懐かしむように。そして――。


「そんなある時に、あの人が留学してきた。色々あって、仲良くなるにはそれほど時間は必要なかったのよ。それと同時に、ボスが彼女を好きになるのも、ね?」

「いまの俺が、ミレイを好きになるみたいに?」

「ふふふ。ミコトちゃんほど、急激ではなかったけどね」


 そんな彼に問うと、冗談めかしたように笑った。

 でもすぐに、深く息をついて続ける。


「私が二人を守ろうと思ったのは、自然な流れだったわ。ただ、ある抗争の中で彼女は亡くなって――産まれたばかりのお嬢様と、失意に暮れるボスが残された。それから、少しずつ『イ・リーガル』の内部がギクシャクし始めて、私たちは逃げることになったの」


 ――だから、お嬢様はご両親の顔をほとんど知らないの、と。

 少し寂しそうに、胸に手を当てて。


「でも、こうやって日本にやってきて良かったと思うわ」

「ん、それってどういう……?」


 話はそこで終わりかと、俺は話しかけようとした。しかし、不意に笑顔を向けられて首を傾げる。するとダースは、頬に手を当てて呆れた。

 そしてふっとため息をついて……。


「これは、お嬢様も大変ね」――と。


 そんな、よく分からないことを言うのだった。

 頭上に疑問符を浮かべるこちらを、彼はくすくすと笑う。


「いつか分かればいいの。それが、いつかにもよるけど、ね?」


 さて――と。

 話はここまで、といった風にダースは口にした。

 どうやら、そろそろ本題に入ろうと、そういうことらしい。


「それで、ミコトちゃん? ――例の作戦は、今夜なのね」


 声のトーンを落として、真剣な表情になりそう言った。

 俺はその言葉に頷く。そして、こう告げた。



「あぁ、今夜こそ決着をつける。『裏切り者』は――」




 固唾を呑んで、その名を口にする。








「アレンだ」――と。



 


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