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8.保健室に現われた者






 保健室にやってくると、担当医の先生が対応してくれた。

 それでもやはり応急処置程度しか出来ないらしく、救急車を呼ぶと言って外へ出て行ってしまう。結果として俺とミレイだけが、そこに残されることとなった。

 グラウンドの喧騒を聴きながら、息を殺すようにしてベッドに腰かける。


 ――残り10分。


 ミレイの寿命を確認して、一つ息をついた。

 彼女を殺すのならば、いまこの部屋で、というのが定石だろう。もっとも、それは犯人が人目につきたくないという条件にのみ限られるが……。


「ミコトくん。そんな怖い顔して、どうしたのですか……?」

「あ、いや。なんでもないよ、気にしないで」


 そうしていると、ミレイが不安げにそう訊いてきた。

 どうやら顔に出ていたらしい。無理矢理にではあるが、俺は笑みを浮かべて答えた。しかし彼女は申し訳なさそうに頭を下げて、こう言うのだ。


「ごめんなさい。私が転んだせいで、せっかくの練習が……」


 それは、競技で負けてしまったことに対しての謝罪。

 きっとミレイは、ずっと一緒に練習をしてきた俺に申し訳ないのだろう。そして、他のメンバーに対しても。でも俺は、そんなことを気にしてはいなかった。

 何よりも、いま苦しんでいるのは間違いない――ミレイだから。


「大丈夫だよ。きっと、みんな許してくれるって!」

「でも、ミコトくん。あんなに練習したのに……」


 涙目になってそう口にする彼女の頭を撫でて、俺はこう言った。


「気にしない気にしない! 俺も十分に楽しかったから! それに――」


 心からの、誠意を込めて。




「ミレイと一緒なら、俺はなんだって嬉しいんだよ」




 それは俺の真っすぐな気持ちだった。

 ミレイはその言葉にハッとしたような表情になって、目を細める。


「ミコトくん……!」

「お、っと……」


 そして、ぽすっと、俺の胸に軽く顔を埋めた。

 受け止めた俺は彼女の足に響かないように注意して、優しく抱きしめる。そうすると、やはり思うのだ。理屈など関係なしに、俺はこの子のことが好きなのだ、と。

 守りたい。なにがあっても、守ってみせる。


 改めて、そう心に誓った――その時だ。




「きゃあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」




 悲鳴が聞こえた。

 それは女子生徒のものだろう。

 ちょうど保健室の前で上がったそれに瞬間、身を固くする。


「ミコトくん、今のは……!?」

「静かに、ミレイはここにいるんだ!」


 俺は怯える少女に指示を出して、音をたてないように立ち上がった。

 少し早くないか。思って、ミレイの寿命を確認した。


「あと、5分か……」


 やっぱり、変化はない。

 そうなると、今の悲鳴は相手方の失策の可能性が高かった。


「いや、決めつけるな。考えろ……!」


 そう考えた瞬間だ。

 保健室の扉が、乱暴に開かれた。するとそこに立っていたのは……。


「なんだ、アイツは……!?」



 全身を黒で統一し、顔に般若の仮面を付けた筋骨隆々な男。

 右腕に一人の女子生徒を拘束し、左手には刃渡り10センチ以上の刃物を持っていた。下卑た笑い声を発しながら、そいつはゆっくりとこちらへやってくる。



 俺は唾を呑み込み、手元にあったハサミを掴んだ。

 ここでミレイを死なせるわけにはいかない。


「かかってきやがれ……!」



 自分を奮い立たせるように。

 俺は、そう小さく言葉を吐きだした。


 


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