プロローグ 消えた大切なもの
※こちらは「聞いた蝉の鳴き声は思い出の結晶」のアナザーストーリーとなります。そちらをご覧になってからお読みになることをお勧めします。
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雨も降ってない快晴の日。葬式には似つかわしくない天候だった。
もしかして神様は大切な人を失った俺を見て喜んでいるのだろうか。
俺は大切な人が入った棺の前でどうすることも出来ない。
ただ、頭の中の勝手な妄想に対して叫ぶ。
ーー「亮太、和正をお願い」ーー
「頼む、行かないでくれ」
ーー「私ももっとたくさん生きたかった」ーー
「早すぎるじゃねえか」
これからだったのに。
「俺一人でどうすればいいんだよ」
これから、三人で思い出を作ろうって思ってたに。
「一緒に決めたじゃねえかよ。和正は二人で見守るって」
これからたくさん、家族で過ごそうと思ってたのに。
「だから、頼むから生き返ってくれよ」
今日のためにお前を祝うことを和正と一緒にたくさん考えてたのに。
なのにどうして・・・・・・こんなことになるんだよ。
それに俺たちには・・・・・・
「それに俺たちにはまだ、やってないことがあるじゃねえか。約束が・・・・・・あるじゃねえか」
ーー「約束・・・・・・そうだ、三人で約束したのに」ーー
「俺と友和とお前で埋めた万華鏡、まだ掘り起こしてねえじゃねえか!」
ーー「ごめんね」ーー
「ああああああああああああああああああああああああああああ」
大人気なく泣き叫ぶ俺のズボンの裾を引っ張る和正。
「ねえ、お母ちゃんは?」
「・・・・・・」
「ねえ、お父ちゃん」
「・・・・・・」
「どこに行ったの?お母ちゃんがどこにもいないよ?」
「なあ、和正」
「ん?」
「お前も見ただろ。お母ちゃんが倒れているのを」
「見たけど、でも治ったんでしょ」
誰がそんなこと言ったんだよ。
「死んだ・・・・・・もうこの世にはいないんだ」
「で、でもおじさんが元気になるって」
友和のやろうか。人の気持ちも考えないで適当なこと言いやがって
「ねえ、もう帰りたい。早く帰ってお母さんの誕生日を祝おうよ」
「ちょっと黙ってろ」
それはダメだろ。
「もう、祝う必要なんてないんだよ。和正」
「どうしてなの!」
「もう、お母ちゃんはどこにもいないんだ」
それは言っちゃいけないだろ
「う、うぁ、ああ、わあああああああああああああ」
和正が俺の隣で大泣きする。
俺はまだ五歳の息子を慰めようともせず、自分の悲しみに浸っていた。
俺は何言ってんだろ。
本当にバカだな。
父親としても、男としても、俺は失格の人間だ。