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アングレカムの花言葉  作者: 豆大福
9/59

ツルニチニチソウⅢ - side アン -

※アン視点

※サブタイトルを修正しました。

 縁さんと別れた私はカタコトと走る馬車の中、昨日の出来事を思い出してはふふっと思い出し笑いをしてしまう。


 体調を崩しがちでほとんど部屋から出られず、毎日同じような日常を繰り返してきた私にとって町に出られる日はそれはもう心踊ったものだが、今回は今までのどれよりも経験したことのないようなものばかりだった。

 刺激を与えてくれた縁さんには本当に感謝してもしきれない。


 次にいつ町へ行けるかはまだわからないが、私にとってスパイスのような存在である彼が今度はどんな新しいものを私に見せてくれるのか楽しみで仕方がなかった。

 彼の国の話ももっと聞いてみたい。

 早く次が来ないものだろうかと私は次に彼に会える日を待ち遠しく思った。



(そういえば、帰り際にマリエッラがなにやら縁さんとお話をされていたようだったけれども、何を話していたのかしら?

 後でそれとなく聞いてみようかな。)



 楽しいことを思い出していると長かったはずの帰り道もあっという間で私の目の前に見慣れた宮殿の姿が広がる。

 私はお父様とお母様にこの楽しさをどう伝えようかと頭の中ではそればかり考えていた。


 だが、私はあまりの楽しさに忘れてしまっていたのだ。

 自分がどれだけ両親に心配をかけたかを。


 宮殿内に入れば心配していたと言わんばかりにお母様が私に抱きついてきて、その後ろで私をじっと見ているお父様もホッとしたような表情をしている。

 ただでさえ二人には苦労をかけているというのに、私は自分勝手な行動で彼らを余計不安にさせてしまったことを思い知った。



「ご、ごめんなさい・・・お父様、お母様。」


「もう良いのです。あなたが無事に帰ってきただけで・・・

 けれども、もう無断で抜け出すようなことだけはしないで。

 あなたにもしものことがあったら私は心配で心配でおかしくなってしまいます。」


「母様の言う通りだよ、アン。君にもしものことがあってからでは遅いんだ。

 私たちは何も外に出るなとは言わない。ただ、もっと自分の体を大事にしてもらいたいんだ。

 わかってくれるね?」


「はい・・・申し訳ありませんでした・・・」


「わかってくれたのなら良かった。さあ、疲れただろうから今日はもう部屋に戻りなさい。」


「あ、あのっ!!私、お父様とお母様に聞いてもらいたい話があるの。

 少しでいいからお話する時間を用意してはいただけませんか?」


「・・・わかった。後で部屋に伺うことにするよ。」


「はいっ!!」



 それから私はマリエッラと共に自分の部屋へと戻ってきた。

 部屋の中に入れば、先ほどのお母様と同じようにメイドのナーディアが飛びついてくる。

 思えば、彼女にお茶を頼んだ直後に部屋を抜け出したので、私が部屋から居なくなって一番慌てたのは彼女だったはずだ。

 私が居なくなったことに一番に気付いたであろうナーディアは私から目を離したことで周囲からお叱りを受けたはずだし、たくさんの心配と迷惑をかけてしまったに違いない。


 私は私の行動一つで親しい人たちを傷つけてしまうのだということを知った。



「ナーディア、ごめんなさいね・・・」



 私がナーディアを強く抱き返すと、彼女も応えるかのようにギュッと抱きしめる。

 もうこれ以上の心配はかけてはいけない。

 私は彼女たちから笑顔を奪わないように心がけようと心に誓った。


 寝巻きに着替えて、一人で寝るには広すぎるベッドに横になると次に待ち受けていたのはマリエッラの説教。

 彼女も町中を走り回って私を探してくれたに違いない。

 ガミガミと口うるさい説教を聞かないわけにもいかず、私は自分の行いをさらに反省することとなった。


 それから程なくして私の部屋に久しぶりにお父様とお母様が来てくれた。


 普段は二人とも忙しくて食事の時くらいしか顔を合わせることもないくらいだが、私はどうしても町であったことを話したくて、つい我が侭を言ってしまったのだ。

 わざわざ時間をつくってくれたことに申し訳ない気持ちは少なからずあれど、それでも町に行ったことが悪いことばかりではなかったのだと知ってもらいたかった。


 私にとって彼との出会いはきっと運命的なものだったから。


 私は昨日の出来事を思い出しながら、二人に私の楽しかったという気持ちが伝わるように彼、木村縁との出会いを語った。

 見慣れない格好に、聞いたこともないような単語の数々、私を助けようと頑張ってくれたことも。


 私は自分が今どんな顔をしているのかはわからない。

 だけど、きっと良い表情をしていたのだろう。

 二人の私を見る目は曇り一つない、とても優しげで嬉しそうな表情だったから。


 こんなに喋ったのはいつ振りだろうか。

 私は私が思っていた以上に昨日が楽しかったのだということを感じた。



「そういえば、マリエッラは帰り際に縁さんと何を話していたの?」


「あれですか。あれは情けないのにかっこつけたがりの阿呆を煽っただけです。」

ツルニチニチソウ ≪楽しき思い出≫

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