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アングレカムの花言葉  作者: 豆大福
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ネモフィラⅠ

※主人公視点

※2018年9月7日一部修正しました。

※サブタイトルを修正しました。

「ご心配をおかけしまして本当に申し訳ありませんでした。」


「そ、そんな!!僕がもっと気遣ってあげられたら良かったんです。

 無理をさせてしまって真に申し訳ありませんでした!!」



 入室の許可が下りたので、僕とマリエッラは順番に部屋の中へと足を踏み入れたのだが、まさか開口一番に謝罪されるとは思わず、驚きを隠せない。

 先に謝ろうと思っていたのに、どうやら彼女に先を越されてしまったようだ。

 僕はワンテンポ遅れて深々と頭を下げるほかなかった。


 下げていた頭を上げれば、ふわりと笑みを浮かべるアンと目が合う。

 顔色は良いとは言えないものの倒れた直後の青白い肌と比べれば少し赤みが戻っている。

 そのことに僕はほんの少しだけホッとした。


 だが、同時に上半身はベッドから起き上がらせているものの、まだベッドから完全には起きられない彼女の姿に事の重大さが今になって重く圧し掛かってきてもいた。



「そんな深刻そうな顔しないでください!

 そもそもあの場所へ行きたいと行ったのは私なのですから、縁さんが責任を感じる必要はないのですよ。

 全ては私の自己管理能力の低さが招いた事態ですから。」


「で、でも!!

 僕が貴女の手を引かなければここまでの事態には陥ってません。

 何一つ責任が無かったとは、思えない!

 あ、思えません!」


「敬語じゃなくて大丈夫ですよ。今まで通り話してください。

 …縁さんが私を連れ戻そうとした衛兵から助けてくれようが、くれまいが私はきっとあの場所に向かっていたはずです。

 どちらにせよ、私は今と同じ状態になっていました。

 それに私は本当に感謝しているんです。縁さんがいてくれたおかげで今日は本当に楽しかったのですから。」



 自分の犯した失敗に悔やむばかりだった僕はアンの言葉に必死に耐えていたはずの涙がじんわりとまた出てくるのを感じた。


 彼女が今どれだけ辛いのか僕には分かってあげられない。

 それなのに彼女は気丈に振舞って、僕なんかのことを気遣ってくれる。

 なんて強く、そして優しい女性なのだろう。



「それでも言わせてほしい。

 僕は僕の自己満足のために君を苦しめてしまった。

 本当にごめんなさい。」



 ようやく伝えたかったことがちゃんと言えた。


 だが、自分のためにやったと知ったら彼女はどう思うだろう。

 僕は下げた頭を上げるのが怖くなった。

 次に見る彼女の顔はもしかすると深く傷ついた表情かもしれないから。


 しかし、そんな心配はいらないとでも言うように彼女の声が僕の頭上に響く。

 


「はい、許します!

 だから縁さんにそんな顔をさせてしまった私のこともどうか許してください。」


「えっ!?は、はい…許します!!」



 先ほどまで出そうだった涙はどこへ行ったのだろう。

 あっさりと許してくれた彼女に気がつくと僕の出掛かっていた涙は引っ込んでいた。

 

 僕の言葉に嬉しそうに微笑む彼女を見て、ああ良かったと心から思えた自分がいる。

 気がつけば、僕は彼女と自然と笑い合えていた。



「お二人の世界を邪魔するようで申し訳ありませんが、そろそろ私も話していいでしょうか。」


「あ、すみません。」


「ごめんなさいね、マリエッラ。

 すっかり忘れていました…」


「はぁ~…ひとまず姫様は花畑を見たくて病み上がりにも関わらず宮殿から抜け出して衛兵に連れ戻されそうになっていたところ、縁殿と出会い、彼と一緒に行動していたと。

 で、縁殿は自己満足のための正義感で姫様を救おうとし、姫様がどうしても花畑に行きたいというから連れて行ったということでよろしいですね。」


「はい~」


「自己満足のための正義感って…間違ってはないけど、改めて言われるとなんだかな…。

 というか、あれ?僕名乗りましたっけ?」


「あれだけ姫様に”縁さん”と呼ばれていたら嫌でも覚えますよ。」


「そ、そうですか。

 では改めて、木村縁と申します。」


「ご丁寧にどうも。

 私はマリエッラ。アン姫様の身の回りの世話はもちろん、身辺警護もさせていただいております。」


「マリエッラはなんでも出来て凄いのですよ!!

 小さい頃からお世話になりっぱなしで、私にとっては姉のような存在です。」


「勿体無きお言葉です。

 ですが、姫様。今後は今回のように急に宮殿を抜け出したりはしないでくださいね。

 ただでさえお体が弱いのに、突然いなくなられたりしたら心配で心配で…。

 申し付けてくだされば、私どもが姫様をお連れいたしますのであまり勝手な行動は控えてくださいまし。」


「す、すみません。以後気をつけます。」



 ペコペコと謝っているアンの姿はとても一国のお姫様とは思えないほどに低姿勢だ。

 本来であればそう簡単にはお近づきになれない存在であるはずが、不思議と親しみやすさがある。


 そういえば、と僕はアンがこの国のことを教えてくれた時のことを思い出す。

 アリウム王国は小さな国だという話だったので、もしかしたらそれも関係しているのかもしれない。

 となると、国を統べる国王なんかもあまり王様っぽくないのでは?と僕はまだ見ぬ国王を想像せずにはいられなかった。



「ところで、縁殿はこれからどうするのだ?」


「えっ?」


「見たところ我が国の者ではないようだし、どこか当てはあるのか?」


「あ、そういえば僕これからどうなっちゃうんでしょう…!?」


「それを聞いているのはこちらだ…」


「なら城に来ていただくのは如何でしょうか?

 まだまだ縁さんの国のお話も聞いてみたいですし!」


「却下です。いくらなんでも素性の知れない人間を置いてはおけません。」


「異国からの旅人ってことにすれば?」


「それだけで国王様や王妃様を納得させられるとでも?」



 そういえば、目の前のことでいっぱいいっぱいでこれからのことなんて全く頭から抜け落ちていた。


 どうしましょうか、と二人だけで話を進めているが、僕自身も内心とても焦っている。

 気づいたらアリウム王国にいたので、これから先住むところもお金も当然のごとく何もない。


 というか、一度死んだはずなのにどうして生前のままの姿なのか。

 これならアリウム王国の住人として新たに生を受けた方が良かったとさえ思う。

 神様は僕に一体何を望んでいるのだろう。


 確かに日本で何も出来ずに死んだから、何か一つでも成し遂げられるような人生を送りたいとは思っていたが、住むとこ探しからしなければならないなんて誰が想像しただろう。

 アンとの一件で町の人たちとも関わりにくい雰囲気になってしまったのに一体どうすればいいのか。


 まさかのホームレス生活!?

 僕は神様に試されているのかもしれない。



「…神様は、残酷だね……」


「縁さん御気を確かに!?」


「どうしましょう姫様ぁ~、まさかの僕ホームレスです…」


「ホ、ホームレス????」



 まだ何もしていないのに、真っ白に燃え尽きたかのような感覚だ。


 さようなら、僕の人生。

 もう本日何度目になるだろうかわからない迫り来る危機に僕は早くも諦めかけた。


 だが、捨てる神あれば拾う神もある。

 


「なら、ここに住めばいい。」



 お先真っ暗の状況の中、救いの手を差し伸べてくれたのは花屋の店主だった。

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