サネカズラ
※主人公視点
※2018年9月12日一部修正しました。
翌日、僕は再び宮殿へと足を運んだ。
エルベルトさんも言っていたが、動くなら早い方がいい。
今行動に起こさないと僕の決心は鈍ってしまいそうだし、アンやマリエッラとの間に出来てしまった溝も深くなるばかりだと思ったからだ。
僕はエルベルトさんに頼んで町を抜ける手前まで荷馬車で送ってもらい、そこから先は自分の足で歩いた。
徒歩で1時間前後くらいの道のりだろうか。
その間に僕はどうやってマリエッラを説得しようか考えていたのだが、それよりもまず門を通してもらえるかどうかが大きな問題だ。
もし昨日のことで出禁にされていたら説得どころではない。
さすがに不法侵入するわけにもいかないので、門番さんにまずマリエッラに取り次いでもらってその場で説得を…。
いや、門番さんが僕の話すら聞いてくれなかったらどうする。
いけない。
あれこれマイナスの方向にしか考えられなくなってきてるぞ。
そうこうしているうちに僕は周りが大自然で囲まれた宮殿の入口へと辿り着いてしまった。
こうなってはもう覚悟を決めるほかあるまい。
僕は意を決して門番さんに話しかけに行った。
だが、僕の覚悟はまるで無駄だったかのように門番さんは僕に気がつくとあっさりと通してくれた。
あまりにもすんなりと通してもらえたので、こちらは呆気に取られるばかりだ。
幸いとでも言うべきか僕はまだ出禁にはされていなかったらしい。
門番さんはいつものように僕に軽い挨拶を交わすと中へと入れてくれた。
昨日の今日だったから根回しがまだだったとか?
それとも僕が考えすぎていたのか。
なんにせよ、門を突破したからには僕が次にするべきことは決まっていた。
僕はこれから最も説得が難しいであろうマリエッラを相手にしなくてはならない。
僕は近場にいたメイドさんに言ってマリエッラを呼び出してもらうことにした。
それから待つこと10分前後と言ったところだろうか。
僕の目の前に険しい顔つきのマリエッラが姿を現した。
マリエッラはメイドさんにお茶の用意を頼むと、ここで立ち話をするわけにはいかないからと僕を以前王妃様と話をさせてもらった応接室へと案内する。
表情を見る限り歓迎はされていないようだが、一応お茶を出してくれるあたり客人としての扱いはしてくれているようだった。
マリエッラはスタスタと歩いてソファーに腰掛けると入口で立ち尽くしている僕を見て「お掛けください」と一言声をかけ、テーブルを挟んだ向かい側に僕を座らせた。
それからしばらく僕らは無言を貫いていたが、メイドさんが運んできてくれたお茶を一口口に含み、一息ついたところでマリエッラがようやく口を開く。
「何をしに来たのですか?
昨日言いましたよね、姫様にはもう関わらないでくださいと。」
「そうですね、言われました。その上盛大なビンタも食らいましたとも。」
「ならもう帰ってくれませんか。」
「嫌です。ここで引くわけにはいきません。」
「今まで散々目を背けてきたくせによく言えたものです。」
「そうですね…僕は向き合うことから逃げてました。
多分、認めたくなかったんです。彼女がもうすぐいなくなってしまうことを。」
「…なら、尚のことこれ以上関わらない方が貴方にとっては良いことなのではないですか?」
「そうかもしれません。けど、それ以上に僕は嫌なんです。
僕の知らないところで彼女がいなくなってしまうことが。だから、僕はもう迷いません。
お願いです。もう一度だけチャンスをくれませんか?」
「その言葉を、簡単に信じられるとお思いですか?
貴方の嘘がどれだけ姫様を傷つけたかわかっているのですか?
いつどんな時だって気丈に振舞われていた姫様があんなにも悲しむ姿は私ですら今まで一度も見たことがありませんでした。
それだけのことをした貴方を私は簡単には信用できません。」
僕を射抜くかのように鋭い眼差しとハッキリとした口ぶりのマリエッラに僕は自分の気持ちがガクンと落ち込むのがわかった。
やっぱりマリエッラを説得するのは一筋縄ではいかないようだ。
たった一度の失敗で、いや、それより以前から僕は何度も失敗を重ねてきたけど、どうやら今回ばかりは本当に信用を失ってしまったらしい。
それもそうか。
今までどんなに僕がやらかしても笑って許してくれたアンが今回はあんなにも泣き崩れていたのだ。
アンを大切にしている人たちが許してくれるはずもない。
僕はやっぱり甘えていたのだろうか、どんなミスをしても許してもらえると。
結局自分のことしか考えていなかったのかもしれない。
僕はいつかのように自分の下唇に己の歯を立てる
己の弱さを噛み締めるかのように。
だが、甘噛みしたところでそれじゃあ今までと何も変わらないことを思い出して下唇に立てた上歯をそっと離す。
そうだ、僕は決めたじゃないか。
ちゃんと向き合うって決めたからにはここで引いたらダメだ。
どんなにめちゃくちゃだろうが何だろうが言葉を紡いでやる。
「……前に僕にこう言ってくれたのを覚えてますか?
『己の弱さを知ったのなら、次はお前にしか出来ないことを探せ。
そして、今度こそ姫様の力になって差し上げればいい。』って。」
「言いましたが、それがどうしたというのです?」
「僕は今回のことで自分がどれだけ無力な人間だったかを痛感しました。
今までだって自分の情けなさを嘆くことは何度だってあったけど、それは僕が自分のしたことを勝手に悔いて、自分の中で悶々としてるだけだったから周りの人たちに心配をかけることはあっても誰かの迷惑にはなってなかったと思います。
けど昨日、目の前でアンに思いの丈をぶちまけられて僕の言葉が、態度がこんなにも簡単に誰かを傷つけてしまうものだったんだって思い知らされた。
僕は何も言い返せなくて、気の利いた言葉の一つも彼女にかけてあげられなかった。
それどころか、国王陛下や王妃様、マリエッラたちがアンのためにやってきたことを全部無駄にしてしまうようなものだった。」
「………」
「謝ったからって一度失った信用はどうにもならないことはわかってる。
でも、だからってここで引いてしまったら僕はずっと弱いままだから。
僕にできることで償っていきたいんだ!!
僕だってまだ僕自身のことを100%信じてあげられてるわけじゃない。
それでも僕は僕にしかできないことで彼女を支えてあげたいと思うから。
だからお願いです、アンの傍に居させてください。」
僕は拳を太ももの上に押し付けるように置いて、深々と頭を下げた。
「僕のしたことがアンをどれだけ傷つけてしまったのか、それは僕が彼女ではないからその全てを理解してあげることはできない。
それでも、歩み寄らなければ何もわからないままです。
彼女が僕に何を望んでいるのか、僕が彼女に何をできるのか。
僕は彼女の傍で彼女のためにできることを見つけたい!!」
「…だから信用しろと?」
「別に信用してもらおうってわけじゃない。ただ、傍にいることを許してもらいたい。」
「そう言っておいて現実から目を背けたくなったらまた逃げ出すんじゃないですか?」
「その時はまたぶん殴るでも、その腰に差してある剣で斬るでもなんでもしてもらって構わないです。」
「殴るはともかく、口約束を破ったくらいで剣で斬るだなんてそこまでのことは流石の私でもしませんよ。
はぁ~……これが最後のチャンスだと思ってください。」
「…!!ありがとうございます!!!」
「別に貴方を認めたわけではありません。
ただ、せっかく姫様に心を許せるお友達が出来たのに、このままお別れというのも可哀想ですから。
でも、一筋縄ではいかないことくらいは覚悟しておいてくださいね。」
「はいっ…!!」
「一筋縄ではいかないというのは仲直りのことだけじゃありませんよ。
あの方を傍で支えるということは、その痛みも苦しみもすべて見ることになります。
正直言ってキツいですよ、日に日に弱っていく姫様を見守るのは。」
「……それでも最期まで見届けると決めたから。」
「その覚悟が揺るがないことだけを祈ります。」
そう言うとマリエッラはもう冷め切ってしまったお茶を口に含んだ。
その姿に僕もお茶の存在を思い出したかのように目の前に置かれながらもまだ手をつけていなかったティーカップに口をつける。
なんだかんだで緊張していたのだろうか、カラカラになっていた喉をお茶が潤していくのを感じた。
サネカズラ ≪好機をつかむ≫




