ダリア
※主人公視点
「おまっ!?どうしたよ!?ずぶ濡れじゃねーか!!」
あれからずぶ濡れで戻った僕にエルベルトさんは驚いて、タオルだなんだと慌てて大変だった。
バタバタと慌しく階段を登って、戻ってきたかと思えば手には真っ白なタオルが握られており、強引に髪を拭かれる。
タオルの柔らかさを感じる暇もないまま、わしわしと拭く手つきは力任せで少し痛い。
けれども、本気で心配されているのは伝わってきた。
「だ、大丈夫です!自分で拭けますから。」
「そうか。なら、ちゃんと拭いとけよ。でないと風邪ひいちまうからな。」
「…はい。」
「今日はもう店のことはいいから、後で風呂屋にでも行って体温めてこい。」
タオルで顔を覆うように隠し、泣きそうになるのを必死に堪える。
ここに来てから泣きたくなるようなことばかりだ。
僕は濡れた前髪と一緒に目元に滲んだ涙を拭き取り、必死に心を落ち着けようとした。
それから濡れた体を大雑把に拭いたところで僕は言われたとおりに近くにある大浴場へと向かう。
ここに来た当初はだいぶ昔の町並みだったので、果たして入浴手段はあるのか不安に思うこともあったが、ありがたいことに風呂屋があったのでほぼ毎日のようにお湯に浸かることが出来ている。
思っていたよりもみんな身だしなみには気を遣っているらしい。
風呂屋に着くと軽く体を洗い、真っ白な湯気が立ち込める湯船にゆっくりと浸かった。
濡れて冷えてしまった体がぽかぽかと温まり、先ほどの冷たさが嘘のように体温も戻っていく。
けれども、体は温まっても心までは温まることはなく、僕の心は沈んだままだった。
「…ただいま戻りました。」
「おう。しっかり温まったか?もう今日は店仕舞いにして、飯にしよう。」
風呂屋から戻るとすでに温かい食事が用意されていた。
フィオーラさんが作ったクリームスープを口に含むと喉の奥に温かさがじんわりと染み渡る。
エルベルトさんもいつになく優しくて、おかわりをよそってくれたり、おかずを分けてくれた。
エルミリアは大丈夫とでも言うように左手をぎゅっと握ってくれていた。
理由を聞き出すでもなく、ただただ寄り添ってくれることが嬉しくて僕はまた泣きそうになる。
「おいおい泣くなよ。」
「まだ泣いてません!!けど、駄目ですね。
すっかり涙もろくなっちゃって…僕もう年かも…」
「お前まだまだ若いだろーが!!
お前が年寄りだったら俺どーすんだよ!?ジジイどころの話じゃねーよ!!」
「…ぶっ!ははっあははははは…」
「???パパおじいちゃんなの?」
「エ、エルミリア!?」
「エルミリア、エルベルトさんはもうおじいちゃんなんだって。
だからこれからはパパじゃなくておじいちゃんって呼ぼうね。」
「おまっ!?ふざけんなよ!!
エ、エルミリア~パパはおじいちゃんじゃないぞ。
おじいちゃんはアイツだ!」
「僕まだ10代ですから、おじいちゃんになるのは随分先ですよ。」
「お前が自分のこと年寄りだなんだ言ったんだろうが!!」
何気ない会話が楽しい。
僕はこの人たちに拾われて心の底から良かったと思った。
ダリア ≪感謝≫