バラ(オレンジ)
※主人公視点
せっかく国王陛下からお許しをもらったので、僕はアンにお見舞いの花を届けることにした。
とはいえ、僕には花の知識はまだほとんどない。
そこでアドバイザーとしてエルベルトさんに花を選んでもらうことにしたのだが…
「なんで俺に聞く?」
「いや、エルベルトさん花に詳しいでしょ?」
「この間のはたまたまだと言ったはずだ。」
「お願いですよ!!今回だけ選ぶのを手伝ってください。」
「知るか!!」
「えええええ!?花屋が仕事放棄していいんですか!?」
「お前は客じゃない。」
「そんなぁ~…」
というわけで、僕は自分でアンに届ける花を選ぶことになった。
届けに行くのは花屋とは逆方向の町の外れに配達しに行く丁度一週間後。
配達ついでにエルベルトさんが宮殿の近くまで送ってくれることになった。
それまでに僕はどんな花を届けるべきかしっかり選ばなければならない。
「んー…見舞いって言ったらどんな花だろう?」
店にあった植物図鑑を手に取り、ペラペラとページを捲りながらああでもないこうでもないと頭を抱えるが、なかなか”これ”という花が見つからない。
とりあえず、見舞いに鉢植えがNGであることは僕の世界でも言われているので、やはり花束だろう。
鉢植えの根付くが寝付くを連想させることから見舞いの品として持っていくのがタブーとされているのは有名な話だ。
「んー…んん~…んんんんんんん」
「んーんー唸ってどうしたの?」
「あ、フィオーラさん!!」
悩める僕に救いの手を差し伸べてくれたのはエルベルトさんの奥さんであるフィオーラさんだ。
王妃様ほどではないが、若々しい見た目で綺麗というより可愛らしいという表現がよく似合う。
栗色の長い髪の毛を高い位置でお団子にしていて、同じ色の瞳は優しい雰囲気を感じさせる。
実際とても優しくていい人なのだ。
「実は姫様に持っていく見舞いの花で悩んでいて…」
「そうね~…まず確認だけど鉢植えは悪いイメージがあるからダメね。
それと、基本的に赤い花は血を連想させるし、刺激の強い色は目が疲れてしまうからオススメしない。」
「なるほど!」
「逆に真っ白な花もお悔やみを連想させちゃうから白もダメ。
白を入れるなら、メインに別の色を持ってきて引き立てくらいにするのがいいかな。」
病院などだと香りの強い花は同室の人に迷惑がかかったりするという話は聞いたことがあるが、色も物によってはダメなのか。
見舞いの品一つでも結構気を遣うものだ。
見舞いに行くことなんてそんなに頻繁にあるようなことじゃないし、意外と知らないことは多い。
「けど、一番は貰う人の気持ちじゃないかしら。
お姫様がどんな花なら喜ぶかを考えて渡してあげるといいと思う。」
「アンが喜ぶ花ですか…」
その後も花束ならどんな花がいいだろうと僕はあれこれ考え続けた。
が、そのうちに僕はあることに気がついてしまう。
僕の世界であれば生花を持ってくることは場合によって病院側から注意される。
もしかしたら花束もNGになるのではないか、と。
実際、幼馴染の大ちゃんが大怪我して入院した時に見舞いで花を持ってきた友人は看護師さんから注意を受けていたくらいだ。
僕は慌ててフィオーラさんに花束は大丈夫なのか尋ねた。
すると、フィオーラさんは頭にクエスチョンマークを浮かべながらも大丈夫であることを教えてくれた。
どうやらこの世界では特に問題はないらしい。
というより、見舞いの花は花束以外に持っていく手段がないという方が正解だろう。
僕の質問はこの世界では当たり前のことを今更尋ねたようなものだった。
僕は一安心して再び贈る花について考え始める。
この世界には医者はいても入院できるような施設はないため、往診に来てもらうようになっている。
そのため他の人を気にする必要はないので、香りの件も問題ないだろう。
けれども、出会って間もない僕ではアンがどんな花なら喜んでくれるのかはいまいちわからなかった。
「んー…」
「あとは花言葉で選ぶのもアリだと思うわよ。
前に持っていったガーベラの花言葉は知ってる?」
「えーと、”希望”ですよね。
王妃様が詳しかったので教えてもらいました。」
「そう。他にも意味はあるけれども、見舞いで持っていく場合にはその花言葉が用いられることが多いかな。
他にも”希望”とつく花はたくさんあるのよ。」
「なら、”希望”繋がりで選んでもいいのかな。」
「あとはダイヤモンドリリーには相手の回復を願う”また会う日を楽しみに”とか”忍耐”ってついてる。
花言葉で探すのも一つの手ね。」
「わかりました。もう少し考えてみます!ありがとうございました!!」
「いえいえ~。」
それから僕は植物図鑑としばらく向き合い続けた。
どんな花がいいだろう。
どんな花なら喜んでくれるだろうか。
僕は手書きの植物図鑑と店内の花を一つ一つ見比べながらアンが喜ぶ顔を想像した。
翌日、僕はエルベルトさんと一緒に配達に出かけた後、町を出てすぐのところまで送ってもらって宮殿を目指した。
門番に花を届けにきた事を伝え、宮殿内に入れてもらえた僕はメイドさんに案内されて大きな扉の前に立つ。
案内されたのはおそらくアンの自室なのだろう。
三回ノックをすると中からふわりとした彼女の声が聞こえてくる。
「失礼します。」
部屋に入ってきた僕を見るなり、彼女はとても嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。
それだけなのに何故だかとても嬉しくてたまらない。
理由はなんとなく見当がついたが、まだこの気持ちには蓋をしておこう。
今はまだ他愛のない話をしていたいから。
僕は彼女が早く元気になるようオレンジのバラをプレゼントした。
バラ(オレンジ) ≪健やか≫




