世界が終わる日
4月1日午前10時41分14秒、とあるニュースがTVに流された。
「人類は滅亡します」
そう真面目そうなアナウンサーは言った。私は何の冗談だと思い、リモコンを手に取りチャンネルを変えたが、他の局も同じ事をやっていた。他にネットにも手を伸ばしたが、エイプリルフールネタだろ?や、TVがジャックされた等憶測が飛び交うだけで、大した情報は得られなかった。
人類滅亡のニュースはずっと続いた。2日になっても続いた。私の出来ればエイプリルフールネタであって欲しいという願いは、あっさりとゴミ箱行きへとなった。
どうやら本当に人類は滅亡するらしい。TVでは原因は隕石がどうたらこうたらとか、どっかの研究者が語っていたけど、私には全然理解出来なかった。でも私はTVを観続けた。どのTV局も難しい事ばっかり言っていたが、観続けた。ネットもよく観ていた。何故なら希望が欲しかったからである。
何処かに助かる方法はないかと、私は自分が出来る範囲の事をした。だか、助かる方法は無かった。SF映画ならでっかい宇宙船に乗って助かるんだろうなぁ~なんて3回ぐらい考えたが、所詮フィクションはフィクション。そもそもロケットで数人程度しか飛ばせる技量しか持たない私達が、70億人も救える訳がないのだ。現実はそう上手くはいかない。
私は半ば諦めぎみで日常をしょうもなく過ごした。そして最悪のニュースが流れてから5日後、2つの希望か私達に降りおりてきた。一つ目は期待してなかった宇宙船だ。アメリカが完成すると発表した。しかし乗員数は未定でそれ程多くはないとの事。しかも乗員はアメリカの人限定と付け加えられた。なので、これは即却下。
もう一つは隕石シェルターの設立だった。これには私もちょっと期待したけど、すぐにその希望もゴミ箱行きへとなる。何故なら日本国民全員を収容出来るほどの隕石シェルターを作る時間がなかったのは目に見えていたからだ。
そして私はうなだれ、またしょうもなく日常を過ごした。世界が終わる日まで。
世界が終わる当日になった。目覚ましが鳴る。私は寝ていなかったので、目覚ましをすぐに止め、下のリビングへと足取り重く向かった。リビングへ行くと母がいつも通り朝ご飯を作っていた。予想はしていたが、想像よりもえらく豪勢な朝ご飯だった。
「こんなに食べ切れないよ」
と言うと、母はそうねと笑顔で答えてくれた。遅れて父と弟も食卓へやってきた。料理を見るや、二人共嬉しそうだったので、私も気分がちょっと晴れた。
会話はそんなになくいつも通り皆朝食を食べた。そして食べ終わり、父がコーヒーを飲んで一服している時に私は口を開いた。
「お父さん、お母さん今まで育ててくれてありがとう。二人の娘で良かった、感謝しています」
ずっと言おうとしていた台詞だった。照れ臭くて言えなかったが、世界が終わる日と言うのが私の背中を押した。私の言葉を聞いて母は泣いた。父は照れ臭そうに此方こそありがとうっと言った。弟は俺も俺もと私に便乗して、笑っていた。
朝食後、外へ出掛けた。外は異様に真っ赤だった。少し歩いて近所の公園に辿り着いた。そこには大きいタコの遊具がある、私はそのタコの頭の上までよじ登り、景色を眺めた。私の家は長い坂の途中にある。そして公園はその坂の頂上にあった、何が言いたいのかと言うと、要するにタコの頭のから見る景色はもの凄く良いという事。この街唯一の自慢だ。
そんな自慢だった風景も消えるのかと思うと急に悲しくなったので、私はそれをかき消す為に大声でアーーッと叫んだ。多分周りに住んでいる人はビックリしただろう。でもこんな日ぐらいは許して欲しい。もうすぐ罰を受けるのだから。
家に帰ると昼食の準備がされていた。朝ご飯と違ってバラバラな料理が並んでいる。それもその筈、昼食は各自のリクエストにそった料理を出す事が決まっていたのだ。腕を振るってくれた母に再び感謝し、私は昼飯を頂いた。ちなみ私のリクエストはハンバーグでした。
昼食後、私達は家を出る準備をし、大きな駅へと向かった。何故駅に向かったかと言うと、隕石シェルターは予想通り間に合わなくて、ならその代わりはと言うと駅しかなかったからである。勿論気休め程度にしかならない事は皆知っていた。
駅へ到着すると人で溢れかえっていた。どうやら警察がここへ誘導しているみたいだ。これは入れそうにないなと父は言った。その後すぐに車の中で家族と話し合いが始まった。そして話し合った結果、私達は家に帰る事を決めた。決断した時、父は何故かすまんと私達に謝った。
もし死ぬのなら駅よりも家が良い。弟の意見に私も賛成した。駅がダメならもうそこしか無いだろと思ったからだ。Uターンして帰る時、私は駅の中にいる人達をちょっとだけ憎んだ。
家に到着すると私はすぐさま部屋のベッドに倒れ込んだ。流石我が家、こんな時でもホッとさせてくれるゼ。と我が家を再評価していると、弟が部屋に入ってきた。
「姉ちゃんTVが凄いことになってるゼ」
と、情報提供してきた。気になったのでTVを点けてみる。TVでは当たり前だがニュース番組が放送されていた。ビルからガンガン飛び降りていく人達、ハッピーバースデーと言い銃を乱射する男、百万人以上が一つの場所に集まり祈りを捧げる異様な光景、確かに弟の言う通り凄い事になっていた。
私はTVを観て思った。私が最期にやるべき事はなんだろうと。ベッドに横たわって考えてみる。しかしこれといった良いのは浮かばなかった。私は何て薄っぺらい人間なんだろうか、彼氏を作るとかもっとちゃんと人生を謳歌しとけば良かった。
そう後悔している間にも時間は無情にも過ぎていく。何かしないとダメだと思い、さっきあげたやるべき候補の中から無理矢理一つを選んだ。それは昔大好きだったアニメのBDを観る事だった。1話から観る時間はなかったので、最終話だけを観る事にした。
懐かしい映像と音楽、内容は幼児向けだったので割と陳腐なのだが、EDを迎えた時には私は涙をボロボロ流していた。何故泣いたのか、理由は明確だった。それは人々が救われていたからである。誰かが人々を救う、今の私にとってこれ程涙腺にくる物語はない。救われた人々には、ほんとに良かったねと思った。世界を救ったくるみちゃん、バラちゃん、レモンちゃんには心の底から感謝をした。私の世界にも魔法少女がいれば良かったのにな。
やはりアニメは偉大であると思いながら魔法少女くるみのBDを棚に戻そうとした時、遂にその時はやって来た。ゴゴゴゴゴと大きな音が外から聞こえる。外を観てみると正にこの世の終わり、外は血の様に赤く染まっていた。私はとてつもない恐怖を感じ、直ぐ様部屋から飛び出し両親の元へ向かった。
段々大きくなる外の音、地震と風で大きく揺れる家。停電で暗くなるリビング。あまりの恐怖に私達家族4人は小動物の様に寄り添いあった。父は私と弟の背中に手を回し、身を呈して守ろうとしてくれていた。母は大丈夫大丈夫と励まし続けてくれた。弟は私同様恐怖でパニックになっていた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないとずっと頭の中繰り返していた。そして外の音がピークを迎えた時、周りが急に明るくなった。
それはとても綺麗な光だった。今迄見たこともない、神様でも出てきそうな光、私はその光を掴もうと手を伸ばしたが、何も掴めなかった。そして世界から私は消えた。
今の私は概念である。宇宙の時をかけながら流れていく存在。いつしか消えゆく存在。消えた後どうなるかは私も知らない。出来ればいつか私は私に戻りたいと思っているが、どうなる事やら。
とりあえず今は少しだけ休もうかと思う。良い夢を見られると良いな、皆が生きられる夢。そんな些細な夢を夢見ながら私は今日も眠りにつく。
ロマンティック佐藤「ラララ~♪ララ~♪ララララ~ララ~♪ラ~ラ~ラ~~~~~おしまい~Fu~~♪」