『水底にて抱く命』/『指先に触れた温もり』
◇◆◇◆
山深い川の底にて穏やかに、微睡みながら過ごす日々。ここには何もないけれど、時おり空から落ちてくる、熟れた山梨、硝子の眼鏡、紅葉に銀杏に供犠の子ら。川の神ではないというのに人間は、川が荒ぶることのないように、こうして子らを寄越すのだ。憐れだと水底で触れた命を抱けども、その命に温もりが宿ることはありはしない。
◇◆◇◆
貴方に触れた温もりがじんわりと私の冷えた指先に広がっていく。私の手は一時的に感覚を取り戻し、熱を纏った貴方の形を確認しながら触れていく。けれどもその温もりは、すぐに私の元から消え去っていく。体が凍える度に切なさは増し、貴方の温もりを何度も何度も求めてしまう。やっとのことで私の指先が温もる頃、火照った貴方は丁度いい温かさになっている。そしたら私は貴方に口づけをして、貴方の全てを飲み干すのだ。
副題:『寒空の下で缶コーヒー』
◇◆◇◆