Angels With Dirty Faces 5
硝煙香る花火大会開催のお知らせ、どうやら向こうは始まったらしい。耳を澄ますまでもなく、そこには感傷の欠片すら不要。そそくさとコンテナヤードから逃げ出してきた彼は、レオナと隠れた仕分け倉庫まで戻ってきていた。
「はぁ、きっつ……、禁煙でもするか?」
壁に寄り掛かり、する気も無いのに独りごちる。
周囲は無人で倉庫内も同様、のはず。誘拐犯達は銃声に釣られてコンテナヤードに集まったままだろうが、それでもヴィンセントは気を抜かず、呼吸を整えてから倉庫内に踏み込んで周囲の安全を確認した。
無明、無音、無人。クリアだ。
そこから手探りで奥へと進む。よくもまぁレオナは難なく探索したものだが、ヴィンセントはというと箱の角に思い切り脛をぶつけ悶えていた。目印に置いておいたぬいぐるみを蹴り、木箱の蓋を開けると中には放棄された大量のぬいぐるみが詰められている。
それにしても放置された荷の多いこと多いこと。もしかしたら本当にお宝が詰まったコンテナの一つでもあるかもだ、機会があれば一つ宝くじ感覚で買ってみるのも面白いかもしれない。ダンにでも提案してみるかと、思ったりもしながらヴィンセントはぬいぐるみにも埋もれているお宝を眺めた。
可愛らしい獣人少女がぬいぐるみに埋もれて眠っている様は、ファンシーな絵本に出てくるお姫様のようで、安っぽい男子用の服装であったとしても、エリサの横顔は幻想的だ。
ヴィンセントは跪く。そして、静かに抱き上げた。
「さて、もうひとっ走りといきますか」
右手に銃を携えて、ヴィンセントは西ゲートに向かって走り出す。




