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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
4th Verse Angels With Dirty Faces
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Angels With Dirty Faces 4

 コンテナヤードを捜索しているアントニオは苛立ちを隠せない。ヴィンセント達を嘗めきっていたのもあるが、それにしても被害が大きすぎた。あっさりと侵入を許した上、見え透いた策にまんまと嵌まりケツを蹴り上げられた結果、集めた手勢の内、十人以上が殺られていた。獣人に虚仮にされるだけでも憤慨ものだというのに、再三にわたってあしらわれ続けているのだから、只殺すだけでは飽き足らない。


 テクニカルのヘッドライトが浮かび上がらせる男達のシルエットは、都合十二の眼を周囲に巡らしながら慎重な足取りで暗闇の中を進んでいく。倉庫での惨状を見れば、相手にしている獣人が並ではない事くらい彼等にも判っていた。残っていた見張りは反撃さえ許されず射殺され、ストライプが応援に戻らなければ、レオナは悠々とエリサを連れて逃げていた事だろう。ヴィンセントを殺す為に仕掛けた誘拐だというのに、それをどこの誰とも知らない獣人に邪魔されるなど、決して許せるものではない。


「首括って引き摺り回してもおさまらねぇぜ……!」


 勿論、狐の餓鬼も横に添えてやる。アントニオが振り回されているこのゴタゴタの原因はエリサにあったのだ。そう、彼女を買い付けてきたのは、アントニオ本人である。


 普段ならスラムから攫ってきた粒立ちのいい獣人を着飾らせてステージに上げていた。


 獣人女の苦痛に悶える表情、悲鳴にも似た嬌声。首輪を引かれて這いずる姿に客は手を打ち、絶命の瞬間には満場の拍手がホールを埋め尽くした。ドームには掃いて捨てる程の獣人がいるが、客の眼鏡に適う獣人を見繕うのは難しい。女である事が最低条件で、これはさほど問題とはならなかったが、厄介なのは容姿だ。若く、美しく、色気がある方がウケが良い。


 主な理由としては客の大半が男性である事が挙げられる。時にはVIPルームで味見をする物好きな客もいて、更に懐が厚い好き者はアッチ用の奴隷として囲うこともあった。つまり商品としての価値が求められ、故に見た目が大切なのである。


 そういった理由からアントニオはステージ映えする獣人を集めていたが、その日は特別な日だった。「躍進の記念に一等ウケる獣人を」と頼まれて意気込んでいた矢先である。


 新雪のように柔らかい純白の毛並みと宝石が如く輝く碧眼。身体こそまだ未発達だが、余りある若さと嗜虐心をくすぐる純朴さが彼の目を引いた。見世物にする獣人に金を払ったのは今回が初めて。その奴隷商が連れていた狐の餓鬼は間違い逸材だった。


「こいつは……完璧だ……」


 人間至上主義のアントニオをして、思わず溢してしまう程にエリサはステージ映えするだろう。色鮮やかな照明の中でこの獣人少女が嬲られ果てる様は最高のショウとなるはずだ。


 ……だが、その筈は、正体不明の犬系獣人の襲撃で崩れはじめ、そしてマルコの死をもって完全な瓦礫と成り果てた。ならばその瓦礫の上に、死へ追いやった者達の首を掲げる。

 血には血の報復を、兄を死に追いやった者達の首を。と――


「……見ろ、なにかあるぞ」


 声を潜めて一人が言った。ヘッドライトが照らし、銃口が狙う先にアントニオが注視すれば、直線的なコンテナの角に不釣り合いな膨らみがはみ出している。


 そいつは白く、アントニオはしめたと口角を歪める。チビ狐がいるなら虎女もそこにいるはずだ。あの虎女が後生大事に抱えていたチビ狐を置いていくわけがない。ともすればすぐ傍、例えばあのコンテナの陰に隠れている。そしておそらくヴィンセントもいるか。


 マルコを密告した便利屋に復讐を果たし、ケダモノの分際で人間には向かう糞獣人は、糞らしく糞に返すだけのこと。647グレインの鉛で獣人と人間の合挽き肉をこさえてやる。


「撃っちまえ」


 アントニオの号令で放たれた重機関銃がコンテナを角から抉っていく。腹に響く銃声が反響し、曳光弾が帯を引く。集中砲火を浴びたコンテナは引き千切られ、荷重の掛かっている一角を失った所為でバランスを崩し轟音と共に倒壊した。


「よーし、もう十分だ。――おい、撃つなッつってんだろ!」


 暫く続いた銃撃に声を張り上げると、弾帯一本分を撃ち切ったところでようやく銃声が止んだ。落下したコンテナは盛大にひっくり返り、落ちた衝撃で扉がひしゃげていた。誘拐犯達は埃舞うコンテナへと警戒しながら近づいていく。重機の弾幕を喰らえば屈強な獣人だろうと血煙になってしまうのだから、ぐずぐずのバラバラで原形は留めていまい。


「は、ははは! 見たかよオイ! ミートパテの完成だ、金属バンズの心地はどうだヤンキーめ! ケダモノと並んで腹一杯喰らえやボケ野郎がァ!」


 誰からともなく乾いた笑い声が漏れはじめ、徐々に大きくなっていく。アントニオもまた仲間と共に嗤っていた。と、一人が歓声を上げる。掲げたその右手には引き千切られた、夜風にはためく白い毛皮。


 ……だが、彼等は気付いていなかった。レオナが潜んでいることに。彼女はぎらつく瞳を伏せながら闇を纏い、冷笑を浮かべている。


 ――そうさ、人間(アンタ等)はそうあるもので、獣人(アタシ等)はそういうもんなんだ。


 どこかで迷い、燻っていた想いが再燃する。野火が拡がっていくようにジワリと拡がる、憎しみとも歓喜とも取れる感情。この感情は忘れちゃいけないものだ。火を点けてくれた事に感謝しなくては、礼は(こいつ)でしてやろう。

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