Angels With Dirty Faces
未だ二人は戻らない。――否、チビッ子を含めれば三人か。
ダンは蓄えた顎髭を撫でながら乗組員が消えていった夜の通りを凝視する。動じる事のない仏頂面のままで、彼はこの一時間、紫煙を吐き出すだけの機械と化し、既に染みついた紫煙の香りを上塗りする作業に没頭している。車内には常に煙が充満しているが、それでも彼は葉巻に火を灯し続けていた。歳を重ねても、じっと待つ事の苦痛は若き日々からさしたる変化を見せなかった。
最後の通信は一時間前。それ以来、ダッシュボード上の無線機は沈黙を守り続けている。こちらからは手出しが出来ないのだ。待機する事の重要性と、過ぎる時間と共に募る不安に苛まれながら煙の濃度を上げる。
まもなく回収予定時間になる。計画通りに事が運んでいればヴィンセントから連絡があるはずだ。だが睨むデジタル時計がピタリと時を刻んでも無線が鳴る事はなかった。そもそもこの救出作戦自体が急場仕上げなのだから、不測の事態は想定内である。問題なのは事態が見えない状況下でどう動くかだ。
ルイーズの情報から考えるならば、ヴィンセントとレオナの実力であれば乗り切れない敵勢ではない。ヴィンセントに不安は残るが、レオナが一緒にいるのであれば大丈夫だろう。獣人の戦闘能力は人間と比べるべくもない為、チンピラの群れ相手ならば彼女一人で釣りが来る。互いに不安要素を孕んでいるが、上手い具合に相性補完をしているともいえた。
腕利きの二人だ、信頼はしている。基本的な流れは変えていない可能性が高い。
連絡があるまで待つか、それとも――
葉巻を灰皿に押し込むと先客の一本がこぼれ落ちた。




