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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
3rd Verse Betrayed
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Betrayed 8

 上屋が規則的に並ぶ一角が炸裂音と共に火薬の光を輝かせる。倉庫群から離れるように走るヴィンセントは銃弾に追い立てられて廃車の陰に飛び込んだ。もうちょっと余裕を持って囮を引き受けるつもりが、まさかマルコを挑発している間に見張りに発見されるとは。


「お前等はお呼びじゃねェ! ……ッてか多すぎなんだよ!」


 熱が入れば入るだけヴィンセントの口数は増していく。便利屋といえども向き不向きがある。彼の本職はパイロットであり、ガンマンではない、飛行機から降りればただの人だ。


 暴言には暴言。銃弾には銃弾。見張りから奪ったAK突撃銃を構え応射――しようとしたが降水量の増した弾雨に首を竦めて顔を引っ込める。エリサを救う為にその他諸々を引き受ける気でいたものの、これは釣れすぎだ。とか思っている間にも粗野な足音が多数接近。


「ハアァァ⁉ まだいんのか……⁉ マジでどんだけいるんだよ……ッ!」


 反撃を試みるも多勢に無勢、顔を出した途端に集中砲火に見舞われて位置の把握も困難だ。捨て置かれた貨物やフォークリフトがあるおかげで遮蔽物には事欠かないが、それは誘拐犯達にも言える事。自分の場所が割れたままでは回り込まれるので移動した方が良さそうだ。


「どうしたどうしたぁ、顔見せてくれヴィンセントォ。曲に合わせて踊ってみせろや」

「ようやくおでましか……。大勢に見られると緊張しちゃってね! お前こそ、一人じゃ怖くて便所にも行けないタイプか? ママのお守りからは卒業した方が良いぜ!」


 口撃だけで応戦してヴィンセントはこそこそと動き始める。折角本命がおまけも付きで釣れたのだ、レオナが行動しやすくする為にも、もう少しの間引き付けておきたい。


 ならばすることは決まった。囲まれないように注意しながら移動して撃ち、逃げては撃ち、おちょくって撃ち、救出を確認次第さっさとずらかる。誘拐犯達の渋面が見えるようで、ヴィンセントの挑発は寧ろ加速していった。まだまだ引っ掻きまわしてやる。

 仕掛ける側が楽しんでいる場合というのは、往々にしてやられている側は悔しいものだ。掌の上で転がされていると知れば歯軋りさえする。


 アントニオの手下はヴィンセントを追い込んでこそいるものの、決定的な一発を撃ち込む事が出来ずにいた。被害こそ出ていないが、のらりくらりと煙に巻かれ続け、穴を開けるどころかじわじわと消耗させられていた。


「相手はたかが便利屋一人だぞ! いつまで射撃練習してるつもりだッ!」

「いい銃捌きだ。連中は健闘してるさ。公園で感じたとおり、あの便利屋、結構やる」

「囲め、囲んで殺せ! 蜂の巣にしてやるんだ!」


 激憤に振り回されているアントニオは感情任せに叫ぶ姿我儘なガキのように見苦しい。指揮しているといえば聞こえは良いが、お世辞にも優秀な指揮官とは言えず、喚き散らす様は暴君のそれに似ていた。


「……前に出ないのか、アントニオ? 意気込んでいたじゃないか」


 挑発に乗って倉庫を飛び出しておいて最前線には立とうとしない。ストライプの疑問にも「奴が死ねばそれで良い」結果が全てだとアントニオは語る。


 アントニオにとっては結果が同じであれば過程は論じる必要が無いらしいが、それは大きな誤りだ。特に無頼を生きる者は、その過程にこそ価値を見出す必要が生じる。生き様よりも重く、殉じられるもの。それは矜恃。其処を譲れば、何者にもなれなくなるというのに。


「――? おいストライプ。今の聞こえたか」


 差別的な眼光を隠し、ストライプは首肯する。小さくも聞こえたのは銃声だ。しかも二人が走ってきた倉庫群からである。獣人の子供相手に見張りが発砲する理由は見当たらない。よほどの無能なら話は変わるが、とにかくヴィンセントがこの場でゲリラ戦を演じている最中に倉庫で騒ぎが起きているのなら、その目的は陽動という事になる。


「どうやら他にも仲間がいたようだな。ヴィンセントは囮だ」


 アントニオは歯軋りするばかりで指示の一つも飛ばさない。いや、どうするべきかは浮かんでいるが、どうも頭が沸騰しているらしく、言語として出力不可能な状態にあるようだ。人事不省に陥っているアントニオを待っていたのでは手遅れになる。渋々と言った様子でストライプは近場の数人へ叫んだ。


「そこの! 倉庫に戻るからついてこい。便利屋の始末は任せるぞ、仇を取ってやんな」


 一抹の不安を抱えながらストライプは倉庫街へと取って返した。

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