BAD DAY
たまたま見た占い番組では今日の運勢は最高らしい。別に信じているわけではないが、調子がいいぞと言われて悪い気はしない。洗濯物のポケットから小銭が出てきたので運が向いている一日なのかもしれなかった。
しかし、狭っ苦しい取り調べ室に放り込まれて一時間と少し――、それも刑事二人を相手に押し問答をしていれば、ちょっとした幸運など虚しくなるだけだ。
きっちりハッキリ明確に。それこそ丁寧に答えていたが最初から疑ってかかっている刑事二人には全て言い訳に聞こえただろうか。それとも意味不明な呪文を唱える変人を捕まえたとでも思ったかもしれない。
「ちゃんと調べてくれよ、頼むから……」
安椅子に腰掛けている男、ヴィンセント・オドネルは黒髪をガシガシと掻きながら答えた。
こちらの事情などお構いなし、同じ話を繰り返すばかりで進展が見込めないのだ。最初は協力的だった彼も、堂々巡りの問答に苛立っていた。その証拠にヴィンセントは先程からずっとミリタリーブーツの踵を鳴らしているのだ。
エンドレスリピートは気に入りの曲だけで充分である。ヴィンセントは最早忌憚なく辟易し、苛立ちを一切隠さなくなっていた。机の向こうに座っている気の弱そうな刑事を敵意を込めた眼差しで捉える。
「それではもう一度お聞きします、オドネルさん」
「はぁ、もう……、だから俺じゃねえって何度言わせんだ」
怯みはしたろうが気弱な刑事は顔に出すことだけは堪えた様子。
「どうかご協力を」
「あのなぁ、俺は精一杯協力してる。そもそも俺はお宅ら警察の尻ぬぐいしてここにいるんだ。これは冤罪だ、問題だぜ」
「ご職業は便利屋、そうですね?」
「チッ……。ああ、そうだ。どうせ録音してるんだろ? そいつを聞き直せよ」
「そして賞金稼ぎでもある。兼業ですね。なんでも宇宙戦闘機のパイロットだとか」
「なんだよ今度は戦闘機か? 言っとくけど宇宙飛行ライセンスなら持ってるぞ。お宅等がドーナツ喰ってる間に宇宙を股にかけて悪党を追いかけ回してるんだ、働きモンだろうが」
挑発的ですらあるヴィンセント。そんな彼に嫌悪を以て応じたのは壁際に立っていたベテランの刑事だった。壁に寄り掛かり様子を見守っていたその気配は長年現場で培ってきた緊張感が感じられる。
「勘違いも甚だしい。一体全体何様のつもりだ、貴様は。所構わず暴れ回り、行く先々で怪我人を出しては正義の代行人気取りとはいい迷惑だ」
「善良な市民に感謝状の一つくらいくれてもいいと思うがね」
「貴様等とて犯罪者だろう。手にかけているのが賞金首なだけで人殺しには変わらん、賞金稼ぎの肩書きは免罪符ではない」
「それでもだいぶマシだ。役に立たねえ保安官よりか、だいぶ、だいぶな。その出っ腹はドーナツだけで膨れたもんかね?」
「たとえ賞金稼ぎだとしても許されないことがある。金に目が眩んだ賞金稼ぎめ……」
ベテラン刑事は軽蔑の眼差しでヴィンセントを見下ろした。
「罪のない市民を、その命を奪っておいてなお、その台詞が吐けるのか」
――そもそもは、ヴィンセントの悪癖が原因だった。




