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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
4th Verse PULL THE CRTAIN
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PULL THE CRTAIN 5

 鳴り続けていた銃声は止み、残響さえも聞こえてこない。終わったのだ、祭りの後の静けさであり、嵐の前の静けさ。死の静寂が支配するモールにおいて息をしているのは、現在三人っきりだ。先の見通せぬ暗闇には一線級の警戒心が必要である。


 レオナも同じ判断を下したようで、ヴィンセントと背中合わせで暗闇に向け暗闇へと銃を向ける。勘という点では彼女の方が鋭いだろう、背中合わせで索敵の眼が奔る。


「レオナ、上への道はわかるか?」

 警戒したままヴィンセントが問う。

「どうせ向こうから来るさ」

「森の中で立ち往生してるようなもんだ、暗さはこっちに味方しねえ。レオナ、先導を」

「チッ、アタシに指図すンじゃねェよ、人間が」


 苛立ち加減にレオナは言うが、尻尾をヴィンセントに当てると先導を始めた。夜目の訊く彼女を前衛に二人は上階へと駆ける。割れたガラスを踏みしめ、無惨な死体を飛び越えた。喉を裂かれた死体はテーブルワインにも劣る血を垂れ流し、店内を噎せ返る血の臭いで満たしている。当分営業は出来そうにない。


 階段まであと少し、服飾テナントが並ぶ通路はどうも居心地が悪い、ショウケースの中のマネキンが不気味で仕方なく、人型の影を見ると敵だと思ってしまう。何度が反射的に銃を向け、そのたびに細く息を吐く。

 横目でマネキンを背後に流し、レオナに続く――、と


 突然の破壊音、背後で硝子の割れる音。ヴィンセントは素早く音源へと銃を向ける。砕けたショウケース、腕をなくしたマネキンが倒れる。


「そっちじゃねえド阿呆! 伏せろッ!」


 レオナの怒声。反射的に飛び伏せたヴィンセントの頭上で五十口径の重い発砲音。

 銃口炎のストロボが、瞬間、周囲を照らし出す。白い髪、黒い影。カーラの白刃が空を切ったのは正にヴィンセントの頭があった場所だった。


「こンの……ッ!」


 レオナが追撃を叩き込むが、強襲し損ねたカーラは射線から逃れすぐさま闇に紛れていた。


 一呼吸でも遅れていれば首が落ちていた。銃声を頭上に聞きながら、ヴィンセントも後ろ手に銃を乱射し距離を取る。立ち上がり構え直した頃にはカーラは既に隠れた後で姿はなかった。だが、暗闇から感じる気配と殺気が彼女の存在を示していて、思わず引き攣った笑いが漏れる。森の中で狼に追われる獲物の心境を味わっているようだ。カーラにはしっかりと見えているのだろう、逃げ惑う子羊の怯えた姿が。視界に関しては五分だと思っていたがどうも違う、彼女にのみ見えているのならばますます以てここでは戦えない。


 ヴィンセントはじりっ――と後退し角を狙うレオナに触れると親指で後ろを指し、移動すると伝える。

 揃い、そろりと階段へ向かう二人を囃すように、どこからともなく不気味な笑い声が通路に響いた。


「ふふふ……ヴィイイイイィインンセエェェェェントォォォ……」


 カーラの浮かべる死を誘う笑みが見えるようである。狼の遠吠えよろしく彼女は嗤っていて、ケタケタと壊れた笑声は次第に大きく、そして狂気的になっていき、足下から這い上がる狂気で二人を追い立てた。

 やがて、絶えることのない笑い声の様子がおかしくなり、今度は絶叫に変わる。耳を劈く悲鳴が通路を駆け抜けガラスというガラスをビビらせた。


「アンタに相当お熱みたいだね。くっそ、コイツ等も起き出しそうだ」

 耳のいい獣人にはなお応えるのだろう、レオナは首を死体を蹴り、煩わしそうに訊く。

「アンタ一体何をしでかしたのさ」

「スコープで見てたろ、刺されるようなことをさ。そんで、お前はどうするか決めたのか? ケツまくったところで恨みやしねえよ、手ぇ引いてくれるなら賞金は渡してやる」

「さっきの続きか」

「そうだ、手があれば助かるが、それはお前が決めてくれ。なるべく早めにな」


 レオナが逃げるのならば次の策を仕込まなければならない、一秒が惜しい。


「伸るか反るかだ、さぁどうする」

「人間、一つ聞かせな。テメェがどう答えるか、その回答次第で乗ってやる。ボロ雑巾のアンタがカーラを追う、その理由ってやつを」

「話せば長くなるが、もしかしたら根っこの(わけ)は同じかも」

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