Promise Land 22
「すまないけれどヴィンセント、よければケータイを貸してもらえないかな? レオナの事を見ていたら、僕も無事を伝えたくなってしまって」
「アズィズにか。この中で独り身は俺だけだもんな。……ほいよ」
「ありがとう……!」
興奮気味のマイケルの背中を見送ると、ヴィンセントは野っ原に座り込んだ。
空は蒼く、空気も綺麗
ここに煙草がないのが残念に尽きる
手持ちぶさたな彼は穏やかに流れていく風に目を瞑り、ただただ時間を潰していた。きっとこれも、ある意味では贅沢な過ごし方になるのかもしれないが、どうしたって便利屋の性なのか、気配には敏感に反応する。
車のエンジン音だ。
瞼をうっすら開けてみれば一台の黒いセダンが近づいてきていた。
「なにあの車……? ヴィンセント、起きな」
「まさか追手ってわけでもないだろ。――……おい、マイケル。一応後ろにいろ」
「あぁ分かった」
草原に轍を刻みながら走るセダンはかなり異質だった。四駆とかならばまだしも、見たところ普通の4ドアセダンだ、どう考えたってオフロードを走るような車ではなく、その異様さにはヴィンセント達の警戒心は自然と高まる。
サバノヴィッチの部下からかっぱらってきた武装はあるが、さてどう出迎えるべきなのか。銃の安全装置を外した状態で三人が佇んでいると、そのセダンはゆっくりと減速して彼等の前で停車する。
目配せ一つでヴィンセントが前に出て、レオナはマイケルを背中に隠して警戒態勢。
するとセダンのドアが開き、二人の男が降りてきた。
どちらも黒いスーツにサングラス。黒豹の獣人と初老の人間だが、服装は完璧にお揃いときていて、どこかで見たような既視感がヴィンセントにはあった。
でも、疲労のせいか思い出せない。
しかし、これだけはハッキリしている。明らかに怪しいという点だ。
「どちらさんだい、お宅ら」
銃爪に指をかけたままヴィンセントが問うと、背の低い初老の男が答える。
じつに紳士的な態度だった。懐の膨らみ具合からして脇に銃を提げている様子だが、抜こうという意志が一切感じられない。
「我々は地域警備員だ、武器は必要ないから下ろしなさい」
「警備員?」
「そう。この丘一帯は私有地でね、何者かが侵入したと知らせを受けて調べに来た。我々としても出来ることなら穏便に済ませたい、キミ達はここでなにをしているのかね」
「あぁ~……、ピクニックを。土地勘無くて迷ってしまって」
「ふむ。それにしてはなんと言うべきか、物騒なアクセサリーに見えるがね」
なにしろ突撃銃を提げた二人がいるのだ。言い訳にしても苦しすぎるが、初老の男はそれ以上突っ込んではこなかった。
「事情はどうであれ、早急に立ち退いてもらえるとありがたいのだがどうかな。敷地の外に出てもらえれば済む、よければ我々の車に乗ってもらえまいか」
「いやぁそれはちょっと。もう少しだけ大目に見てもらえねえかな、知り合いと待ち合わせしてるんで、そうしたらすぐに出て行くから」
「……そうか知り合いが来るのか。では、仕事が増えるな」
違和感が、きた。
それはくらりと揺れるめまいのようで、ヴィンセントは視界が歪んだのを感じた。
「――ッ⁈ これは……ッ」
「ヴィンセント……! こいつら、なんかしてやがる……ッ!」
「この感覚、は『彼』のと同じ……、僕たちは、これを、知って――……」
一人、また一人とヴィンセント達は意識を失い倒れていく。せめて動けるうちに反撃を試みるが、身体が脱力してまともに動けず、ついに三人とも眠るように野原に倒れ込んでしまった。
――シード星人絡みは肝が冷えるな 下手をすれば太陽系毎消えていたかもしれん
――こいつ等はどうするんだ? オレみたくスカウトするのかい 人材不足なんだろ
――いいや 彼等は有能だが粗暴すぎる エージェントには向かんよ
いつも通り宇宙人絡みの記憶を修正してから解放するとしよう
仲間がいると言っていたから そっちにも同様の処置が必要だな
――電波で記憶操作ってのは何回見ても良い気分に慣れないんだよな オレ
脳に障害出たりしそうだし
――これまでに数万件の使用例があるが後遺症は認められていない
なによりも宇宙人の存在を知るのに人類は若すぎる
隠しておいた方が世のため人のためだ その為に我々がいるのだからな…………




