Promise Land 21
「……なぁ~ンかさ、こうあっさり消えちまうと夢でも見てたような気分じゃない?」
「やけに疲れる夢だったな、誰に話しても信じてもらえなさそうってのが余計に夢っぽい」
「エリサでも信じないでしょ、これ」
「まぁとにかく仕事は済んだんだ。あとはマイケルを届ければ――」
なんてヴィンセントが話していると、小気味よい着信音が鳴った。
音源はレオナの谷間からで、取りだしたケータイの画面を見た彼女の顔が明らかに華やぐ。それだけで電話の相手が誰なのかは明かだった。
「ロキシー! 元気だった? ああうん、ようやく仕事終わったトコさ。トラブっちまって連絡できなかったんだよ、でも直に帰れると思う」
上機嫌に尻尾を振りながら歩き出し、ヴィンセントたちから離れていった。二人きりの会話を大事にしたいってのは別に普通の感覚だろうが、マイケルはそれこそ自分の目と耳を疑っているようである。
暴力の化身さながらに暴れていた虎女が、まさかあんなに可愛らしい仕草を見せるなんて思いもしなかったのだろう。
「ヴィンセント、あれはレオナなのか? まるで別人の様だけど……」
「アンタを探してた三ヶ月、恋人と離れてたからな恋しくもなるさ」
「でもロキシーって言ってなかったか? 女性の名前だろう」
「それが問題か?」
あっけらかんとして答えてやると、マイケルはそれもそうだなと肩を竦める。好きな者同士で付き合っているんだから、外野がとやかく言うのは筋違いってものだし、なによりマイケルも彼女と似たようなものだ。
それになにより、考えるべき問題が残っている。
「んなことよか、どうやって回収してもらうかの方が大事だろ。現在位置が分からねえんじゃ回収してもらいようがねえ」
「いや、それこそ電話すればいいんじゃないか? 他にも仲間がいるんだろう? レオナを見る限り電波はあるみたいだし、連絡すれば助けに来てくれるんじゃないのか?」
「……それもそうだな。さすが学者先生」
ってことでアルバトロス号に連絡を入れると、最初のコール音が鳴り終わるより早く繋がった。応答したエリサは安堵と不安を混ぜ込んだ興奮をしばらく吐き出しており、ヴィンセントは彼女をゆっくりと宥めながらダンと替わるように頼んだ。
『でも無事であんしんしたの! すぐに迎えに行くからね! えっと、じゃあダンと替わるの』
「おう、また後でなエリサ」
さて、我らが雇い主の第一声は如何に。受話器の向こう側での雑音に耳を傾けていると、野太い声が届いてくる。
『定時連絡をよこせと言ったろう』
「うるせえなぁ、色々あったんだよ。詳細は戻ったら話すからとにかく拾いに来てくれ。MLA領からは出て安全な場所にいるけど、こっちじゃ正確な位置が掴めねえんだ」
『自分たちで逃げたのにか?』
「だから言ったろ、色々あったんだよ」
ダンの溜息が聞こえてくる。呆れられても仕方が無いとは思うが、他に言いようがないのも事実だった。電話で話すには長すぎるし難しい内容だ。
なにより馬鹿げている。
『よしヴィンセント。現在位置は掴んだからこれから回収に向かう、MLA国境から南に二十㎞行った海岸線の丘陵だ。周囲には何もないからくつろいでいるといい。――一応訊いておくが荷物もそこにいるんだな?』
「モチ。攫われてた割にピンピンしてるよ」
『レオナも無事か』
「俺が生きてんだぜ? その確認いるか?」
『雇用主として確かめんワケにもいかんからな。……二人とも無事なによりだ』
その漏れ出た本音を聞いて、ヴィンセントからは笑みがこぼれる。
「飯と風呂の用意しといてくれ、疲れた」
『分かった、エリサに準備させる。到着は一時間後だ、大人しく待っているんだぞ』
「足が棒になってる、どこにも行かねえよ」
通話を切り、今度はヴィンセントから溜息が漏れる。疲れは気の抜けた瞬間に押し寄せてくるので、それこそここ数日分の負債がのしかかってきているようだった。
と、そんな彼に対して、遠慮がちにマイケルが声をかけてきた。
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