Promise Land 15
マイケルから宇宙船を受け取ると、ヴィンセントは小走りで遺物の淵へと向かっていく。彼の注文通りスライムが遺物を傾けてくれているおかげで、外淵に行くにつれてキツくなっていた傾斜が、いまでは地面と平行になっている。
ここまでお膳立てさせた上に危険な役目まで押しつける事になっては、流石のヴィンセントでもバツが悪い。しかしだからこそ、彼は気合いを入れていた。
これから一人を特攻に送りだそうってのに、残る側が辛気くさくちゃいけない。なので、フットボール型の宇宙船の見下ろしたヴィンセントは、アメフト風に発破をかけることした。
「いくぜスライム、六十ヤードのロングパスだ。準備は?」
『キミのタイミングで』
「よぉしそんじゃ……。ブルー22、ブルー22! ハット! ハット!」
自らのハットコールでプレイを始めたヴィンセントは、助走を付けて鋭いパスを放る。目標は無論、得意絶頂かましてるサバノヴィッチで、飛んでいった先でスライムが何をするつもりなのか、彼には皆目見当付かない所だが、狙いはまさに正確だった。
角度浅く、滑らかな放物線でスライムが乗り込んだ宇宙船は飛んでいき、サバノヴィッチに命中するはずだった。だがしかし、目論見とはそう上手くはいかないものだ。
サバノヴィッチは直前で気配を察し、背後からの投擲攻撃を躱した。
「悪あがきは見苦しいぞ便利屋。追い詰められて物を投げつけるとは、万策尽きたとみえ――」
パワードスーツを身に纏ったサバノヴィッチが、振り返りながら言いさした瞬間である。彼の背後で小さな異変が起きていた。最初にその異変に気が付いたのは目視していたヴィンセントだったが、サバノヴィッチもすぐに体感することになる。
なにしろ、吸い込まれているのだ。
火星の空にぽっかりと空いた小さな、だが恐ろしく黒い孔に……
「……な、なんだこれは⁈ 貴様、いったい何をしたのだ⁈」
「スライムの野郎、無茶苦茶だぜ……!」
空中でもがくサバノヴィッチなどには目もくれず、ヴィンセントは突起の少ない遺物にへばりついて耐えるばかり。彼の想像が正しければ、あのボールサイズの暗い孔は見た目以上にヤバいのだ。
例えるなら、無限に等しい胃袋と強烈な吸引力を持った蛇の口といったところ。近くに存在する物すべてを呑み込む宇宙の食いしん坊。
もっと言うならそう、あれは極小のブラックホールだ。
「あンのバカ野郎、なんて場所になんてモンを作りやがったんだ……!」
「ブラックホールだとぉ……⁈ 小癪な、この程度でェ!」
互いが互いに吸い込まれることを願いながら踏ん張る数秒
ヴィンセントは両の手足で遺物に這いつくばり
サバノヴィッチ背面のスラスターを全開で噴かしていた
それはなんとも地味ながら手に汗握る数秒であったが、終わりは突然訪れることになる。
消えたのだ、ブラックホールが。まるで指揮者が拳を握ったようにプッツリと――
そんな静けさの中で、ヴィンセントは息も荒く身体を起こす。
「はぁはぁ……。どうだサバノヴィッチの野郎、くたばって――」
「――いるわけが無かろうが」
直後に爆発。
向けられた榴弾砲を飛び避けるヴィンセントだったが爆風までは躱しきれず、吹き飛ばされた勢いのまま遺物の淵から滑り落ちていく。何かに捕まろうにもその掴むべき突起がなく、彼の身体は六十メートルしたの地面に向けて、無慈悲に遺物を滑っていきついには足下を失った。
だが――
落下するだけとなったヴィンセントの身体が空中でその動きを止めた。直前にあったのは最後まで足掻いた右手への衝撃、見上げればツタが手首に絡みついている。
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