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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
4th Verse Promise Land
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Promise Land 14

「おいスライム! この遺物は宇宙人の船なんだろ、武装の一つくらい積んでねえのか⁈」


 サバノヴィッチが何を狙って撃ちまくっているのは見えなくても、ヴィンセントには奴の標的が分っていた。突撃銃程度では最早通じないことも分っている彼に出来るのは、遺物の武装に頼る程度のことくらいで、彼はマイケルに掴みかかって半ば脅すように問いかけていた。


 がしかし、返答は思わぬと事から聞こえてきたのであった。


『申し訳ないがヴィンセント君、この船は非武装だよ』

「スライムッ⁈」


 マイケルの口は動いていない。というか、いまの声は頭の中から響いてくるような不思議な聞こえ方をしていた。


『ワタシはすでにマイケルの身体を離れている、彼の肉体の修復は完了したからね』

「え⁈ いつの間に……」

「おめでたいけど感動してる場合かよ、マイケル」

『その通り、喜ぶのは後にするべきだろうね』


 冷静に窘めると、スライムはぼんやりとした音声をヴィンセントの脳内に響かせた。


『いいかなヴィンセント君。この音声は彼が持っている宇宙船の電波発生装置を通して送っているもので、ワタシも船内にいる』

「それよか野郎に一発ぶち込む手段はねえのかよ⁈ サバノヴィッチが使ってるのは、お宅等宇宙人の技術なんだろ、対抗策は⁈ せっかく生き返ったところで、このままじゃマイケルも俺たちもお陀仏だぜ!」

『危機であることは重々承知しているから、慌てないでくれ給え』

「慌ててねえよ、俺は頭にきてるんだ。のらくらしてっと鉛弾ぶち込むぞ」

『うむ、そのくらいの方が頼もしいかもしれないな。――よし、いいかい? 先程も伝えたとおり遺物は非武装だ。本来の目的が銀河の揺り籠であるのだから武装などは不要、広大な宇宙を移動する手段に過ぎないからね。でも――』


 スライムはそこで言葉を切り、それからゆっくりと続ける。


『……サバノヴィッチの暴走を止める手立て、最後のそして唯一の手段は存在する、ここにね。その為に、ワタシは船に乗り込んだのだから』

「……あぁ?」

『ヴィンセント君、奴の所までワタシを運べるかい。直撃とは言わない、半径二十メートルまで飛ばしてくれればいい。その先はワタシがなんとかしてみせよう』

「待てよ、それは宇宙船ごと投げろってことか?」

『やはり察しが良い。そうだ、船ごと投げて届くかね?』


 ヴィンセントは即答しなかった。返事はハッキリしていたが、その前に確かめておくべき事があるのだ。


「……投げたあとは?」

『…………遺物を奪われたのはワタシの責任だ。であれば、するべき事を実行するのみさ』


 頭に響く声は不明瞭なのだが、この粘性宇宙人のハラが決まっていることは分かった。それが分かれば充分で、理解したなら口を挟まないのが道理ってもんだ。

 ヴィンセントは深呼吸を挟んでから、静かに注文を付けていく。


「スライム、足場が外側に傾いてる。平行になるように下の遺物をコントロール出来るか? 平行になれば野郎は射程内だ、トム・ブレイディ並のパスを出してやるよ」

『遺物の操作は可能だよ、キミの腕前を信じるとしようか』


 しかしだ。

 作戦が決まればセットに入るのがお決まりのパターンだが、マイケルは手にした宇宙船をヴィンセントに渡そうとせず、大事に抱えたまま後ずさった。


「待ってくれよヴィンセント! キミが投げたあと『彼』はどうなる」

「知るか、んな事。そいつがハラ決めてやるって言ってんだ、好きにさせりゃあいい」

「自分の相棒の為なら、『彼』を犠牲にしても構わないって言うのか⁈」

「よく分かってんじゃねえか」


 そう呟いて、ヴィンセントは静かに銃口をあげた。


「逃げるのは勝手だがよ、そいつは置いてきな」

「僕に銃を向けるのか……。力で奪い取るなんて、サバノヴィッチと同じだな」

「今更過ぎるぜ。立場が違うだけで、野郎と俺は同じ側に立ってるのさ。とっくに理解してると思ってたが、学者先生は意外と鈍いな」

「いくら脅されようと僕の気持ちは変わらない、銃を向ければすべてが思い通りになると思ったら大間違いだぞ。友人をみすみす死なせるなんて、僕には到底出来ないからね」


 吐き捨てて振り返ろうとしたマイケルの足下で銃弾が跳ねた。


「なら、お宅には良い案があるのか? 逃げたところでどうせくたばる、万事丸く収まる妙案があるならお聞かせ願おうか、センセ?」

「そんな都合の良い考えなんてあるわけがない。『彼』を犠牲にしないで済む方法があるなら、迷わずを選んでいるさ」

「……だからこそ、俺たち(・・・)に選択権はねえんだよ。為す術を持たない俺たちにはな」


 ぽつりとヴィンセントは溢した。

 選択権とは、そのもの手段と呼んでもいい。紙幣をどう使うか選べるのは、財布にドル札が挟まっている者だけであり、持たざる者は行く末を見守る程度が関の山なのだ。しかし、ヴィンセントはただの傍観者でいられるほど、冷め切っても諦めてもいない。


 悲観に暮れるより先に、まだやれることがある。例え相手が宇宙人でも、ハラを括って事に望むならせめて花道は作ってやらねば――


「……お宅よぉ、ダチの覚悟に泥塗る気か?」

「そうは言っても、僕には……」

『ヴィンセント君、ワタシが話すよ』


 またしてもぼんやりとした声が響いて、マイケルは手にした宇宙船に目と耳を向けた。


『マイケル、キミの気遣いには心より感謝する。しかしどうか、ワタシを行かせてくれまいか』

「無理だよ、だって……、だって、死んでしまうかもしれないのに。命の恩人を、見捨てる真似なんて、どうして出来ると言うんだ」

『命の恩人という意味では、キミもワタシにとっての恩人ではないか。それどころか、これから生まれる銀河が育む、無数の命の恩人でさえあるのだよ、マイケル』


 スライムはそう呟いてから、しばし沈黙した。寡黙でメタリックな小型宇宙船の外観からは、彼がその内部でどういった思考を巡らせているかなど想像も付かないが、どことなく言葉を大事に選んでいるような沈黙であった。


『……いや、違うな。こんなものはすべて建前だ」

「…………え?」

「今のワタシを突き動かしている行動原理はより単純かつ難解なものだ。友人を守りたいのだよ、この身に変えても、銀河を懸けてもね。ワタシの役目は遺物と接触し新たな銀河を生み出すこと、それだけがワタシの存在理由だった。しかしこうしてキミと出会い、短いながらも同じ時を過ごすなど、本来ならばあり得ない事態。……だが、我々は出会った。ワタシにとっての約束の地は遺物との邂逅ではなく、マイケル、キミとの出会いにあったのだよ』

「…………」


 マイケルは声が出なかった。喉に詰まっているのは感謝の言葉か、それとも別れの言葉なのは定かではないが、言わずともその心を理解したスライムがヴィンセントへと告げる。


『さぁ、征こうか』

「任せとけ」

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