Promise Land 7
洞窟の入り口に残された兵士達は明らかに緩みきっていた。MLA自治国政府とウォーロックはねんごろの仲だし、支配下にある市民は彼等に抵抗できない。ましてやジャングルの奥深くとなれば車両警備に残された兵士の士気はピクニック並であるといえる。しかも隊長の夢物語に付き合ってこんな僻地にいるのだから、緊張しろというのが無理な話だ。
だが、そんな彼等でも流石に気が付くことがある。
どこからともなく聞こえてくる、唸るような地鳴り
その揺れが、その音が
次第にだが確実に大きく
そして近づいてきていることには
流石の彼等も気が付いた
もっとも、銃を手に茂みの奥へと目をこらしたときには、既に手遅れなのだが……
草木を飛び越え現れたのは獣たちの群れ
草食獣がその脚力で兵士を蹴倒し、踏みつぶし
肉食獣は人間の華奢な首元へと飛びつき引き裂いていく
そして、その野性の津波に乗った三人のサーファー達もまた存分に力を振るっていた。
カウボーイよろしく一番槍として飛び込んでいったヴィンセントが、鹿の背から拳銃を撃てば、彼を狙う兵士の突撃銃をマイケルがムチではたき落とす。
勿論レオナだって負けちゃいない。彼女が放った手製の弓は、車載の機関銃を撃ちまくってる兵士の目玉を射貫いているのだから。
数の不利を消す奇襲は見事に刺さり、ウォーロック兵は大混乱。スライムがけしかけた動物たちとヴィンセント達三人だけで、装備充分な部隊はものの数分で壊滅していた。
それも無理のないことだろう。なにせ暴れ回る巨大な野性動物を気にしている間に、背中から撃たれ射られれば、逃げ出す一歩が出るよりも、このからオサラバする方が早い。
「おいマイケル、無事か? あんたに死なれちゃ全部パーだぜ」
敵の死体から突撃銃を回収しながらヴィンセントが問う。動物たちはすでに皆、森の中へと消えていた。
「あぁ、この通り五体満足でね。しかし、あっけなく成功したな」
「こいつ等はただの見張りだ。本隊はサバノヴィッチと一緒にあの洞窟の中だろうよ。発掘するのかどうか知らねえけど、人手は向こうに割いてるらしい。――ところで銃は使えるよな?」
「当然だ、考古学者だぞ」
「……その返事あってるか?」
言いながらヴィンセントが突撃銃を渡してやると、今度はレオナが声を上げる。
「二人とも、頭下げてなッ!」
その警告に従って……というより反射的に二人が伏せれば、その頭上をレオナが奪った重機関銃の弾丸が、洞窟の入り口めがけて飛んでいく。どうやら騒ぎを聞きつけた兵士が様子を見に戻ってきていたらしいのだが、哀れにも無警戒に飛び出してきた彼等はモロに弾雨に身を晒すハメになり、一瞬のうちに肉の塊へと姿を変えてしまったのだった。
まさに鎧袖一触。約50gの鉛弾の前に、人はなんと脆いものか。まぁ撃ってた本人はすこぶるご機嫌の様子なのだが。
「ヒュー、やっぱ50キャリバーってのは最高だね!」
「バッカ野郎、レオナ! 当たったらどうすんだ⁈」
「だから伏せろって言ったでしょ。それに当たンなかったんだからグチグチ言うなっての」
「当たってたら文句も言えねえよ!」
なんて、まるで日常のような怒鳴りあいを始めた二人を眺めるマイケルは、おずおずと尋ねていた。
「……今更な質問かも知れないけどねヴィンセント、キミ達ってどうかしてるのかい?」
「これが俺等の日常さ。ようこそ博士、夢見た世界へ」
「ひどい皮肉だね、胃もたれしそうだ」
「我慢してくれ。少なくともサバノヴィッチをぶちのめすまでは」
マイケルは長く息を吐いた。ある意味で自分が蒔いた種でもあるのだから、それを刈り取る覚悟はしなくてはならない。ヴィンセントの言うとおり、あれこれ考えるのは後でやるべきことなのだ。
「……あと何人くらい残っていると思う?」
「さぁな。車両の数からして数人程度だとは思うが、数まではなんとも」
その時である。
黙って話を聞いていたレオナの虎耳がぴくりと反応した。
「ヴィンセント」
「あん? どうしたレオナ」
「無駄話してる時間ないよ、おかわり来てる」
人間よりも遙かに優れた聴覚を持つレオナだからこそ、深い森のなかを抜けてくる僅かなエンジン音を聞き取れるのだ。近づいてくる数台の車両は、一〇分もすればここまでやってくるだろう。
「サバノヴィッチの野郎、応援呼んでやがったか」
「どうするんだ、ヴィンセント?」
マイケルの問いはシンプルながら深い選択である。
挟撃のリスクを承知でサバノヴィッチを追うか。それとも時間を犠牲にしてでも、応援を潰してから追うか。どちらも相当のリスクを伴うのは言うまでもないが――。
「レオナ、任せるぞ」
「あいよ。ハゲ野郎をぶん殴れないのは残念だけど、その分楽しむとするさ」
「そんなまさか⁈ レオナ君たった一人でか? 相手の数も分からないのに!」
「あのねぇ博士よく聞きな。ここは火星の森ン中、つまりアタシの庭みたいなモンさ。やりようなンてのはいくらでもあるんだよ、まぁ任せときなっての」
その言葉に表情に、マイケルは静かに身震いしていた。
牙を覗かせるレオナの笑みは、これ以上ないほどに頼もしく、そして残虐なものであった。
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