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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
4th Verse Promise Land
287/304

Promise Land 6

「いやいやいや、それはないだろ。銀河は宇宙にあるガスやらが集まって星が出来て、似たような現象が続いて成長していくものだ。いまや宇宙時代だぜ、それくらい小学生だって知ってる常識だ」


 銀河を生むためにやってきたなんて言葉をあっさり信じられるわけが無く、ヴィンセントの眉根は勝手に寄った。


「その認識は正しいよ。でも最初の一歩についてはどうかな? 星の誕生は観測され、そしてキミ達も知るところだが、それはあくまで知識であって、自身で目にした事ではないだろう」

「まぁ……、それはそうだけど。お宅の言う、最初の一歩ってのはどういう意味なんだ」

「銀河の始まり、その最初の星が作られる始まりさ。この時点で、キミ達の知り得ない現象が起こっている、それがワタシと遺物の接触によって起こる事象だ。もしかしたら、既に人類にも観測はされているのかも知れない。そうなると、キミ達の手が届く知識の範囲を超えているという可能性もある」

「もみ消されてるとか、そういうコト言ってンの?」

「そうだよ、レオナ君。事実、キミが宇宙人と呼ぶに相応しい存在と出会ったのは、ワタシが初めてではないかね?」

「待てよスライム、その口ぶりだと宇宙人は他にもいるように聞こえるぜ」

「大勢いるとも、人類に気付かれないように紛れ込んでいるだけだ。彼等の存在は巧妙に、そして厳重に隠されている。と言っても、秘匿しているのもまたキミ達人類なのだけれどね」

「……MIBみたいにか? まるで映画だな」


 茶化してみるが、冗談の範疇はとっくに超えてしまっていて、ヴィンセントの口調も引き笑いが混ざっている。


「どうして隠したりすンのさ?」

「映画でも言ってたろレオナ。人類には、まだ宇宙人を迎える準備が出来てないからだ」

「人類の空想力は驚かされるね。キミ達は時に感じられる現実よりも深淵にある真実を、その頭の中で造り上げてみせるのだから」

「お宅の予想だと、宇宙人と地球人――あぁ人類が交流を持つまでどれくらいかかる?」

「ワタシは万能ではないよ」

「だから予想を訊いてるんだ」


 正直なところ楽しみであるのか、ヴィンセントは期待半分くらいで尋ねていた。しかし、何事も期待通りの結果とはならないのである。


「……あくまで予想だが、もっとずっと先のことになるだろうね。種族も文化も価値観も、大いに異なる宇宙人を受け入れるには人類はあまりに幼稚だ。マイケルが知りうる知識だけでも、断言できてしまうほどにね。地球という恵まれた同じ星に産まれながら、その欲深さゆえに幾度となく殺し合い、肌の色が、属する国が違うというだけで排斥する。その解決策も練られたようだが、所詮は理屈に拠るよるもので、本質から人類が変わることはなかった。現に、ヴィンセント君のような人間種は、より進化した獣人種を受け入れられてはいないのだろう? あぁいや、キミがそうだとは思っていないよ、レオナ君との関係性からそれくらいは分かる」

「そりゃあどうも、でも反論は見つからねえな。火星や金星に縄張り広げても、結局そこで同じことを繰り返してる訳だし」


 平和とは次の戦争までの準備期間である


 汝平和を欲さば、戦争の準備をせよ


 どちらも古い言葉だがこんなに強烈な皮肉は他にあるだろうか。

 しかも、この手の名言がいくつもあるってこと自体が、人類の愚かさを皮肉っているという嫌味まで含んでいるのだから、ヴィンセントから苦笑が漏れるばかりである。しかしまぁ、レオナにはそこまで響いてはいなかったらしい。


「聞いたかよヴィンセント、獣人の方がスゲェんだってさ」

「エリサなら納得だけどお前は例外だ。頭悪いんだから差し引きゼロだろ」

「はいはい、負け惜しみだね」

「ふふっ、そうやってキミたちような価値観を持つ者が増えていけば、いつかは宇宙人が姿を現す日が来るのかもしれないね。二人の間に、ワタシは希望を見ているよ」

「バッカじゃないの? アタシ等に希望だって?」

「同感だな。お宅は運良く同じ側に立ってるからそう感じてるんだろうが、俺たちはハッキリ言ってロクデナシだ。どっちかつぅと反面教師のほうが似合ってるぜ」

「善と悪、その両面を含めての話だよ、何事においてもバランスが大事なんだ。世界は絶妙な混沌の中で産まれ、混沌の中で維持されている。これからキミ達に求めているのは、正すための過ちなのだから」


 サバノヴィッチの暴走を止めるために手段を選ぶつもりはない。そういう意味では『殺し』という悪事でもって、平和を守る『正義』を成すとも取れる。確かにこれは、善悪を明確に分けられる行為ではないだろう。


 というか、ヴィンセント達には選べるような手段がない、というのが正直なところであった。


「さぁ~てと、連中に追い付きはしたけど、どう攻めるか……」


 洞窟前に陣取っているウォーロックの兵士を離れた崖から観察しつつヴィンセントが呟く。向こうには数台のトラック、装甲兵員輸送車が一輛に一〇名以上の兵士、もちろん全員小火器で武装しているのに対して彼等の装備は貧弱も貧弱である。


「こっちは残弾少ない拳銃二挺とナイフ、それから――」

「弓だね」


 手製の弓、そのしなり具合を確かめながらレオナが二の句を継いだ。当然のことながら矢も用意してあるが、どちらも森の素材をナイフで加工しただけのシンプルなもの。まさに現地調達の極みを地で行く装備である。


「……なぁレオナ、それって使えるのか?」

「試し打ちしたのアンタだって見ただろ。火星の植物は強度あるからね、そのぶん扱うのに力いるけど、この弓なら二十メートルくらいは射程内さ。それよかアタシは、もう一個のもうが気になンだけど」


 レオナがそう言って眉根を寄せた先には、極太のツタを束ねて作った、これまた即席のムチが置いてある。ヴィンセントが入念に踏みつけて繊維をほぐしたおかげで、かなり柔軟な動きをするようにはなっているが、こんなものが役に立つのかという疑問は残ったままだ。


「用意しろって言うから造りはしたけどよスライム、お宅、ムチなんて扱えるのかよ?」

「無論、扱えるはずがない。しかし安心してくれたまえ、ワタシの友が力を貸してくれる」


 スライムがそう言って耳の中へと引っ込むと、宿主であるマイケルの眼付きが代わった。それは幾度も危険を乗り越えてきた、いわば漢の眼光である。

 スライムの協力でようやっと投与されていた薬物が抜けたらしく、呂律も背筋もしゃっきりとした芯が通っており、JJ・マイケルの帰還と言っても差し支えなさそうである。


「初めまして、でいいのか? なんだか不思議な感覚だな」

「挨拶はいい。状況は理解してるのか?」

「ああ、『彼』を通して話は聞いていたから説明は不要だ。随分と助けられたようだな」

「礼なら生きて帰ってからにしな。それよかアンタ、ムチなんて使えンの?」


 そう言ってレオナから投げ渡されたムチをしならせると、マイケルはその一振りで頭上の木の実をはたき落として見せる。


「考古学者にムチは必需品だ」

「だな、あとはハットがあれば完璧にジョーンズ博士って感じだ」

「おっ⁈ キミ、話せるな。何を隠そう、僕が考古学の道に入ったのはあの映画が発端なんだ、古代の遺跡やそこに秘められた謎、壮大な冒険に惹かれてね。気が付けば古代火星の神秘を追い求めていたって訳なのさ。いつかは映画のように戦う日が来るかもと期待していたが、まさかナチスに代わって、PMCから宇宙を守る日が来るとはね。ところでヴィンセント、キミの意見を訊きたいのだが、リブート版についてどう思う? 僕はやっぱりハリソン・フォード版が一番だと――」

「おい馬鹿二人、映画評論始める前にやることがあンだろ」


 レオナに活を入れられて、ヴィンセントとマイケルも崖の淵に立ち、横並びとなった三人は黙って目配せをするであった。

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