Run Through The Jungle 7
「撃ちやがった、あの野郎……」
その光景を望遠で眺めていたヴィンセントが唸る。怒りが湧くほどでなかったが、知り合いが処刑されるのを目の当たりすれば、嫌な気分になるというものだ。
逆にレオナは移動時間のほとんどをシート下に隠れて過ごしていたので、渇いた意見を漏らしてくる。
「ンなことよか、荷物探しな。ボスがあの様子じゃあ、生きてるかも怪しいンだからさ」
「確かにな。あの眼帯野郎、指揮官のわりに気が短すぎ――……ッ⁈」
突然、双眼鏡を覗いていたヴィンセントが、慌てて横に転がり岩影に身を隠した。まるで鼻を休めている鳥が、蛇の気配を感じて飛び逃げるように。
「何してンの、ヴィンセント」
「……サバノヴィッチと目が合った。寒気がしたぜ、見られたかも知れない」
「馬鹿言ってンじゃないよ。アタシ等は太陽を背にしてるんだから、こっち見たトコで眩しくて姿なんか分かりゃしないさ。処刑の一つくらいでナーバスになってどうすンの」
レオナは樹木の影から望遠スコープを覗いたままであるが、そのおかげで重要な発見を逃さずに済んだ。ずばり、荷物の在りかである。
「見つけたよヴィンセント。サバノヴィッチの行き先を見てみな」
「……ああ、でもよ。なんだか様子がおかしくねえか、マイケルの奴」
サバノヴィッチが入っていったテントの下にいるのは、椅子に座らされた一人の男。背格好からして、こいつが恐らくマイケルなのだろうが、そうだとヴィンセントが確信を持てずにいるのは、あまりにも変わり果てた彼の姿のためだ。
髪はボサボサで、服もボロボロ。街のホームレスと遜色ない有り様で、彼の邸宅で見た写真とは大きく様子が異なっている。そしてなによりも異様なのはその表情、特に眼付きである。
大きく見開いた目は眼窩から飛びださんばかりだし、しかも一切瞬きをしていない。さらに、絶えず身体を揺すり続けているとくれば、ヴィンセントでなくともまず彼の正気を疑うところから始めるはずだ。
「控えめに言ってもよぉ、ありゃあ……」
「イカレてンね、絶対に」
ようやく望遠スコープから目を離したレオナから、深い溜息が漏れてくる。彼が生きていることは、依頼人であるアズィズにとっては朗報だろう。あくまでもアズィズにとっては、だが。
「何回か言ったかもだけど、いまマジでこう思ってる。いっそ死んでた方がマシってさ」
「それを言うなよ、レオナ」
「けど実際クソ厄介だよ。死体ならそう報告するか運べばいい。でも生きてンなら連れて帰ンなきゃならない。なのにあのイカレ具合じゃ途中で暴れるに決まってる。いっそさぁ――」
「マイケルを撃つのはなしだ。俺だってそうしたいけどよ……」
ヴィンセントからも溜息が漏れる。けれどまぁ、これがたつきの道なのだから仕方の無いことである。考えるべきは楽な逃げ道よりも、障害物を如何に避けて進むかなのだ。




