Run Through The Jungle 5
ヴィンセント達が入国したMLA国境から北西へ約三百キロ地点。
火星にあるエヴォル粒子の影響で異常成長した木々が埋め尽くす鬱蒼とした山岳地帯のなかに、傭兵派遣会社ウォーロックのキャンプはある。人里から離れた山岳はまさに訓練を行うのに最適な場所と言えるだろう。ましてや違法な戦闘行為に荷担している組織ともなれば、人目を憚って当然なのだから。
しかし、である。
このキャンプでは一切の銃声もなければ、ランニングしている兵士の歌さえ聞こえてこない。木々を揺らしているものといえば、山を掘り進む採掘音と、現地で調達した採掘者にぶつけられる怒声くらいだ。
「これってさぁヴィンセント、聞いてたより規模デカいンじゃないの?」
遠方の崖から偵察を行っているレオナが、ライフルスコープから目を外して言った。隣で伏せながら双眼鏡を覗いてるヴィンセントも同意見らしい。
「宇宙の神秘とやらにかなりご執心らしいな、連中はよ」
「ただ事じゃないでしょ、あの感じ。重機まで使って山掘ってやがる」
「だとしてもダンが言ってたとおり、俺たちには無関係だ。マイケルの身柄さえ確保できりゃあ、あとは依頼の範疇外だぜ。いいから荷物を探そう」
十を超えるテント
並んだ重機にいくつもの車両
警備に付いている兵士は当然のように武装している
人数は五十をくだらない
この中からマイケルを探し出すのは中々に骨の折れる作業である。しかしその最中、幸か不幸か、他の注目すべき人物をレオナが見つける。
「ヴィンセント、見て見なよ。あのハゲ頭」
「……間違いねえ、サバノヴィッチだ」
厳めしい禿頭に傷跡で歪んだ顔。そしてメカニカルな眼帯をしている風体を見間違うはずもない。歴戦の兵士であることを一目で分からせる雰囲気が匂い立つその男こそ、ウォーロックの指揮官、イゴール・サバノヴィッチである。
そして同時に、奴の顔を確かめたヴィンセントの脳裏にはイヤな感覚が奔っていた。昨日すれ違った車列、その車中にいたサバノヴィッチと目が合っていたのではないかと、あの一瞬の邂逅で何かを察知されたのではないかと――
「チッ……。ヴィンセント、ちょいと拗れてきたみたいだぜ」
「なに?」
「キャンプの入り口、あれってマズいンじゃない?」
「…………おいおいおいおい」
どうしてこう、予感ってのはイヤな方向ばかりが当たるのか。ヴィンセントのぼやきは、どうにもならない不運をかみ潰そうとしてるようだった。




