Danger Zone 8
続々と発艦してくる海賊共の戦闘機。
数は十機。
『上がってきたな……。ウェッジより各機へ、散開し敵を迎撃せよ。ただしくれぐれも、敵母船に近づきすぎるな、撃ってこないとも限らないからな』
無線に呼応するように、味方機は各々交戦を告げて戦闘に入っていくが、ヴィンセントだけは即応せずに数秒だけ敵機の反応を眺めていた。
発艦と着艦は、パイロットの腕が最も問われる瞬間の一つ。ましてや出撃、即戦闘という緊迫した状況では、自力の底がモロに出る。真の実力とは、緊張下において測られるものだという言葉はまさに金言と呼ぶに相応しく、そういう点を念頭に置いて退いた視点から眺めていると、結構いろんな事が分かるものだ。
例えば――
『おいヴィンセント、なにをチンタラしてんだ⁈』
「……様子見だよ」
思考に割り込んできた威勢のいいフーチの声に、ヴィンセントは溜息で応じていた。
『様子見だぁ~⁈ ンなもん必要あっかよ、さっきの発艦見たろうが! 大した事ねえぜ、コイツ等。モタモタしてっと、俺様が全部喰っちまうぜぇ! ――だぁー、クソ、この野郎! ちょこまか逃げるんじゃねえ!』
「言う割に手こずってるな。……気をつけろよ、八時方向上方から一機来てるぞ」
『チィッ、ペーペーの新米海賊共が! 俺様を殺ろうなんて百億万年早えってんだぜ!』
慣れない機体に乗っているのにフーチは活き活きとしていた。
普段の海賊業でフーチの駆っているのは速度に特化した大型の宇宙戦闘機で、逃げる獲物に食らい付き一撃離脱を旨とする力任せの機体であるが、いま彼が駆っている機体は色々と正反対の特性を持った戦闘機である。
エンジンは単発で小型軽量
ロールの反応も鋭いときている
普通、ここまで操縦性の異なる機体を飛ばすとなると、どこかで不具合が出るものなのだが、彼はむしろ、いつもより自由に飛んでいるように見える。
フーチはケツに張付こうとした敵機を容易く振り切ったかと思えば、次いで見つけた逃げ回る海賊機を執拗に追いかけ回していて、そのエンジンの残光は、その他幾本もの軌跡の中でも一際滑らかだった。だが、ついにへたばった敵機に向けて銃爪を絞ろうとした瞬間に、フーチは驚きの声と共に機体を翻すことになる。
前を飛んでいた敵機の主翼が、突然吹き飛んだのだ。
原因は明らかで、悠々と前方を飛び抜けていった白銀の戦闘機に向けて彼は怒鳴っていた。
『ヴィンセントッ! てめぇ、俺様の獲物に手ぇ出しやがったな!』
「わるい、喰いやすかったんでついな」
次の獲物を物色しながら、ヴィンセントは悪びれることなく答える。
「共同撃墜ってことでスコア分けようぜ」
『なぁ~にが共同撃墜だ、ハイエナ野郎! ほとんど俺様が追い詰めてたろうが!』
「細けえことに拘るなぁ、獲物はまだまだいるんだぜ?」
『どんだけ太々しいんだ、テメェはッ!』
フーチはそう言ってがなり立てているが、他のパイロットからしたら太々しいのは二人とも同じである。なにしろ他のパイロットたちが必死でいる中、この二人だけが軽口を叩き合いながら空戦に望んでいるのだから――
そうこうしている間に、またレーダーから反応が一つ消えた。
味方の誰かが海賊機を落としたらしい。
これで残りは八機となり、撃墜数に応じてボーナスが出ることを考えると、ヴィンセントとしてはあと二機くらいは喰いたいところだが、まずはスピーカーを揺らした一番機からの警告に耳を傾けるべきだろう、
『ラスタチカ、後方に敵機。スリーカウントで右へブレイク』
「了解ウェッジ、お手並み拝見だ」
ヴィンセントは後方確認用ミラーに写る機影を確かめ
カウント三つで右へブレイク
こちらの機動に釣られて機首の上がった海賊機に
ウェッジの放った機銃弾が撃ち込まれる
「お見事!」
真っ二つに裂けた残骸を尻目にヴィンセントが言えば、ウェッジの釘を刺すような声音がそれに応じた。
『キミ達の実力を疑いはしないが、気を引き締めてくれよ? こちらの戦力に余裕はないし、なにより帰るまでがSCMだからな』
「心配しなさんなって。なにせ久々の空戦だからな、そろそろギア上げていこうと思ってたところさ。それはそうと――おいフーチ!」
『あ? なんだ?』
「お前もエンジンかかってきたろ、残りもさっさと片付けるぜ」
『誰にもの言ってやがる。今日のトップエースは俺様がいただきだぜ!』
ウェッジが一機墜としたことによりに数は五分となっていて、数的不利が消えてからは怒濤だった。ヴィンセントとフーチの二機はとにかく暴れ回り、僅かでも隙を見せた敵機を次々に墜とし、半数以上の海賊機を戦闘不能にしただけでなく、担当する海賊船を追い返すことにも成功した。
これで、彼らの受けた任務は一応の完了をみたがしかし、一度火の付いてしまったヴィンセント達は収まらなかった。それに一部の海賊船を撃退したところで、クレイドル号がやられてしまっては意味が無く、まだ交戦中の味方の戦況を聞くや、ウェッジやマーヴェリック隊の連中も引き連れて、苦戦している宙域に出向いては暴れ、出向いては暴れを繰り返したのである。
その結果、ヴィンセントとフーチ、それに引き摺られるようにして転戦したウェッジ達は、四つの宙域で行われていた戦闘のうち、三つに首を突っ込むという無茶苦茶な大立ち回りを演じたのだった。
交戦時間、57分
八機撃墜
これがヴィンセントのスコアである。
フーチに一機差でトップエースの座を譲ってしまったのは悔しいところだが、五体満足で帰還できているのだから上首尾と言っていい。しかもこちらの被害はかなり小規模で、クレイドル号は無傷、迎撃に上がった味方機の数機は被弾したものの、パイロットは全員無事に帰還していることを考えれば、十二分に勝利と言えた。
が、流石のヴィンセントでも長時間かつ乱戦という状況は堪えたのか、アルバトロス号に戻った彼は、降機するなり格納庫に置いてあるオンボロソファで横になっていた。先にシャワーで汗を流すべきだったと思った時にはすでに遅く、瞬きするために目を閉じたが最後、彼はそのまま睡魔に引っ張られてしまったのである。
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