Danger Zone 7
隊長の機動にピタリと合わせて、ヴィンセントとフーチも機体を旋回させる。並んで飛ぶとよく分かるが、やはりこの隊長機もかなりの手練れらしかった。小型の宇宙艇を改造したコスプレ戦闘機にもかかわらず機敏で、その機動には一切の無駄がない。
一体、どんなふうに手を加えられているのか気になるヴィンセントだが、それを尋ねるのは帰還したからになりそうだし、なによりも今は、右翼を飛んでいる奴の方が気になりすぎる。
美少女イラストの描かれた機体もそうだが、さっきからなにかを訴えてくるフーチが視界の端に居座っているのだ。
「なんのつもりだ、あの野郎。言いたいことがあるなら無線を――、ああ応答しろってことか」
隊長機には聞こえないようにフーチが設けた新しいチャンネルに応じてやると、開口一番にフーチが叫んだ。
『言っとくが、俺様は無関係だからな!』
「……まだ何も言ってねえだろ」
『とぼけんな、疑ってんのは分かってんだ。今回の襲撃に俺様が絡んでると思ってんだろ⁈』
「まさか! 海賊のお前が一枚噛んでるなんて思いもしてなかったぜ?」
当然のようにヴィンセントは皮肉る。
……というか、ここで関与を疑わない方がむしろどうかしているのだが、キャノピー越しのフーチは身振り手振りも加えて弁明を続けていた。
『まぁ、そう思われても仕方ねえ。俺様の生き方を考えれば当たり前だ。だがそれでも、今回だけは大マジで無関係なんだ。第一、俺様がSCMを襲うなんてあり得ねえだろ!』
「超巨大宇宙船、長期の大イベント、金を持って集まるオタク。金もグッズも掴み放題だ、狙う理由しか見当たらないぜ、いまのトコ」
『バッキャロウ! 作家さんや同志たちにケガなんかさせたら事だろうが! それに、ンな事したら二度とイベント開かれなくなっちまうじゃねえか! いいかヴィンセント、俺様はお金で買えない価値を求めてイベントに参加してるんだ! 金なんざどうだっていいんだよ!』
「ここまで説得力のない台詞は珍しいな。それにその宣伝文句は、我々が健全と認めた物だけを買えっていう、決済企業のやつじゃなかったか?」
『いまはそんな事どうだっていいんだよ、相変わらず重箱の隅を突く野郎だぜ! とにかく俺様は無関係で、襲ってきた連中に怒り心頭ってワケなんだ、それだけ覚えとけッ!』
そこまで言われても、まだ疑わしくはある。疑わしくはあるが、同時にフーチは真実を語っているかもヴィンセントは考えていた。
……というか、本気でアニメ好きじゃなければあんな格好(魔法幼女のコスプレ)なんて出来ないだろうし、わざわざ新しい宇宙戦闘機を一機用意して、美少女のイラストで飾ったりもしないはずだ。無論、その全てがカモフラージュという可能性も存在しているが、ここまでされたのならば、むしろ天晴れという気持ちの方が強く、逡巡したヴィンセントは渋々ながらもフーチの言い分を信じることにした。
「フーチ。もう一個だけ確認しとくが、お前のクルーは今どこで、なにをしてるんだ?」
『あん? さぁな見当も付かねえ。ウチは毎年、年末は自由行動にしてんだ。いっつも俺様ってカリスマの下にいたんじゃ、疲れっちまうからな』
「お前それ、自分がイベントに参加するための方便だろ」
『おい順番は守りやがれよ、次は俺様が質問する番だ』
お好きにどうぞと、ヴィンセントからは溜息だけが漏れる。
『俺様のコールサインにしたビッグズってのは、どういうキャラなんだ?』
「聞きたい事ってそれかよ」
『いいじゃねえか、教えろよ。気になるんだ』
ビッグズはスターウォーズの登場人物で、帝国の秘密兵器を破壊するために、主人公ルーク・スカイウォーカーと一緒に出撃したパイロットであるが、どちらかといえばマニアックな登場人物だろう。
「ちなみに、一番機がコールサインにしてるウェッジも同じ部隊の所属で、ルークを援護してデススターの破壊に成功してる。無事に帰還したのは三、四機だったかな」
『なるほど。じゃあビッグズも生き残りの一人ってわけだ』
「いや、ビッグズは死んだ。ベイダー卿に墜とされて」
『テメェ! これから空戦だってのに、なに縁起の悪い名前付けてくれてんだ!』
パイロットというのは昔から験を担ぐものだから、不吉な謂われを嫌う傾向にある。地球の空を飛んでいてた頃でさえ、どんなに小さなトラブルであっても死に繋がりかねない飛行機という乗り物を操る以上、些細な不幸もお断りなのである。
そういった事情を思えばフーチが喚くのも無理からぬ事だが、幸いヴィンセントは彼の怒声から鼓膜を守ることが出来た。
いま最も優先されるべき通信、ウェッジからのコールが入っている。
『マーヴェリック隊も戦闘準備が整ったようだ』
九時方向から接近してくる四機の宇宙戦闘機は、それぞれ古い米海軍機を模した機体。機種は勿論F―18と、塗装や撃墜マークだけでなく、宇宙空間では絶対に不要な可変翼まで再現されているF―14である。
その完成度にはヴィンセントも興奮に口元が緩みかけたが、流石に状況が状況である為、子供みたいにはしゃぐことはなかった。
……というより、出来なかったと言うほうが正しいかも知れない。
レーダーに感
敵海賊船より戦闘機が上がってきた




