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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
1st Verse Danger Zone
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Danger Zone 6

 会場で配布されているブレスレットに電話等の連絡があった場合、青い発光と振動が装着者に着信を知らせる。発光パターンは固定で色の変更も着信音の変更も不可となっているのは、これがイベント期間限定のレンタル品であるからだ。通常時――というより大多数の参加者が目にするのは青い発光のみとなっているが、主催者と契約を結んだ一部の参加者に限り別パターンの光をブレスレットが放つことがある。


 契約内容を端的に示すならこうだ。

 本船『クレイドル・オブ・ヴィーナス』号の船内で緊急事態が発生した場合、または外的な危険が迫った場合には、本船護衛隊の指揮下に入り、避難誘導、もしくは護衛戦闘を行う――というものである。そして、オリガに呼び出された駄賃ついでに、アルバトロス商会の仕事として、彼もこの契約を結んでいたのだった。


 そうなれば、当然この光の意味も知っている。

 オレンジの発光は外敵接近の意、言葉を変えればスクランブル要請だ。しかも、今日は控えである彼にまで連絡がくるってことは、かなり切迫した事態なのだろう。


 ヴィンセントはオリガに警告だけしてから、エリサを引き連れて急ぎ自分たちの宇宙船へと戻る。提げていた荷物を適当に放り投げた彼は、格納庫から甲板まで駆け上がり、そのまま愛機(ラスタチカ)の操縦席に飛び込んだ。

 アイドリングしているエンジンに張り合うようにして、機体をチェックしているダンが声を張り上げている。


「遅いぞヴィンセント、どこで油売ってたんだ!」

「今日は控えなんだから遊びに行ったって構わねえだろ。つーかダン! 契約した時、『俺等の出番はまずない、ボロい仕事だ』って言ったよな! 俺は覚えてるぞ!」

「こんなこともある。実際のトコ、襲撃されたのは過去一度きりだからな。戦闘にならなくても最低額の保証がされてりゃあ契約しとくのが得ってもんだろう。引いちまった貧乏くじは戻せねえんだ、諦めて集中しろ」

「俺は準備出来てる、機体の方は⁈」

「給油が終わればいつでもだ。――レオナ!」

「OK、これで腹一杯だろ!」


 給油ホースを外したレオナが親指を立てて離れていく。彼女が発艦準備を手伝っているって事は、相当急いで支度をしてくれたってことだ。まぁ、ダンにケツを叩かれて手伝っているだけかも知れないが、発艦をスムーズに行えることには感謝である。


「オーライ、レオナ。離れてろ!」

「ヴィンス~ッ! 気をつけてなのーッ!」


 エンジン音の合間を抜けてきたのはエリサの声援。小さな白い両手を握りしめているエリサに、ヴィンセントはサムズアップで答えてキャノピーを下すと、重力制御装置の出力を上げて機体をやわらかく浮かび上がらせた。


 と、同時に無線機からダンの声が――


『どうだヴィンセント、機体の調子は?』

「いつも通りいい感じだけど、調子を訊くなら直接訊けばいい。――へい、レイ。調子は?」


 ヴィンセントが尋ねると、ラスタチカに搭載されているAIが女性的な合成音声で答える。宇宙嵐に巻き込まれた時に偶然芽生えた自我は日に日に成長しているらしく、音声にも感情が見え隠れするような気がする。


『おはようございます、ヴィンセント。現状、アルバトロス号で行える整備を考慮すると、機体はベストに近い状態です。三十二日と十四時間〇九分ぶりの戦闘に、わたしのFCSはギラギラしています』

「――だ、そうだ」

『パイロットよりも戦意がありそうでなによりだ。とにかく、こっちでもモニターしているが、今日指揮をするのは護衛隊の管制官って事を忘れるな。くれぐれも、お行儀よくするんだぞ』

「それどっちに言ってる?」

『勿論、二人にだ。いいか、冷静さを保つんだぞ』

「そう心配しなさんなって。貧乏くじでも仕事は仕事だからな、キッチリやるさ」


 ぼやきながらアルバトロス号より離れる。ドックにはアルバトロス号の他にも沢山の宇宙船が停泊しているので、ヴィンセントは機体を慎重に操っていたが、エネルギー式気密カーテンを抜けるなり一気に加速した。


 スロットルの反応も、操縦桿の効きも良好。

 その他、電子機器の動作や、今日の操縦感覚を確かめながらヴィンセントが機首を合流地点へと向けると、出し抜けにレイがスピーカーを鳴らした。


『ヴィンセント、エリサとの外出はいかがでしたか?』

「唐突だな。しかもこれからドンパチ始めようってのに、そんなこと訊きたいのか?」

『交戦までは、まだ時間がありますので。言うなれば時間を無駄にしないための雑談です。僅かな時間に意義を持たすべく、わたしは皆さんの情報収集に当てようと考えています』

「……あのなぁレイ。雑談ってのは、そんな堅苦しいものじゃねえと思うぜ」

『そういうものなのですか? エリサとの会話を重ねたことで、わたしのコミュニケーション能力は29%上昇している計算なのですが』

「まぁ難しいわな。でも饒舌にはなってるから、そのまま学習していきゃいいんじゃねえか。あぁ因みに、外出は楽しかった。ただし詳しいことは後でだ」


 レーダーに複数の反応、合流地点にはすでに他の機体が集まってきていた。

 パッと見だが、戦力としてはピンキリらしい。長期契約で護衛任務を受けている連中はとうぜん安定した実力をもっているようだが、問題は数合わせの短期契約の連中だ。場数を踏んでるベテランから、ノリで申し込んだルーキーまで幅広い。


 ――こいつは少しばかり面倒だ


 そうヴィンセントが口をひん曲げていると、レイは話題を仕事に変えた。彼女も樹を引きしめているのか、音声に若干の硬さが混じっている気がした。


『雑談にも時間の余裕が必要なのだと理解しました。詳細については帰還後に教えてくださるのを楽しみにしておきます。――ヴィンセント、クレイドル・オブ・ヴィーナスより、出撃した全機への通信です』

「さぁ、仕事の時間だな。繋いでくれ」

『諸君、こちらはクレイドル・オブ・ヴィーナスの護衛隊管制だ。諸君の中には本日非番の者もいるだろうが、緊急事態のため全機に迎撃へ上がってもらっている。時間は少ないが、これより状況を説明するので、各機しっかりと聞いてくれ』


 ヴィンセントは今回のお仲間と合流しつつ、管制官の声に耳を傾けていた。なるほど、聞けば聞くほど、頭数が必要には事態であることは理解出来る。


 こちらからの通信に応答しない大型宇宙船が接近中。

 数は四隻で、周辺宙域を監視させていた無人機からの映像によれば、その全てが宇宙海賊の船であるという。しかも、どの海賊団も最近名うての連中のようだ。


『契約時に提出してもらったデータに基づき、各自の任務と部隊の振り分けを済ませてある。これから送る情報に従って緊急編成を完了した後、作戦を開始する』


 部隊は大まかに分けて二つ、攻撃部隊と防衛部隊だった。護衛任務で打って出るってのは妙に思えるかも知れないが、海賊共の数を鑑みれば守りに徹するより、海賊船への攻撃に戦力を割り振ったほうが賢明とも言える。


 それに古い言葉にもあるように、攻撃は最大の防御だ。

 母船を沈めてやれば、慌てふためくのは海賊共の方になる。


 攻撃部隊に配されたヴィンセントが機体を緩やかにターンさせていくと、指定された小隊の集合座標にはすでに一機の宇宙戦闘機が待機しており、背後からその機影を目視した瞬間に、ヴィンセントは息を呑んでいた。


『突発的な興奮状態を検知しました。ヴィンセント、どうしたのですか?』

「い、いや、なんでもない。気にするな、レイ」

『先程からあなたの視線は小隊長機に釘付けになっています。知人か、もしくは知っている機体だと推測します。ですがわたしのデータベースには該当する機体は存在しません』

「あの機体を見たことはない。でも知ってる……」


 真後ろから見るとX型になる可変翼を持ったその機体は、映画好きなら一度は見たことのある機影なのだ。以前、なにかのネット記事で作品のファンが実寸台の稼働機を造ったというのを読んだ覚えはあるが、まさか自身の前にその機影が現れるなど、ヴィンセントは予想だにしていなかったので、まるで美女を眺める様にじっくりと彼が視線を送ってしまうのも無理からぬ事であろう。


 ただし、夢の時間というのは長くは続かないもの。彼を現実に呼び戻したのは、繰り返し聞こえるレイの呼び声だった。


『ヴィンセント、ヴィンセント!』

「あ? あぁ、そうだな、見とれてる場合じゃねえや」

『いえ、そうではなくて。三時方向を確認して下さい』

「んあ? 右翼になにか――……」


 問いながら首を振ったヴィンセントは、そのまま数秒固まった。眉間に皺寄せた彼の視線の先で飛んでいるのは、機体全体に美少女のイラストが描かれた単発の宇宙戦闘機で、そのコクピットには魔法少女のコスプレをした厳めしい犬の獣人が、同じく信じられないといった表情で座っている。


 ハッキリ言って悪夢である。

 ヴィンセントは思わず叫びそうになったが、またしても震えるスピーカーによって彼は怒声を呑み込むことになった。今度は外からの通信、相手は前を飛んでいる一番機だ。


『キミ達が僚機(ウィングマン)か、よろしく頼むよ。こちらはレッドリーダー、コールサインはウェッジ』

「あ、ああ了解。こっちは二番機だ、MGF29に乗ってる。コールサインはラスタチカ」

『三番機だ。コールサインは、えぇっと……』


 普通、コールサインを伝えるのに戸惑うことはない。軍ならば割り振られるものだし、代わりにTACネームを使うにしても、使い慣れているものを名乗るから口ごもるなんてまずあり得ない。それなのにフーチの歯切れがわるいのは、隣を飛んでいるヴィンセントから『お前、マジでふざけんなよ』という冷たくも熱い視線を送られているからだろう。


 とはいえ、こんなことで無駄にする時間が惜しいので、フーチの代わってヴィンセントが口を開いた。


「ウェッジ、こいつはビッグズだ。三番機のコールサインはビッグズ」

『ヴィンセント! てめぇ、なにを勝手に――』

『ほぅ。それじゃあ、キミもスターウォーズファンなのか。同好の士と聖地を守るために飛べるなんて、運命的なものを感じるな』

「ああ全くだ。でもよ、語りてえのは山々なんだが、映画トークに花咲かせるのは、仕事を片付けてからにしようや」

『ああ、楽しみにしているよ』


 ウェッジは笑いながら応答しつつも、一呼吸で気を引き締める。


『さて、作戦についてだが、正直なところ細やかな指示は不要だと考えている。同じ護衛部隊として飛んではいても、初対面では緻密な連携など望めない。キミ達は知り合いのようだが、組んで飛んだことはないんだろう?』


 黙ってヴィンセントは肯定していた。合流してから一分程度の編隊飛行でそこまで見抜くとは、この男が臨時隊長に選ばれたのも納得だ。


『そこでだ。敵海賊船の撃退、または撃沈を目標として設定するが、戦闘に関しては各自の判断で行う形としたい。不慣れな連携で持ち味を殺してしまうくらいなら、自由戦闘で能力を発揮してもらおうと思う。――二人とも異論はあるか』

「ない」

『俺様もだ。勝手にやらしてもらうぜ』

『では付いてきてくれ、なるべく会場から距離を取って海賊共を迎え撃ちたいからね。もう一隊が合流次第、仕掛けよう』

ここまで読んで戴きましてありがとうございます

『いいね』や気軽な一言感想などお待ちしてますので、どうぞよろしく!

もちろん、評価ポイントも大歓迎ですよ!!


それでは続きをお楽しみに!!

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