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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
4th Verse samurai
249/304

Epilogue



 それはまるで舞踏のようだった。


 襲いかかる大勢の人影に臆する事無く、黒髪の男と虎の女性が都合三挺の拳銃を放ち敵の前衛を撃ち倒せば、金髪のサムライとタコの忍者がここぞとばかりに踏み込んで、その鋭い刃を振るって後衛を薙ぎ倒す。


 敵味方、入り乱れての乱戦。

 背中を預けた相棒以外、三六〇度全て敵

 だが黒髪の男は煙草を吹かし不敵な笑みを浮かべている

 その一瞥を受けた虎の女性は、実に楽しげに牙を剥いて大口径拳銃の銃爪を引き続け

 一方では忍者が所狭しと跳びはねて

 サムライは刀一つで敵を斬獲していく

 恐ろしくも美しい闘いの舞踏は留まる事を知らない

 ふと視界に入った金髪に、虎の女性はためらう事無く銃弾を放つ

 龍が吐いた爆炎さながらの銃口炎、稲妻の如き咆哮が撃ち出した鉛の弾頭は、螺旋状に空気を穿ちながら飛翔して、サムライに狙いを付けていた敵の胸を撃ち抜いた

 と、次いでは忍者が上方から現れて、黒髪の男を狙っていた敵を叩きのめすと、ついに舞台に立っているのは彼ら四人だけとなる


 ……だが、まだ終わらない


 彼らは知っているのだ、真に打ち倒すべきは誰なのかを

 ぶつかる視線で全てを悟り、彼らはより相応しい舞台へと駆け出す

 窓を蹴破り、銃弾と刃を交しながら摩天楼を突っ走り、果ては宇宙戦闘機が羽ばたく無重力へと、矜恃を抱いて走り続ける


 そして、遂に――



 ――ピッ!



「あぁなの⁈」


 アルバトロス号のリビングルームで、不意にチャンネルを変えられたエリサが不満を露わにする。躍動感溢れるアニメーションは、代わり映えしないニュース映像に切り替わり、前期懸賞金レースで優勝した賞金稼ぎの代表者がインタビューに応じている所だった。


 大所帯の賞金稼ぎグループでルイーズを雇い入れ、ゼロドームにおける赤龍の拠点を一斉襲撃して大手柄、当然そこで得た賞金も含めて彼らは鼻高々だ。まったく変えた先でも不愉快な思いをするとは思わなかったが、不愉快度に関してはまだこっちの方がマシと言える。

 確かに優勝したのはこいつらだ。しかし、栄誉よりも欲していた宣伝効果は、誘拐被害者を救いだした他の賞金稼ぎにかっ攫われていたのである。

 紳士的に振る舞ってこそいるがあの代表者、内心ははらわた煮えくりかえっている事だろう。


「もう、どーして変えちゃうのヴィンス⁈ エリサ楽しみにしてるのに」


 なんてヴィンセントが考えていたら、エリサが白い頬をぷっくりと膨らませて、お楽しみの番組を邪魔した人物を振り返った。


「アニメばっかり見てると馬鹿になるぞ、ニュースを見ろニュースを」

「むぅ~~、まえはヴィンス逆のこと言ってたのに! いまはアニメの時間なの~~! 宇宙サムライ・ヤマト観るの~~! リーモーコーンーかーえーしーてーなーの~~~~ッ!」


 エリサをここまで夢中にさせた宇宙サムライ・ヤマトは、今子供達の間で一大ブームになっているジャパニメーションである。

 宇宙時代に蘇った魔王を倒すべく、失われた伝説の剣『閻魔刀』を探す旅に出たサムライが、相棒のタコ女忍者と共に銀河を渡り歩く冒険活劇で、意地悪な便利屋の妨害に遭いながらも決して負ける事無く進んでいく様が人気となっているらしい。


 なんで観もしない番組にヴィンセントがここまで詳しいかといえば、その答えは実に簡単だ。制作陣の中にアルバトロス商会で世話した人間、ヤマダがいるからである。

 まぁそこまではいいんだが、お礼として放送前の第一話を送ってきたのは、正直いただけない。なにしろそのビデオを観てからというもの、エリサはすっかりハマってしまい、彼女の日課にアニメ鑑賞が追加されたくらいだ。


 ちなみにエリサのお気に入りは、悪役としてでてくる便利屋の現場リーダー、魔法を使う白狐の少女である。――誰が元ネタかは口にしないでおこう、その魔法少女と彼女に従う二人の便利屋についてもだ、考えるだけでこめかみに銃をあてがいたくなる。


「あのなぁエリサ、俺たちはあの二人の所為でひでえ目に遭ったんだぞ? お前だって危ない所だったの忘れたのか?」

「アニメはアニメだもん、ヤマトは悪くないの! ヴィーンースー、かーえーしーてー」

「なにさアンタ達、またやってンの?」


 リビングに入ってくるなりチャンネル争奪戦を目の当たりにしたレオナが、辟易したように言った。放送開始から毎週繰り返されている光景だけに、いい加減見飽きていても仕方ない。


「そりゃあ文句の一つも言うだろ。ヤマダの野郎、見舞いついでにサムライ共の話聞かせてやるんじゃなかったぜ、俺なんかタコ女に田楽刺しにされてんだぞ? レオナだってもムカついてるだろ? エル・ファミリアに横槍入れられてよ? 乱戦に紛れて狙っても避けられてよ?事が済んだらいつの間にか消えてた、なのに落ち着いてる? いつでも頭でポップコーン作れるお前が?」

「アンタ達見てたら馬鹿馬鹿しくなったンだよ、似てるキャラがいるってだけでギャーギャー騒ぎやがって、耳障りったらないってのさ」

「エリサわるくないもん!」


 ヴィンセントが握っているリモコンを虎視眈々と狙いながら、エリサはぷんすこ反論した。


「もうどっちでもいいから、テレビくらい静かに見なよ」

「む~~なの!」

「おい、どうしたんだレオナ。怒りゲージがオーバーフローして許す気になったってのか?」

「ンなわきゃねえだろ。ただ、また会う気がするのさ。狭い世界さ、次は殺すってだけさね。生き延びた事を悔やむまで徹底的に痛めつけてね。……なにさその面は」

「安堵してる、イカレたまんまだ」

「スキありなのっ!」


 ヴィンセントが静かに怒れるレオナに皮肉めいた笑みを浮かべていると、白い毛皮が彼の手からリモコンをかすめ取る。エリサはそのまま背もたれ飛び越えてソファに座り込むと、チャンネル変えてリモコンを抱え込んだ。


「あぁもうなの、オープニングおわっちゃったの」

「毎週観てるんだからいいだろ」

「よくないの、ヴィンスのいじわるなの」

「大人げねえなぁヴィンセント、好きなテレビくらい観させてやったらどうだ? 邪魔されたくない時間ってのはお前さんにだってあるだろう」


 そう言ってキッチンから戻ってきたのはダンである。流石ダンディーヒゲオジ悪役として登場する男は言う事が違う。普段この時間には格納庫に引っ込んでいるくせに、珍しくリビングに残ったうえに口を挟みやがる。


「俺も観たのは一話だけだが、中々人気だと聞いてるぞ? ヤマダは良い仕事をしたってこった、成功を喜んでやるのが関わった者に出来る事だろうよ。――ほれ、エリサ。これでも食べて機嫌直すといい」

「わぁ、プリンなの。ダン、ありがとう!」


 ぱくりと一口。弾力あるカスタードに絡んだカラメルソースに頬が蕩ければ、エリサはすぐに上機嫌になる。提供クレジットが表示されている間でも、彼女はニッコニコだ。


 と――、ダンが突然珍妙な声を上げた。


「むっ⁈ 思い出した!」

「晩飯なら済んだばっかりだぜ?」

「んなこっちゃねえ。あれだ、ヴィンセント」


 ダンが言う『アレ』とは今まさに画面に映っている提供クレジットである。なんてことない、味気ない企業ロゴが並んでいるだけなのだが、よくよく見れば居場所を間違えているように思える、見知った名前が一つあるのだ。


 グッドスピード・モーターズ


 ラスタチカに積んであるエンジンのメーカーだが、本国の番組ならいざ知らず、なんだって米国にある宇宙航行用エンジンメーカーがジャパニメーションのスポンサーについてるんだ? ヴィンセントは確かに疑問に思ったが、そこにはまぁ企業としての色々な事情ってのがあるんだろうし、大して興味も沸かなかった。


「……それで?」

「どこかで聞いた名だとは思っていたんだ、ピンとこんのかヴィンセント」

「来てねえから、うんともすんとも言わなかったんだ」

「まったく……、こいつをよく見ろ」


 ダンが内ポケットから取り出したのは、折り目の付いてしまった名刺だった。

「……グッドスピード。ブライアン・『ストーム』・グッドスピード、あの優男はグッドスピード・モーターズの御曹司ってことだ」

「「………………ハァ~~~?」」


 上がった胡乱な声は二つで、「いやいや待てよ」とヴィンセントが続ける。

「レオナが驚くのはおかしいだろ、お前アイツと組んでたんだろ」

「だって野郎の身の上話なんか興味ないしさ、ウザいし長ったらしいから頭に入ってこないんだよ。でも確かにそんな話をしてたような……」

「じゃあなにか? 金持ちのボンボンが秘書連れて賞金稼ぎごっこしてるって事か? だったら余計に頭にくるんだが」

「道楽とは違うぞヴィンセント――」


 関わりが薄かったからこそ、ダンは最も客観的な視点から語る。


「――俺たちのような小規模の便利屋や賞金稼ぎは名が売れすぎる事を嫌う、顔が弘まっちまうと仕事がやりづらくなるからな。だが奴さんの目的は逆、自社製品の宣伝のために賞金稼ぎをやっているのさ、どこかでそういう記事を読んだ覚えがある。グッドスピード社は宇宙航行用エンジンメーカーとしては後発だからな、優秀な賞金稼ぎが自社製品を愛用しているとなれば宣伝効果は高いだろうよ」

「……まだ信じられねえ。Mr.シェイクスピアが企業の御曹司で、会社のために動いてる?」

「お前さんの金持ち嫌いはなんとかならんのか」

「なるさ、立場が逆なれば」


 それだけ言うとヴィンセントはリビングを後にする。不機嫌な奴が近くに居たんじゃ、折角の楽しみを邪魔してしまうから。


 ――それにしても、だ


 サムライにタコ忍者、おめでたい頭の賞金稼ぎ。宇宙ってのは広いくせに、ヘンな連中とよく出会うものだ。つくづく飽きがこない商売の先に待つトラブルを考えて、ヴィンセントは独り、渇いた笑みを浮かべるのだった。








どうも皆様こんにちは、空戸乃間です。


星間のハンディマン第六話『ヴァンパイア・マネー』お楽しみいただけたでしょうか? 息抜き的な話にしようと最初は考えていたんですが、何故か血なまぐさくなってしまいます、何ででしょうね?


まぁ書いていて楽しかったのでよしとしますが、皆さんが楽しんでくれたかがちょいと心配ですw



さて、ここまでお付き合いくださった皆さんに感謝を述べさせていただいた後は、評価や感想についてもお願いしておきたいと思います。


目安的なものがあるとしやすいかなと思うので 記載しておきます。


勿論、皆さんの自由な感覚で評価して下さっても結構ですよ!


感想・レビューもお待ちしてますのでお気軽に どうぞ!


1 そこそこ面白かった


2 面白かった


3 続きも読みたい


4 書籍化されたらいいな


5 アニメ化はよ



まぁ こんな感じでどうでしょう


0については 特に気にしないので 無表記です。ここまで読んでくださってる方には不要でしょうしねww



最後になりますが、お読み下さった皆様に改めて感謝を



本当に、ありがとうございました。

また次回の更新は未定ですが年内予定となっていますのでおまちくだせえ、よければ次のお話でお会いしましょう。


さようなら!

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