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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
4th Verse samurai
244/304

samurai 2 ★


「あぁ、そうか……」


 暗かろうがお構いなしに山道を飛ばす車内で電話を受けたヴィンセントは、無味乾燥な返事をした。まるで感情を無くしたような声音は、ただただ情報をやりとりするだけの道具に過ぎない。


「わかった、とにかく無事なんだな? OK、じゃああとはそっちに任せるぜ」

「…………誰からよ?」


 ハンドルを握るレオナが尋ねた。ライトの明かりだけが頼りの夜道を睨む彼女の声音もまた、恐ろしいまでに乾いていたが、直後、ヴィンセントの返事を聞いて、僅かにだが表情に安堵が覗く。


「ダンからだ、エリサを回収したってよ」

「……そう、そりゃあよかった」


 エリサ救出のために動いている二人であるが、朗報に対する反応は信じられないくらいに希薄だった。無事が確認できた事は素直に喜ばしい、態度にこそ出していないがこれは絶対である。しかし、だからこそ彼らは思うのだ。


 これで、遠慮無く暴れられると――。


 無事に帰ってきたからハイおしまい、とはならない。手を出してきたからには、その借りは二倍三倍にして返してやらなければ気が済まない。やられたらやり返す、いっそ子供じみた矜恃は裏社会に身を置いていればこそ果たされるべき法とも言える。脅しのため、或いは仕返しのためにエリサを攫ったのかは知らないが、その行為の浅はかさを連中に思い知らせてやらなければ。


 赤龍共の隠れ家多くはチャイナタウンにあり、そちらは今頃、ルイーズを雇っている賞金稼ぎが強襲している頃だろうが、向こうは好きにさせてやる。ヴィンセント達が向かっているのは、ゼロドームの森林区画にある今は閉鎖された製材所、脱出したエリサからの情報が確かならば、この近辺で大勢の『商品』を隠せる場所は他にない。そして、その予感は的中しているようだった。殆ど車も通らぬ山道に、真新しい轍がいくつもあれば確実だろう。


 電話を受けるまでは別のプランがあった、忍び込んでエリサを救出して逃げるプランだ。だがもう隠れる必要がなくなったとなれば、アクセル踏み込むレオナがV8エンジンを猛らせようと止める理由もない。


 製材所の正面ゲートには見張りがおらず、ただ簡易的な柵があるだけとなれば突撃あるのみ。ダッジラムのフロントを覆っている鉄製のゴツいブルバーが何のために取り付けてあるのかを知るときだ。


 轟音響かせる2.5トンの鉄塊で柵を蹴破り敷地に侵入。だが予想外なことに鉛玉の一つも飛んでこなかった。銃声はおろか罵声さえ聞こえず、ダッジラムのアイドリング音が存在を主張しているだけ。


 ――やけに静かだ


 停車するなり、突撃銃を構えながら素早く降車したヴィンセントは思う。窓から窓、そして屋上を警戒するが動きがない。散弾銃を携えて降りたレオナも全く同じ意見らしいが、とにかく建物内も調べなければ。無人ならばよし、赤龍の人間が残っているなら撃つ、やる事は単純明快で、彼女のブーツが正面扉を蹴破る。


 そこは、倉庫だった。昔は加工した木材を積み上げておくための荷置き場だったであろう倉庫内はがらんとしていて、埃をかぶったフォークリフトやらが放置されているが、廃墟特有の息苦しさがない、人の出入りが在りある程度の換気がされていたためだろう。


 まぁ、この考察は、片言の英語のおかげですぐに無意味となったのだが……。

「アイヤー、お兄さんたち来る先か、ずいぶん必死みたいね」

「こんな街外れに何様でござる」


 無造作に積まれた資材の側で佇むサムライとタコ女忍者。まるで待ちくたびれたかのように問いかける彼らにヴィンセント達が返したのは、ひたすらの沈黙と指向性を持った意思の二つだけ。


「……お姫様もう逃げたよ? お兄さん、ここに用なしね」

「ランファ殿の言うとおりでござる、死守が拙者達が命である故、退くならば主等と死合う理由もないが」

理由(ワケ)ならあるってのさ、トンチキ野郎」


 牙を剥き、レオナが静かに言い放つ。

 ここに残っているのなら、それはつまり、こいつ等が死ぬべき重大な理由だ。


「虎もよく吼える知らなかたよ、負けたばかり忘れたか? おっきな鉄砲あっても同じ、忘れて立ち去る、これ正しいよ。剥製こさえる大変ね」

「アンタ等の都合なんざ糞喰らえさ、一体誰に手ェ出したのか、とっくり思い知るこった」

「…………最早、言葉は無用でござるな」


 サムライと女忍者が殺しの足取りで左右に別れ、ヴィンセント達もまた二手に別れる。相手の一挙手一投足を捉えながら、じりじりと場所を移していく。

 同じ事だ。二対二だろうがサシだろうが、やる事は変わらない。



 相対しながらも共通した意思。

 サムライははたと足を止めると、路地裏で見せた抜刀の構えを取った。


「恨みはない、だが切らせてもらう」

「……お喋りしに来たンじゃない。御託はいいから抜きなよ、サムライ」


 散弾銃をローレディポジションに置き答えるレオナ、初弾はすでに薬室にあり、激発の時を足踏みしながら待っている。

 始まれば勝負は一瞬で付くだろう――


挿絵(By みてみん)




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