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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
3rd Verse Edge of Seventeen
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Edge of Seventeen 13

 待ってくれと言われたら、電話越しでは従うしかない。ルイーズは指先でこつこつとデスクを突きながら電話の向こうで何が起きているのか耳を澄ませて探っていた。すると雑音がしてからヴィンセントが話し出す、が何故か声は潜め気味だ。


『待たせたなルイーズ、もういいぞ』

「本当に大丈夫なの?」

『ピザのデリバリーでも頼めれば言うことなしだ。……悪いニュースか』

「ええ」

『ふん、悪い事ってのは続くもんだからな、どれくらいマズい』


 ルイーズはディスプレイをチラと見る。事件に関する情報で画面が埋め尽くされていた。

「とても。ヴィンス、私達は大変な勘違いをしていたわ、それこそ根本から。事件の情報に至ってはネット上に溢れかえっている始末よ」

『だからどうした、増援は?』

「最後まで聞いて頂戴。別人だったのよ、私達が追っていたのは賞金首を狙っていたカルテルの用心棒だったの、貴方が言う獣人女性はそもそも賞金首じゃなかったのよ」

『犯人じゃねえって……待てよ、撃たれてんだぞ。そんな恨まれるような憶えは……まぁ、あるけど。プレデターが他にもいるってのか? 一匹でも釣りが来るぜ』

「少なくとも、いま貴方を狙っているのは彼女ではないわ」

『そりゃいい素敵な情報をどうも。それで、騎兵隊は何時になったら来てくれるんだ』


 答えがたい質問にルイーズは言葉を濁す、ヴィンセントも察しているようで投げやりな訊き方だった。

「誰も、誰一人として」

『そうか……狙われてんのはマジなんだけどな』

「不確定な情報で賞金稼ぎは動かないわ、腕利きとなれば尚更。それに彼等の関心は今、例の賞金首に集中している。銃撃事件なんて気にも留めないのよ」

『まぁ、そうだろうな』


 ヴィンセントだって立場が逆なら動かないだろうし、ルイーズも賞金不明、危険度不明の事件情報など売りようがなかった。賞金稼ぎに命知らずは多いが、進んで捨てたがるものはとっくの昔に墓に入っている。となると、ヴィンセントには自力で乗り切って貰うしかない。


『どうすっかなぁ』

「立て籠もれないの?」

『ツレがもたねえし、朝になったら人も来る。俺を狙ってるんだと思うが、通行人にもブチ込みかねぇよ、持久戦になったらこっちが不利だ』

「連れ? ちょっと待ってヴィンス、貴方一人じゃないの?」

『一人ならとっくに逃げてるさ、俺にだって恥はある』


 ルイーズの右手は弾けるようにキーボードを叩いていた、背筋の寒さは氷漬けにされたよう。送られてきたばかりの――先程見たばかりの――メールを再度開き添付されていたファイルに注目。必要な単語を抜き見た。


 鑑定結果

 薬莢:指紋ナシ 雷管:銃種特定不可

 紙片:指紋アリ 薬物反応:〈キャンディ〉クラス特級


『この間ルイーズも会ったろ、事務所の前で。こいつのおかげで助かったんだ』

「……その人の外見は?」

『あ? 褐色の肌に白髪のパーマだ、羊人とのハーフだな』

「…………」


 ルイーズは言葉を失った。

 黒服、白髪、小麦色の肌、そして角。添付ファイルにはその少女の画像が表示されている、数々の〈経歴〉と虚ろで暗い眼差しとともに。

『ヴィンスさん……?』と電話の向こうで女の声。


 割れんばかりにルイーズは叫んでいた。それは、悲鳴だったのかもしれない。

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