Epilogue
自業自得というのは承知してる。
半端じゃない迷惑を掛けちまったし、でも金はいつでも入り用だし、出費はむしろ増えているから、尚更働く必要があるってことも、五臓六腑に染みるくらいに承知している。絶え間なく仕事にありつけるのは、ありがたいのも知ってるが、素直に喜べないんだこれが。
この二十日間でこなした依頼五件。
捕まえた賞金首十三人。
優先的に情報を回してもらった結果がこれだ。実は選り好みさえしなければ、依頼の数は多いのである。だが数字だけで判断するなら立派な成果でも、金額で見ると大したことはなかったりするからまた虚しい。とはいえ馴染みの情報屋が、ご丁寧にわざわざ遠くの賞金首まで探ってくれやがったので、捕まえに行かないわけにもいかないのだ。
塵も積もればである。この忙しさも前回の依頼料を支払終えるまでの辛抱だ。
そして、どさりと、ヴィンセントはベッドに倒れ込んだ。
「くっそぉ……ルイーズの奴、キツくて安い仕事ばっかし持ってきやがって。遠回しになんて罰ゲームやらせやがる」
毒でも吐かないとやってられなかった。
朝起きて、働いて、帰ってきたら寝る。
朝起きて、ドンパチして、帰ってきたら寝る。
まぁ~建設的で不健康な生活だ。犬のように働き、泥のように休む。堅気は堅気で大変だ。なにしろ家族を、もしくは自らを養う為にこんな生活を生涯続けられるのだから、会社勤めの彼等のことは尊敬せざるおえない。
明日は――……いや、もう今日か。今日は何時に起きればいいんだったか。
うつらうつらと睡魔に足掻いていたが、いつの間にか寝落ちしていたらしく、ビクリと身体が震えて変な時間に目が覚めた。
「…………ん」
停滞した頭で時計の針を見遣りまだまだ寝れそうだと、ぼんやり理解する。というか、ずっと寝ていたい。いつもなら煙草に延びるはずの手も毛布を離さない。もう少し、もう少しと、ヴィンセントは緩く瞼を閉じる。――と
「ヴィンス?」
遠慮がちな囁き声がした。
「起きてるの?」
「…………」
「寝ちゃってるの?」
エリサだった。壁側を向いたまま黙っていても去る様子がないので、ヴィンセントは喉に気合いを入れて答えてやるが、出てきたのはかさかさに乾いたしゃがれ声である。
「こわい夢でも見たか」
「ごめんなの、起こしちゃった?」
「いや……ちょうど起きたとこだった。それで――?」
もう日も変わっているのに、部屋を訪ねてくる理由はなんだ? まさか夜這いって事はないだろうし、便所の付き添いかなにかだろう。なんにせよ、ヴィンセントとしては早くすませて眠りに戻りたいところだ。
「ヴィンス、疲れてるの?」
「おう、ヘトヘトだぜ。だから寝かせてくれるとありがたいんだが……、なんか話があんなら朝聞いてやっから」
だがエリサの頷くでもなく、退室するでもなくそこにいる。用事は、今に関係があるらしかった。
「……いっしょに寝たくって、ヴィンスと」
恥ずかしそうだ。ヴィンセントは背を向けているからエリサの表情は見えないが、しゃべり出す前の躊躇がそう語っていた。やはりこわい夢を見たのだろう。まぁこんな幽霊船みたいな宇宙船で生活してるんじゃ仕方のない事だ。なんて慰めてやるのだがエリサはぷるぷると首を振る。
「こわい夢見たからじゃなくてね、ヴィンスが疲れてるから、いっしょに寝たいの」
寝ぼけた頭で理解するには時間がいった。
「ぅん……、んん? つまりあれか? お前と寝ると、疲れが取れるのか? どういう理屈だ、それ」
「パパが言ってたの。エリサといっしょだとあしたも頑張れるって。……だめ?」
そりゃあ実の娘が寝床に入ってきたらそう答えるだろうが、生憎とヴィンセントはエリサの父親ではないのである。もし彼女の疲労回復効果があったとしても、残念ながら効果の対象外だ。
「…………」
エリサは枕を抱いたまま部屋の入り口に立ち、横たわっているヴィンセントの背中を、じぃっと見ていた。或いは不安か、或いは期待か。思いやりに根ざした可愛らしい表情でいると、やがてヴィンセントが身動ぎ、彼が壁際に詰めた事で一人分のスペースが空く。
するり――、毛布に滑り込むと、エリサはヴィンセントの背中にぴたり身を寄せた。
「えへへ、ヴィンスあったかいの」
「ああ、早く寝ろ」
うんと頷いたエリサが、鼻を啜る音がした。
思い出したのかも知れない、父親との日々を。もう戻らない過去を。通り過ぎた日々と思い出は、共に過ごしたものが抱いていればいい。話したくなる時が来るまで、そっとしておいた方がいい。
「エリサもあったけェな」
「ほんと? ぐすっ……うれしいの……」
「ああ、よく眠れそうだ」
シャツが引かれる感覚と小さな心音を背に感じる。
とくん、トクン、とくん――
トンデモねえモンを拾っちまったんだと、最初は思った。自分のお節介が撒いた種が、またぞろ持て余す程の厄介を作っちまったと――。そうさ、面倒事さ。それは今でも変わらねぇが、一つ変わった事がある。
こいつがてめぇの道を歩くなら見届けてやろう。
背中で眠る少女に、ヴィンセントは笑ってやった。
どうも 空戸乃間でございます。
星間のハンディマン第五話 『So Long Goodbye』を読んでいただきましてありがとうございます。
今回はしんみりとしたお話にしてみましたが 楽しんでいただけたでしょうか?
子供の成長は早いと言いますが 話を進めていくごとに エリサがどんどん大人になっていくのを感じます。作者でありながら 彼女の成長を眺めているのが楽しみで そして同時に心配でもあります。
世の親御さんの苦労を思うと尊敬しますよ 本当に……。
さて 第5話はこれにておしまいですが お話はまだまだ続きます。
更新時期は未定ですが 今年中に一話は書き上がる予定なので 待っててくださいね~!
それから評価に関してなんですが 目安的なものがあるとしやすいかなと思うので 記載しておきます。
勿論、皆さんの自由な感覚で評価して下さっても結構ですよ!
感想・レビューもお待ちしてますのでお気軽に どうぞ!
1 そこそこ面白かった
2 面白かった
3 続きも読みたい
4 書籍化されたらいいな
5 アニメ化はよ
まぁ こんな感じでどうでしょう
0については 特に気にしないので 無表記です。ここまで読んでくださってる方には不要でしょうしねww
最後になりますが、お読み下さった皆様に改めて感謝を
本当に、ありがとうございました。それでは、また次回のお話でお会いしましょう
さようなら!




