SO LONG GOODBYE 8
撃たれたら撃ち返す。銃撃戦が始まったのなら、どこの誰がとか、至った理由などは考えるだけ無駄で、始まったら始まった、それだけのこと。そんなクソの役にもたたない思考に脳を使う暇があるのなら、銃を抜き、敵を撃つべきだ。ましてや散々お預けを喰らった後なので、レオナには待ちに待った瞬間でもある。
「そうこなくちゃよ! こいや、ぶっ殺す!」
蜘蛛の子を散らすように野次馬がいなくなり、人影の失せた通りへと拳銃片手に躍り出たレオナは、近くに止まっていたタクシーを遮蔽物とした。
「ダン生きてっか⁉」
誤って撃ち殺さないようダンの位置を確かめてから、獲物はどこかと彼女は問う。しかし、「ここだ」と答えたダンの声は、落ち着いていて便利屋としての年季を感じさせた。現場に出張るところを初めて見るが、なるほどかつては鳴らしていたらしい。
「もういいぞ、こっちだレオナ」
呼ばれて顔を出してみれば、手足を撃たれ倒れている男を、ダンが後ろ手に拘束しているところだった。
「おう、そっちも済んだか」
「賞金首なら目ぇ回して転がっているよ、話しになりゃしねえ」
首に掛っている賞金額からその人物の危険度が測れるが、やはりというか額面通りでレオナには手応え不足だった。どうせなら銃撃戦を楽しみたかったのが本音である。
「んで、なにコイツは? 獲物なら捕まえてんだから撃っちまえば良かったのに、わざわざ生け捕りにしてどうすんのさ」
「まぁ待て、まぁ待て」
抵抗する男の顔を押さえ、無理やり瞼を開けさせると、ダンは手持ちのスキャナーで男の網膜を読み取った。顔は容易く返られても、目玉は中々難しい。そして案の定だとダンがレオナに検索結果をみせる。そこには待ち続けていた賞金首の名前が表示されていた。つまり、レオナがボコった男は、ただのアホだったということになる。
「ふむ、当たりだぞ、ようやく移動出来るな」
「……」
「手を出すんじゃないぞレオナ、堪えろ」
「いいだろ一発くらい」
「駄目だ、カタはついてる。女を泣かせた賞金首だとしても、捕らえた以上暴行は認めん、我慢せんか」
道徳的観点からみても妥当な判断だが、なによりカッカ来てるレオナが殴ったら手加減なしの一発になる。まぁ死ぬだろう。
「ちっ、面白くねェな」
と、どこからともなくサイレンが建物に反響しながら段々と近づいてくるのをレオナは聞き取った。交差点から赤色灯が雪崩れ込みあっというまにレオナ達を囲い込む。市民の平和を守る警察官のお出ましだ。人間街での騒ぎだけあって対応が早いのが腹立たしい。
「動くな、銃を捨てろ!」
パトカーから降りた警察官達は手に手に銃を構え、レオナに向けて怒鳴る。散弾銃を持っている者までいる始末だ。
「アァ⁉」
「聞こえないのかそこの獣人、武器を捨てろと言っている!」
「クソ共が……」
心底ぶっ殺してやりたい。レオナは柳眉を立て数十人からいる警官達に睨みを利かせた。誤解だと訴えたところで聞く耳を持たないことはしれている、だが言いなりになるは我慢ならなかった。ダンの言葉がなければ余計な血が流れただろう。
「レオナ、連中は連中の仕事をしているだけだ。今は大人しく銃を置け」
男を縛り上げたダンは諸手を挙げてレオナの横に立ち、無抵抗を示した。雇い主にここまでさせてドンパチするのは憚られ、レオナも銃を手放し肉球のある掌を広げて、警官の指示に従い両膝をつく。
二人の手錠が外されるのは暫く経ってからのことだった。




