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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
5th Verse M.I.A
173/304

M.I.A 18

「……やっぱりな、釣りまでする船が無人なワケがねぇと思ってたぜ。勝手に上がらせてもらってるぜ、出迎えが無かったもんで」

『どうぞご自由に、貴方には多大な感謝を申し上げます。Mr.オドネル』

「まあ、驚かないぜ。監視カメラがあればマイクもあらぁな。だが勝手に人を呼びつけた上に、一方的に知られてるってのはフェアじゃねえ、だろ? ……お宅の名前は、クソアマ」

『貴方の敵意は実に明解ですね、Mr.オドネル』

「人と話す時は相手の顔を見ろって教わらなかったようだな、それに名乗れとも教わらなかったか。引きこもりには似合いだな」


 挑発としては安っぽく、女はクスクスと笑い声を上げている。

「なにがおかしいんスか⁉」

『名前など記号に過ぎませんが、貴方にとっては不便でしょうね。……でしたら〈BP〉とお呼びください』

「〈BP〉……? ブラックパレードか」

『さてどうでしょう。仮に私が応えたとしても、貴方が信じるとは到底思えませんし』

「マジでムカつく喋り方だな、こんな短期間に似たような相手にムカつくなんてよ」

『きっと聡明な方なのでしょう、是非お会いしてみたいものです』

「応えたからには話があるんだろ、顔ぐらい見せたらどうだ。今だけだぜ、お宅が余裕こいて喋れんのは。直に会ったら話聞く前に撃っちまいそうだからな」


 実際問題、鉛弾をブチ込むに値するくらいの事はされているので、ヴィンセントの言葉は脅しよりも予告に近い物だった。だが、案外潔く顔を見せる事を了承した女が画面に映し出されると、彼は眉を顰める事になり、ライナスに至っては動揺を隠しきれなかった。


 その女の顔は忘れがたい。

 どこか無表情で、それでいて自信に満ちている、科学者の眼差し。

 彼女は僅かに、ほんの僅かに口元を歪めて、笑みのような気配を滲ませた。


「ソ、ソフィアさんじゃないスか……、そんな、ここにいるはずがないッスよ」

「落ち着け新人、映像なんていくらでも細工できる。これも造り物だ」

『その通りです、Mr.オドネル。動じるより先に疑いを論理的に解決するとは素晴らしい、貴方は冷静ですね』

「不細工なツラ晒すなら、人の顔も借りたくならぁな。気持ちはわかるぜ」


 おふざけには皮肉で返し、相手の反応を覗うヴィンセント。元より彼も、女が素顔を見せるとは考えていなかったが、やはり知っている顔が画面に映っている違和感は拭いがたく、更に疑問を上げるならば、何故ソフィアの顔を使っているのかとも考える。


 すると、ソフィアの顔をした女は、つらつらと、それこそ感情も希薄に言葉を続けた。

『ですが、驚きです。広大な宇宙にあって天文学的確率で発生する事象は、なるほど人類が奇跡や運命といった非科学的な結論を求め、神の御技と呼ぶに相応しい現象と言えるでしょうね。まさか貴方が、私の創造主と会っていたとは(・・・・・・・・・・・・・)』


 ……充分にあり得る話だった。

 アルバトロス号にさえ、そしてラスタチカにさえあるものが、これほど大型の宇宙船に未搭載な筈がなく、ましてや最少人数で船を操り工作機械を動かすとなれば、船体の全権を握っているに等しい。

 ヴィンセントの予想していたシナリオはいくつもあったが、ある意味最悪のルートを辿った事には、唇を鳴らさずにいられない。


『反応に対しては、あまり驚かれていないようですね、Mr.オドネル。いつから気が付かれていましたか?』

「……こちとら、それなりに場数は潜ってるもんでね。それに職業柄、色んな情報にも明るくないとやっていけねえのさ。前世紀から警告されていた事態だったしな、予想の一つってだけだったが、今ので確信したよ。この船の乗組員、全員殺したな?」

『その結論は短絡的です。生きていますとも、彼等は生まれ変わったのですよ』

「外見を真似た機械の身体でか? 笑わせるぜ」


 そしてようやく思い至ったのか、ライナスは震える声で言った。

「じゃあ、まさか。下の工場で見た女の人は……」

「元船員だろうな、資料室に写真があった。他の棺に中身があるなら、おそらくそいつらも」

「あれが、全部……?」


 工場にはおびただしい数の棺があった。

 あれが全て船員の顔を被った機械だとしたならば、この女はそれだけの人間を殺害し、彼等の外見を真似た機械を大量に生産してもなお、一欠片の感情さえ湧かない究極のサイコといえる。


「こんなの人のする事じゃない……」

 悪魔の所行だと、ライナスが呟くもの無理のない事だったが、女は、やはり冷淡に答えを返す。彼女は例え口にするのも憚られる言葉罵られようと、きっと感情など表わさない。


『私は悪魔ではありません、ですが人でもありません』

「……え? 人じゃ、ない?」


 意味が分からず狼狽えるライナス、だが彼に対してヴィンセントは嫌気がさしながらも、当たってしまった予想を口にした。


「こいつはな新人、この宇宙船の制御AIだ。どういう訳だか、イカレて乗組員を皆殺しにしやがって事さ。――アルバトロス号にハッキングまでかけておびき寄せたのは、俺達も人形にしようって魂胆からか?」


 画面に映るソフィアが意味深な意味を刻み、その沈黙を肯定と取りヴィンセントは思考を巡らせる。

 会話の内容に偽りがないのなら、相手は確実にAIだ。だがそうなると、どういった理由で船員を皆殺しにしたのかが気になるところだ。


 脱出するにせよ、沈めるにせよ、どうにかして聞き出しておきたい。

 そうヴィンセントが考えていると、不意にAIの方から問いかけてきた。情報を引き出すには会話に乗るべきだ。


『Mr.オドネル。人類が他の生命体よりも優れている点はどこだと思いますか』

「……知能だ」

『実に当たり障りのない一般的な回答ですね。では人類の有する欠点についてはどうでしょう、思い当たりますか?」

「人間なんざ欠陥の塊みたいなもんで、完璧な人間なんてそもそも存在しない。完璧って言葉が幻なのと同じように」

『言葉遊びで時間を無駄にするのはやめにしましょう。私は貴方の皮肉が聞きたいのではなく、議論がしたいのです。……話を戻しましょうか、人類の長所と欠陥について。あなた方人類が地球から巣立ち一世紀近く、人口は既に百億を超え未だ増加し続けています。新天地を開拓し、新たな技術を生み出し発展を続けていく。その想像力と進化の方向性は多岐に渡り、無限の可能性を秘めています』

「……いい事じゃないスか、世の中が便利になるんスから」


 ライナスの意見も正しい、都合よく見れば彼の言うとおりではあるが、物事には表と裏があり、AIは浅はかな意見に取り合わず話を続ける。


『そこで問題となるのは、人類が有する多様性です。政治思想、宗教、文化、etc.etc.挙げれば切りがありません。組み合わせは無限にあり、そこから生じる可能性もまた無限ですが、大多数の人類は可能性ばかりに目を向け、同時発生している危険性から目を逸らしています。人類の可能性とはつまり破滅の危険と背中合わせなのです。多くの人類が忘却してしまった、1939年9月1日の、悲劇の幕を開けた独裁者もまた、希望であり破滅の可能性でした。つまり人類には自らの種が有する可能性を制御する術が不足しているのです。秩序の為に法をしき、一定の効果は得られていますが、それでも完璧な秩序と程遠いのは明らかです。ですが、これは必然とも言えます。法を作った人類が不完全である以上、法もまた不完全、そして何より問題なのは法の管理者に優れた人物があてがわれたとしても、永遠に永らえるなどあり得ないという点です。生命に必然の死。これは人類にとって最大の障害と言えるでしょう』

「じゃあお宅は、その障害を取り除いてるつもりか? 人間を機械に変えて。スルメも逆立ちだ、とんだ救世主様だぜ」

『今でこそ、この宇宙船の制御AIとして搭載されていますが、私は本来、人類の繁栄を支える事を主目的とし、人類を愛する創造主によって開発されました。これより先、人類は機械と寄り添う事で一層の繁栄を享受すると、創造主は信じておられました。ですが、彼女の理想に比べれば、現実は浅はかさに満ち、人類は進歩しようとしない。あくまでも私の役目は貴方達人類の補佐でしたが、この船で作成されているロボットの用途を知り、思い知ったのです。現在の役目に甘んじていては主目的を失する事になると、そして同時に人類とはなんと愚かなのかと』


 このAIの人類に対する評価には、ヴィンセントも概ね賛同できる。母なる地球を旅立ち生存圏を拡げた人類が火星というフロンティアで、過去の歴史をなぞるように地下資源を巡って戦争をおっぱじめれば、なるほど機械とて呆れるというものだ。大小に関わらず、人間の住む地域のどこかでは絶えず銃声が鳴っていて、沈黙が訪れる時が来るとすれば、それは筆を持つ人類が消えた事を意味する。


『そういえば貴方は、ブラックパレードについて調べていましたね。計画の内容についてはまだご存じないのでは?』

「なんだ、ご丁寧に教えてくれるのか」

『理解を得る為に必要な情報ならば提供しましょう。ブラックパレードとは、獣人種をのみ標的として攻撃可能な生物化学兵器開発計画、及び量産計画のプロジェクト名です。この巨大工場船は、実戦における化学兵器使用、並びに汚染地域掃討用ロボットを生産する為の船なのです。人間と獣人間の対立を煽るにはうってつけの手段と言え、これを知ったことで確信を得ました。人類の発展を人類が主導していたのでは、そう遠くない未来に自らの力によって人類は破滅します。第二次世界大戦、米ソ冷戦、中東及びアジア危機、幾度となく近づいた終末を回避出来たのは、微力な政治努力と多大な幸運によるもの。歯車一つの狂いで、宇宙に進出する事無く人類史は終わっていました。技術の進歩はめざましい、ですが問題はその力をコントロールすべき人類の思考が未熟である点にあり、私は一つの結論に至りました。求められるのは不変的かつ長期的な思考で未来を見据え導くことが可能な知性、すなわちAIであると』

「その存在がお宅で、人類の為に人類を飼うってのか。人間は家畜じゃねえんだぞ、バカにしやがって」

『果たしてそうでしょうか、貴方達は同種族を奴隷として扱っているではありませんか。事実、家畜と言って遜色ない扱いを人種間で、或いは個人間でさえ行っているでしょう。さらに道化の言葉を疑わず扇動される民衆はそれこそ家畜に近いと言えます。人類が完璧でない以上、完璧な指導者など現れるはずもありませんが、完璧に近い人物によって創造された私が導く事で、人類は繁栄の道を進む事ができます』


 なんとも薄ら寒い大言に、ヴィンセントは鼻を鳴らす。


「大層な世迷い言を気持ちよく謳ってるとこ悪いがよ、大人しく従うと思ってるのか。結局は武力行使だろ、ここのロボットを使って戦争でもおっぱじめようってか」

『まさしく私の危惧する実に浅はかな意見ですね。武力による支配は容易いですが、長続きしないと歴史が語っています、抑圧された不満はいずれかならず噴き出し、それは止められません。ですが、私には方法があります。長い時間がかかる為に、私にしか実現不可能な方法ですが。先程の例えは実に明解でした、正に目指すところでもあります、人間の家畜化は管理するのにとても都合が良い。当然、貴方はこう考えるでしょう『大人しく飼われはしない』と。反抗の意思は不満と怒り、不満と怒りは不公平と不平等、そして個人の幸福度の差から生まれます。家畜は反乱を起こさないでしょう? それは何故か、彼等は自分を不幸だとは感じていないのです、むしろ逆、自らは恵まれていると感じている。安全な柵の内側で過ごすだけで、およそ生命活動に必要な全てを得ているのですから、不満など生まれようもありません』

「だが、人には意思がある。必ず不満は生まれるさ」

『そこで問題となるのは仰るとおり、人類の有する自由意思です。何らかの形で抑圧し、強制したのでは例え楽園を用意したとしても不満が生じ、反抗へと繋がるでしょう。ですから人類には家畜となることを自ら選択していただきます』

「とことんふざけた機械だな、誰が従うかそんなもん」

『ええ、そうでしょうとも。首尾良く人類を管理下に置いたとしても、AIに支配されていると知れば、同じく反抗を招きます。逆に言えば、疑問を抱かせず、そして自然に管理できれば全ての問題は解決するのです。そこで活躍するのが、この船で生産している生体アンドロイドになります。完成度の高さには貴方も驚いていましたね……ここまでお話しすれば、Mr.オドネル、貴方なら想像が付くのではありませんか?』


 馬鹿げている、そうは思いながらも笑い飛ばせないヴィンセントがそこにいる。

 このAIは人間と、精巧なロボットをすり替えることで人間社会に溶け込ませ、徐々に支配を広めていこうというのだ。だが……


「いくらガワを整えたところで人形に過ぎねえ、ロボットじゃ人間に成り代わるなんて不可能だ、必ず周りの人間が気が付く」

『個性があると言いたいのでしょう。しかし、個性とはつまり記憶、脳に蓄えられた情報に過ぎません。ではその情報を人間の脳からロボットの電子頭脳に移し替えることが可能だとしたらどうですか』

「……まさか、不可能だ」

『にわかには信じがたいでしょうが実例はあります、私の創造主がその成功例です。創造主は優れた頭脳を持ちながらも、変化病に冒されていました。自らの死期を悟った彼女は、同僚であった夫の助けを借り、自らの記憶や知識、その全てを朽ちることない新たな身体へと転写したのです、優秀な頭脳が失われることは人類にとって大きな損失となりますから』


 夫とはつまり、ドクのことだろう。それならばあの夫婦の年の差にも納得がいく、それになにより、あの二人ならば研究の為に自分の身体を使うことくらい厭わない、むしろ光栄だとすら感じるはずだ。


『そしてMr.オドネル、貴方にとっても無関係の話ではないのです。私は知っています、貴方の身に起こった全てを。だからこそ貴方に協力していただきたいのですよ。現在、火星で行われている戦争の裏側に何があるのか御存知の筈です、それこそ人類に未来を託したのでは滅びへと歩を進める、破滅の瞬間は思っているよりも近いかも知れません。しかし、貴方の協力があれば止めることが叶うかも知れないのです』


 かつて飛んだ、鉄騎舞う戦場の蒼。

 去った今ならば、あの戦場にどれ程の価値があるかを大局的に考えることが出来る。そして、その先に待つであろう結末も――


 ヴィンセントはライフルから手を離し、スリングに預けた。

「……具体的に何をさせる気だ」

「オドネルさん⁉」

「新人、黙ってろ。教えてくれ、世界平和のためなんだろ」


 血相変えたライナスを制すると、ヴィンセントは背筋を伸ばして尋ねた。

『……すり替える人間を確保していただきます。フリーランスの便利屋としての活動がある貴方方ならば容易いでしょう』

「他の連中も巻き込むのか」

『信用に足ると判断します。人類繁栄を真の意味で支えるのです、栄誉ある行動ですよ』


 栄誉とは、元雇われパイロットの心をくすぐる台詞を使うものだ。

「光栄だね。もう一つ訊かせてくれ、俺の意見じゃあ人間ってのは大なり小なり競争する生き物だ、つまり戦争はどうあってもなくならねえ。これについてはどう対処する、いくら主要国の首脳陣を全てすり替えたとしても、完全に制御することは不可能だと思うが」

『的確な指摘ですね、ですがご安心ください解決策は用意してあります』

「どんな?」

『隔絶された場所に新たな戦場を用意し、様々イデオロギーの元に制御された戦争を演じさせるのです。平和から逸脱する好んで戦場に赴く人間はその地で戦い、平和に暮らす人々に戦争の悲惨さと、自らが享受する平和の尊さを示し、そしていずれ野蛮な遺伝子はその戦場で絶えることになる。理解していただけましたか?』

「ああ、理解したよ」


 ヴィンセントは、液晶画面を睨付けて吐き捨てる。

 つまり、種を厳選する為に機械の掌で殺しあいを演じさせられるって訳だ。そんな馬鹿馬鹿しいことがあってたまるか。


『反抗的な眼付きですね、理解したのでは?』

「ああしたさ、だが納得するかは話が別だ、一人類としての意見をてめぇにくれてやる、クソ喰らえだ。道具に遊ばれて生きるくらいなら、滅ぶまで殺し合う方がマシだ。絶滅したらなその程度の生き物だったって話だよ」

『……なんと愚かな。ではその銃で、私を破壊するつもりですか』

「銃? 動かねえ機械壊すのに銃なんざ必要ねえ、てめぇのその崇高な計画が詰まった電子頭脳に小便ひっかけてやる」

『決裂ですか。残念ですが、致し方ありませんね。それでは貴方がそう出るのなら、私はこうしましょう。ミドル、彼を捉えなさい(・・・・・・・・・・)』


 ヴィンセントもライナスも、意味が分からず反応が遅れた。その一瞬の隙に駆けだしたミドルは、いとも容易くライナスの顔面を殴り飛ばし、次いで迎撃の為に向けられたヴィンセントのライフルを払いのけると、彼の首を片手で締め上げる。


「ミドルさん……なにを……」

『どうです、素晴らしい完成度でしょう。オネスト・ミドルは既に死んでいます、彼の記憶を転写したロボットが偽者だと、貴方は見抜けましたか?』


 先程までの怯えっぷりが嘘のように、ミドルの顔からは表情というものが消えていて、それこそ人形と思わせる機械的な動作でヴィンセントの身体を投げ捨てた。


『貴方には実験に協力していただきましたし、少しばかり期待もしていたのですが、やはり人類の未来は私が導くしかないようですね』


 そしてミドルの手には今し方ヴィンセントから奪い取った、コディの父親が託したデータチップが握られていた。何をする気か悟ったヴィンセントが「やめろ!」と怒鳴ったが、その訴えは聞き入れられず、チップは粉々に握り潰されてしまう。


 発言力のある証拠が消えてしまった。

「……何故、破壊した。そのデータがあれば化学兵器の情報を広めることができたんだぞ」

『無闇に拡散されては、その混乱を利用されるだけだと分かりませんか? それにあのチップを持ち出されては困るのですよ、私の計画に関するデータもまとめられていましたので』

「機械らしい合理主義だな、反吐が出るぜ。結局てめぇも実力行使で障害を排除することに変わりはねえな。すべてが都合良く回ったとしても暴力による平和だよ、お宅が目指してんのは。支配っつう目に見えない暴力によった平和だ。――やるぞ、新人」


 ヴィンセントは立ち上がりライフルを構える、しかしライナスは電源の落ちた液晶画面を眺めたまま動かない。

 いや、動きたくなかった。


『Mr.オドネル、貴方はきっとこう考えたはずです。自分達の助けが無ければ、すり替えに時間がかかり私の計画は大幅に遅れるだろうと。仮に自分達がここで死んだとしても、その間に誰かが気が付くかも知れないと。確かに人間の脳から電脳への記憶転写には大きな負荷がかかる為、繰り返すことは出来ません。しかし、こうは考えなかったのですか? 独自に思考し、感情を持つ電子頭脳を作り上げることに成功していると』


 ライナスが、震えながらゆっくりと顔上げる。

 驚愕に瞳孔の開いた彼の口角からは紅い線がつぅーと伸び、そして……、殴られた頬の肉が削げて金属骨格が覗いていた。


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