M.I.A 6
規格にふさわしく、巨大宇宙船の通路は宇宙船としてはかなり広々としていて、二つの壁を結ぶには両腕を拡げた大人が二人は必要だ。防錆塗料の光沢も鈍い通路には終わりがなく、何度角を曲がっても景色が変わったように思えない、ドックから出て何メートルくらい移動したのだろうか、指標が見当たらないおかげで距離感も曖昧だ。
散弾銃を握り直すとギブソンは後ろを確認する。
ミドルが及び腰で付いてきていた。船に一人残すわけにもいかず、頑なに拒んだ手にペンの代わりに拳銃を握らせたはいいが、にわかもにわかで、銃を持っている姿をみるだけで心配になってしまう。かといってペンで倒せる相手がこの船で待っているとは考え難く、膝行って時に抵抗出来なければ、そのまま行方不明となるだろう、終の足跡は新聞の小さな記事に収まる事になる。
「なにが起きても俺から離れるな。いいか、無事に帰りたいだろ」
「勿論です。しかし、この船は一体なんなんでしょうか」
「調べるにしても脱出するにしても前に進むしかない。船のコントロールは奪われたが、救難信号は発信できた。最悪、脱出艇でもなんでも使って逃げ出すさ」
自前の船に思い入れはあるが、なによりも生き残る事が大事、集めた情報は届けなければ握りつぶされてしまう。
「それにしても気味が悪いですね、かなり歩いたのに誰にも会わないなんて。大きな船ですけど、いくらなんでも人が少なすぎませんか」
「そもそも強制着艦させているのにな、ああ、まったく同感だ、あれだけの対策をこうじたというのに足りないとは……。気を抜くな」
「この数週間、緊張しっぱなしですよ。調べ始めてからずっとね」
確かに、面白おかしい話で済むなら大歓迎だがそうはいかない。夢の中にも出るような最悪な話で、現実にならない事を祈るばかり。いや、祈りでは足りないと知っているからこそ彼等は行動している。
「手掛かりを辿っている途中で連れ込まれるなんざ、タイミングが良すぎるにも程があらぁ、ミドル、この船は臭うぜ」
「けれど調べる度に深みに嵌っていく、『ブラックパレード』の闇は深かい、深すぎます。兵器製造計画なんて可愛いものだ」
「何だ、今更怖じ気づいたか、正義の味方になるんだろうが。逆に言えば、俺達は真実に近づいているとも言える、なんせ相手からの招待だ」
「じゃあ、この事態も想定済みだったりします? 虎穴に入らずんば虎児を得ずって諺もありますからね」
「生憎と想定外だ。だがやり遂げなければ。気が付いているのは俺達だけ、お前の記事が世界に真実を伝えるんだ。宇宙戦争なんぞ起こさせてたまるか。全てを明るみにしてお前は名誉を、俺は大金を手にし、それでオサラバだ。単純明快な未来だろうが、うん?」
ただし、全てが順調に進んだ場合に限るが「ええ、その通りです」と、悲観的だったミドルの表情に力が戻り、すると彼は改まってギブソンを呼び止める。
「これを持っていてください」
そう言って受け渡されるのは小さなデータチップ。
「中身は言わなくても分かるでしょう。私に万が一の事があった場合には、あなたが公表してください、もしもの時にはあなたの方が生き残れる可能性が高い。もちろん、この船から脱出した暁には返してもらいますけど」
緊張か恐怖か、震える手でも覚悟の程は充分に伝わり、拒むのは野暮である。
「直ぐに返すさ、さぁ先へ進もうか」




