表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星間のハンディマン  作者: 空戸之間
5th Verse M.I.A
160/304

M.I.A 5

 予想通り――いや、予想に反して出迎えは皆無だった。


 ドックに入るにしても気密ゲートを吹っ飛ばす事になるだろうと考えていたヴィンセントだったが、なんとラスタチカが接近するや、まるで招くようにゲートが開き、ならば船内で待ち伏せされているかと緊張するが、いざ駐機場に機を降ろしてみても人っ子一人いない始末で、拍子抜けやら、気味が悪いやら。

 とにかく、敵対行動をとってきた船内にいながら機上でじっとしているのは馬鹿らしい、どうぞ捕まえてくださいと言うようなものだ。


 緊急時の指示をラスタチカに残してからキャノピーを開くや、操縦席脇に収めてあるカービンライフルを抱えて、ヴィンセントは素早く降機した。折りたたみ式銃床を展開し、装填。ヴィンセント愛用の拳銃と共通の弾薬を用いる為に改造されたライフルは、銃身に沿って弾倉を乗せる特殊な方式を採用しており、その装弾数は破格の五〇発である。


 ライナスはまだもたついているが彼には降りる前に、座席の後ろにあるバックパックを取る様に言ったから仕方がない。

 空気はあるようなのでヘルメットのバイザーを上げて銃を構え直す、今のところ周囲に動きはない。本当なら構えやすくする為に脱いでしまいたいところだが、いつ空気がなくなるか分からないので、取るわけにもいかないのが辛いところだ。


 ライナスもバイザーを上げていて、ようやく荷物を背負って降りてきた彼は、駐機場を見回してヴィンセントの気持ちを代弁した。

「こりゃあヒドい」


 駐機場には他に二機の宇宙船が停まっていた。

 一番奥には小型の宇宙船、そして手前――ラスタチカの隣――には、例の黒い宇宙戦闘機が無残な姿で潰れている。ありありと見て取れる戦闘の痕跡、被弾によるダメージで右の主脚が出なかったようで、傷付いた黒鳥は膝を折った鴉の姿に似ていた。


「どうりで援護にこなかった訳っスね、ボロボロだ。……でも、一体誰と戦ったんすかね。あの二機相手に勝つなんて」

「さあな、とにかくパイロットは生きてるみたいだ」


 キャノピーは開け放たれていて操縦席は無人、警戒しながら調べに行ったヴィンセントはしばらくコクピットを眺めてから銃口を下ろす。


「もう一隻も調べとこう」

「え? この機体調べないんスか、何か分かるかも知れないッスよ」

「俺も調べておきたいけどよ、こんなスゲェ機体をほったらかしにすると思うか? 下手に弄ってみろ、ブービートラップでドカンだ。触らぬ罠に爆発なしだ」


 それでも若干、後ろ髪を引かれているライナスに「触るなよ?」と、釘を刺してからヴィンセントは先行し、もう一隻の宇宙船のタラップを登っていく。この船もまた、扉が開いたままだ。

 ライナスを待機させて素早くクリアリング、ラスタチカより一回り大きい程度の宇宙船なので、安全を確認するまでそれほど時間はかからなかった。


「こっちの宇宙船は随分年季入ってるッスね、なんか埃っぽいかも」


 感想を漏らしながら上がってきたライナスは、バックパックから予備の無線機を取りだして、ヴィンセントに指示されたとおりアルバトロス号を呼び出す。しかし障害物が多すぎる所為か、出力を最大にしても応答は無かった。


「……ダメみたいッスね、無事だといいッスけど」


 確かに心配だが、他所に気を回していられるほど、自分達も楽観できる状態にはない。危険なのはヴィンセント達も同様で、だが操縦席を観察していたヴィンセントは、少しだけその事実から関心を奪われていた。

 エマージェンシーの表示が明滅、救難信号はこの船から発せられている。しかしそれよりも彼の興味を惹いたのはメインの操縦席、その計器板に挟まっていた写真には、見た事のある生意気そうな少年が写っていた。


「アタリを引いたか。……それともハズレかねぇ?」

「オドネルさん、どうかしたんスか」

「これ見りゃ分かる」


 入れ替わりでヴィンセントは船体後部を調べに行く。


 どうやら生活区らしいが、船体の大きさ故に省スペースで簡素な二段ベッドがあるだけだ。他の私物はロッカーか、床にベッドの下に仕舞われている旅行バッグのように無造作に置かれていた。この様子じゃあ食事は缶詰か、濃縮栄養食ってところだろう、よくこんな小さな宇宙船で地球から旅立ったものだ。船体の状態を見るに、経済的に余裕があるようには思えないが、金をかけるべきところにはしっかり払っていたようで、折角なので利用させてもらおうとライナスを呼びつける。


 ヴィンセントは鍵の壊れた武器ロッカーを漁って、散弾銃をライナスに投げ渡す。

 自分の銃を持っていないため丸腰のライナスだが、このまま丸腰で巨大宇宙船の船内探索に付き合わせるのは危険すぎる。と、言うことでレオナから射撃訓練も受けている事だし、自分の身は自分で守ってもらおうと考えて銃を持たせたヴィンセントだったが、予備の弾薬を渡そうと振り返った鼻先に銃口があり、彼は慌てて銃身を掴んで避ける。


 やっちまったと、ライナスは口をあんぐり開けていた。

「お前、撃ち方教わって扱い方は教わってねえのか。俺に銃口向けんじゃねえよ」

「す、すいませんッス」


 レオナの事だ、撃ち方にしても感覚的なアドバイスだけだろう。サッと狙ってドンッと撃つ程度の助言で的に当てられるなら世話が無い。そんなおおざっぱな教官が、扱い方について触れていないのは、ある意味当たり前とも言える。


「……たく、人に物教えんの下手だなぁ、レオナは。銃口は上か下、銃爪から指は放しとけ。撃つ時は俺と同じ方向に、目は見るなよ、相手の胸を狙え。散弾銃だ、それで当たる」

「了解ッス」


 ライナスの肩を軽く叩くと、ヴィンセントは小型宇宙船から出た。

 目標は巨大宇宙船を探索し、アルバトロス号の安否を確認。同時に文屋とコディの父親を探し出す事だ。何が待っているのか、さっぱり分からないが選択肢は前進の一つだけ。ならばやる事は決まっている。


 不安要素を振り返り、ヴィンセントは気を引き締め直した。

「行くぞ、新人。……自分の足撃つなよ?」

 そして二人は、船内の探索へと乗り出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ