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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
4th Verse Madhouse
152/304

Madhouse 4

 同日 午後九時過ぎ アルバトロス号リビングルーム


 夕食こそ施設内の食堂で食べはしたが、やはりこの日もヴィンセントは船に戻ってきていた。船の方が落ち着くのだから仕方がない。

 コロナの瓶が音を立てると、合わせて彼のケータイが鳴る。


「あいよ、もしもし」

『ヴィンセント、今出られるか?』

「あ~、ちょっと難しいかな。――チェック」


 ルークをルークで取り王手。

 盤面は終盤、エリサはうんうん唸りながら、指を動かして次の一手を考えていた。前日は施設に用意された個室に泊まったエリサだが、やはりレオナが言っていた通り、人間よりも獣人には居心地が良くないらしく、今夜は船で寝ると言って戻ってきたのだった。


『ドクとソフィアから話があるそうだ、レオナ達には内密にしたいと。……二人はそこに?』

「ああ、今エリサと一勝負してるんだ、結構強いぜ。レオナじゃ相手にならなくてよ」

『ふむ……、抜け出せるか?』

「悩んでても盤面は変わらねえぞ、エリサ。突破口は開くもんだ、どうする?」

『そうか、では施設の休憩室で待っているぞ』

「あいよ、じゃあ後で持ってくわ」


 通話を切ってケータイをしまうと、ウィスキー片手に電磁銃の分解整備をしていたレオナが誰からか訊いてきた。


「ダンだよ、葉巻持ってきてくれって」

「ああ? 中じゃ吸えねェんだろ、葉巻」

「におい嗅いで落ち着きたいんだろ、葉巻は吸わなくても楽しめるからな」

「臭いだけだってンだよ、あんなもんドコがいいのさ。人間の馬鹿な鼻ならいいだろうけど、こっちは臭くて堪んないっての、たく……」

「喫煙者に辛い世の中なんだ、家でくらい吸わせてくれよ」

「チェックメイトなの!」

「ふぇッ⁉」


 思わずヘンな声が出たヴィンセントである。いやいや待てよ、と盤面を見るが、守る駒も無く、取れる駒も無い。

 エリサの碧眼がきらきら光っている、見事な逆王手で詰んでしまっていた。


「う~~~~ん、……ダメか! こりゃひっくり返せねえや」

「うわだっさ、負けてやんの」

「エリサが巧くなったんだよ、大体レオナこそ全敗してるだろうが」

「えへへ、ホント? エリサ、上手になったの?」

「多分ダンとも良い勝負できるんじゃないか、今度指してみろよ。それか、レオナに教えてやればいい、相手が増えるぞ」



 ぴこんとエリサの耳が立つ、逆にレオナの手は止まった。

「ね~ね~レオナ、チェスしようなの」

「うぇ……アタシはいいよ。それよか、そろそろ寝たら?」

「一回だけなの~、レオナおねがい~」


 両手で掴んでレオナを引っ張るエリサだが、ごつい虎の片腕は微動だにしない。

 ヴィンセントを睨むレオナの眼光は、エリサにせがまれる嬉しさと、けしかけた男への恨み節が込められていた。


「アンタが相手してやればいいだろが、もう一戦くらいできんだろ」

「俺はダンのお使いがある」

 と、エリサが大きく口を開けた、愛らしい欠伸である。

「今日はもう寝とけ、エリサ。レオナなら明日、相手してくれるってよ」

「ヴィンセント、てめぇ――」

「やったぁなの! それじゃあ、エリサもう寝るね、おやすみなの!」


 言うが早く、エリサはリビングから飛び出していった。

「…………」

「礼ならいい、ほんじゃな」


 グラスを投げつけられないよう下がり、ヴィンセントもリビングを後にする。そして、一人静かに船から降りたのだった。

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