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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
2nd Verse Teenagers
134/304

Teenagers 7

 船内の雰囲気は宜しくない。航行中の宇宙船は、船体が大きくても閉鎖空間には変わりなく、居住スペースが近い以上、いやがおうにも顔を合わせる事になる。なにしろ逆恨みしているレオナがコディと会う度に険悪な気配を発するので、特に食事時に重苦しい緊張感が付きまとっていた。

 関係改善を図ったエリサの考えで、食事は全員一緒に取る事になっていたが、残念ながら効果は薄く、むしろ険悪さが募るばかり。


 若干名の反対こそあったものの、コディが乗客としてアルバトロス号に迎えられてから十日、軽い衝撃と共にアルバトロス号は星間移動ゲートを抜けた。

 金星でも火星でも、星間を航行する宇宙船が行き交うゲートの出入り口は壮観で、同じ船など一隻としてなく、冒険心に満ちた少年ならば一日中でも眺めていられる興奮がある。時間をかけて観察したいならばゲート周辺のターミナルから眺めるもよし、或いは最寄りのコロニーに停泊中の船を眺めるって手もある。


 停泊中のオンボロ宇宙船、アルバトロス号に心奪われる子供がいたなら、将来はプラモデラーか船舶マニアだ。有望かどうかの判断は個人に任せるとしよう。


「頼むよダンさん! 俺も連れてってくれよ!」


 ゲート最寄りのコロニーは旅立つ者が最後に立ち寄る場所であり、また来訪者には長旅の後に一息つける止まり木である。人の出入りは情報の出入り、アルバトロス商会の面々は何の為に火星までやってきたのか。

 当然、彼等は目的を見失ってはいない。金星から太陽を超えてやってきたのは仕事の為で、コロニーに停泊している時間の有効活用は、補給の間に情報収集である。しかし、コディの面倒を見るほどの余裕はアルバトロス商会にはない。その為、エリサと共に留守番を言い渡したのだがコディは、子供扱いが不服だったらしい。


 だが、仕事は仕事。客の意地など彼等には無関係だ。

 ヴィンセントとライナス、レオナとダンの二組別れ、情報収集の為にコロニーに散っていく後ろ姿を、コディは悔しげな眼差しで見つめていた。


「みんな、すぐにかえってくるから待ってよ? いっしょにおるすばんなの」

 船を任された事が嬉しいのか、そう言って家事に戻る健気なエリサの笑顔が、余計にコディを惨めな気持ちにさせる。



 

 ゲート周辺のコロニーは、宇宙のサービスエリア的意味合いが強く、規模に関しても植民が主目的であるそれと比べれば小さい。となれば便利屋にとって有益な情報を扱える人物も限られ、全てを回るのにさして時間は掛からなかった。なので、昼過ぎには二組ともアルバトロス号に戻り、遅めの昼食をとりながら今後の予定を確認していく。


 エリサのレシピは日々増え続けており、今日のメニューはボリューム満点の焼きそばだ。 すでに自分が作った物より美味いだけに、教えたヴィンセントもなんだか複雑な心境である。まあ、美味い飯が喰えるのは喜ばしい事だが……。


「呑気に昼飯食べてる場合かよ! なあ、教えてくれよ! 聞き込み行ったんだろ」


 同じテーブルで騒がれちゃ旨さ半減だ。ランチミーティングなのだから、待っていれば話し出すというのに、餌をせがむ犬のようにコディは急かす。結果、彼はレオナのブーツを脛にもらう羽目になった。

 悲鳴が収まると、ようやくヴィンセントが口を開く。


「やっぱ出入り口だけあって情報も入り乱れてるな、今回は長丁場になりそうだぜ。そっちはどうだった?」

「賞金稼ぎとか賞金首の情報はあったスけど、それ以外はさっぱりッス。ここで一般人を探すのは難しいと思うっすよ、そもそも誰も気に留めてないスもん。むしろ俺たちの方が注目集めちゃったくらいスから」

「パンピーの行き先に興味なんざ持たないさね。アンタが今すぐ消えても、誰も気が付きゃしないよ、新人」

「そろそろ名前で呼んで下さいよ、レオナさーん」


 ライナスの呼び方は『新人(ルーキー)』で固定されてしまっている。

 ライナスがどれだけ人懐っこくてもレオナは頑として名前を呼びたがらないし、ヴィンセントに至っては、その呼び方をライナスが嫌がる分だけ呼んでやろうという天邪鬼精神から、絶対に名前を呼ばないようにしているのであった。


 大体、一ヶ月程度ならまだまだ新人の域を出ないのは当然のことなので、二人の態度も当然といえば当然だ。ヴィンセントが敢えてそのままにしているのは、それでも挑戦し続けるライナスを眺めているのが面白いからに他ならない。だが、この手の楽しみは部外者には理解され難いものであって、楽しげに頼み込んでいるライナスの姿には目もくれず、コディは真剣な表情で一人ケータイを弄っているのであった。

 ……そろそろ話を戻すべきか。


「さてと。情報収集はどっちも空振りだった訳だが、お次はどうするんだ、ダン?」

「当初の予定通り、補給が終わり次第船を出す。あまり長居して俺達の噂が広まっても仕事がやりづらくなるだろうしな。今回は人捜しの為に来ているのだから、近辺の賞金稼ぎと縄張り争いで揉めるのは避けたい。それに、宇宙天気予報では数日の内に強烈な太陽風が届くらしい」


 以外かもしれないが、宇宙にも天気は存在するのである。その最たるが太陽風で在り、磁気と電気を帯びた粒子の流れが、毎秒300㎞以上の速さで吹き抜ける。かつては対策不足の宇宙船や人工衛星が憂き目に遭うニュースも流れたもので、珍しくレオナの眉間が不安に寄った。


「ちょっとダン、船出して平気なの? 太陽風って機械とかぶっ壊すんだろ、宇宙で立ち往生なんてアタシは御免だよ」

「かといって此処にいても仕方がなかろうよ、心配せんでも太陽風対策はしてある。それに風が吹く頃にはコロニーに付いとるさ。出航までは自由行動とするが、船からは降りるなよ、置いていっちまうぞ」


 と、ダンは言うが、釘を刺されている本人はまだケータイと睨めっこしていた。

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