It`s My Life
金星はゼロドームのフィッツ大通りは世間的に平日であるおかげで、リラックスしてのドライブにうってつけの空き具合、ドームの天蓋も鬱陶しいほどの日光を遮る事もせず、この陽気で車を止めるのは赤い信号灯ぐらいのものだ。
「いよう、奇遇じゃあねーか、便利屋同士がこんなところで顔合わせるなんてよ。珍しいこともあるもんだ、そうだろおい。お前んトコの景気はどうだい?」
隣の車線に停車したハマーから、小柄のアジア人が声を掛けてくる。おかげで気分は陰ったが顔には出さず応じるのが、自信過剰家相手のあしらい方だ。
「ボチボチってとこだよチャン、なんとかやってるさ」
「そうかい? 俺ァてっきり、お前さん方はリッチな暮らしをしてると思ってたぜ、ボロい貯金箱の中身はなんだろうな、札束か?」
「是非とも拝みたい、デカいヤマとはご無沙汰だ。……早いトコ用件を言え、ワザとらしくいつまでも尾け回されては適わん。重ねて伝えておくが、お前さんが巻き込まれた騒動の話なら、俺達も被害者だ」
もう顔も会わせない二人、信号が変わる。
「ああ気の毒だったな。お互いにツキが向くのを祈ってるよ。……それじゃあ、また」
同業者同士の小競り合いはよくある話だが、こうもしつこく濡れ衣を着せられると嫌気がさし、やれやれ、とモヒカン男は頭を振った。
だが出会いの形というのは様々で、大きな出会いというのは予期せぬ時にやって来る。気がつける分だけ尾行されてるなんて良い方だ。
一例を挙げるとしよう。
人気の無い路地裏で暴漢に襲われている少女を助ける。――感動的だ。
書店で同じ本に手を掛ける。――胸がときめく。
通学路の角っこで見知らぬ女学生と衝突とくれば、なるほど期待値は高まる。食パンを咥えていれば、恋の予感は最高潮だ。宝くじに当選するより低い可能性かもしれないが、ゼロでは無い。つまり、起こりうる。
運命的な出会いに年齢は関係なく、いくら歳を重ねても訪れるのだ。当人が欲しているかも関係なく、同時に眺めていて心打たれるかも無問題である。
ひげ面モヒカン頭の中年男性と、悪ガキ風の青年とのごっつんこなんて見て誰が喜ぶ?
言ってしまえば交通事故だ。
休日をドライブで過ごそうとしていたモヒカン男性は、愛車のダッジラムを転がしている最中、通りに飛び出してきた青年と熱いキスを交わした。いきなり車道に飛び出してきた歩行者をはねて、自動車の方が責任が重たいってのは納得がいかない。
モヒカン男は溜息深く車を降りた。
幸いだったのは、派手にはね飛ばした青年が思いの外無事だったことと、触れ合ったのが唇同士では無く、青年の頭と車のフロントグリルだった点だ。
「あぁ、俺の車に傷つけやがって。信号はすぐそこだろうが、坊主。道では足りず、命も一緒にショートカットする気か? 来世に期待してるなら次からは霊柩車に飛び込むこった」
ところが、青年は痛がる素振りよりも先に、モヒカン男の手を力強く掴んだ。当たり屋かと構えたが、青年の表情からは邪な意図は感じない。むしろ逆の思いを込めて、青年はすっくと立ち上がったのである。
その眼差しは、差し詰め憧れのヒーローを見つめているようであった。
こいつは運命の出会いだ。
……非常に残念なことであるが。




