表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星間のハンディマン  作者: 空戸之間
1st Verce It`s My Life
123/304

It`s My Life

 金星はゼロドームのフィッツ大通りは世間的に平日であるおかげで、リラックスしてのドライブにうってつけの空き具合、ドームの天蓋も鬱陶しいほどの日光を遮る事もせず、この陽気で車を止めるのは赤い信号灯ぐらいのものだ。


「いよう、奇遇じゃあねーか、便利屋同士がこんなところで顔合わせるなんてよ。珍しいこともあるもんだ、そうだろおい。お前んトコの景気はどうだい?」

 隣の車線に停車したハマーから、小柄のアジア人が声を掛けてくる。おかげで気分は陰ったが顔には出さず応じるのが、自信過剰家相手のあしらい方だ。


「ボチボチってとこだよチャン、なんとかやってるさ」

「そうかい? 俺ァてっきり、お前さん方はリッチな暮らしをしてると思ってたぜ、ボロい貯金箱の中身はなんだろうな、札束か?」

「是非とも拝みたい、デカいヤマとはご無沙汰だ。……早いトコ用件を言え、ワザとらしくいつまでも尾け回されては適わん。重ねて伝えておくが、お前さんが巻き込まれた騒動の話なら、俺達も被害者だ」


 もう顔も会わせない二人、信号が変わる。

「ああ気の毒だったな。お互いにツキが向くのを祈ってるよ。……それじゃあ、また」

 同業者同士の小競り合いはよくある話だが、こうもしつこく濡れ衣を着せられると嫌気がさし、やれやれ、とモヒカン男は頭を振った。

 だが出会いの形というのは様々で、大きな出会いというのは予期せぬ時にやって来る。気がつける分だけ尾行されてるなんて良い方だ。


 一例を挙げるとしよう。

 人気の無い路地裏で暴漢に襲われている少女を助ける。――感動的だ。

 書店で同じ本に手を掛ける。――胸がときめく。

 通学路の角っこで見知らぬ女学生と衝突とくれば、なるほど期待値は高まる。食パンを咥えていれば、恋の予感は最高潮だ。宝くじに当選するより低い可能性かもしれないが、ゼロでは無い。つまり、起こりうる。


 運命的な出会いに年齢は関係なく、いくら歳を重ねても訪れるのだ。当人が欲しているかも関係なく、同時に眺めていて心打たれるかも無問題である。

 ひげ面モヒカン頭の中年男性と、悪ガキ風の青年とのごっつんこなんて見て誰が喜ぶ? 

 言ってしまえば交通事故だ。


 休日をドライブで過ごそうとしていたモヒカン男性は、愛車のダッジラムを転がしている最中、通りに飛び出してきた青年と熱いキスを交わした。いきなり車道に飛び出してきた歩行者をはねて、自動車の方が責任が重たいってのは納得がいかない。

 モヒカン男は溜息深く車を降りた。


 幸いだったのは、派手にはね飛ばした青年が思いの外無事だったことと、触れ合ったのが唇同士では無く、青年の頭と車のフロントグリルだった点だ。

「あぁ、俺の車に傷つけやがって。信号はすぐそこだろうが、坊主。道では足りず、命も一緒にショートカットする気か? 来世に期待してるなら次からは霊柩車に飛び込むこった」

 ところが、青年は痛がる素振りよりも先に、モヒカン男の手を力強く掴んだ。当たり屋かと構えたが、青年の表情からは邪な意図は感じない。むしろ逆の思いを込めて、青年はすっくと立ち上がったのである。


 その眼差しは、差し詰め憧れのヒーローを見つめているようであった。

 こいつは運命の出会いだ。

 ……非常に残念なことであるが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ