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星間のハンディマン  作者: 空戸之間
3rd Verse Edge of Seventeen
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Edge of Seventeen

 ケータイの画面を改めて見下ろし、ヴィンセントは鼻を鳴らす。メールの内容は仕事についてだが、業務連絡にしては冷たすぎる文章な気がする。送り主であるルイーズは別の仕事があるらしく今日は別行動だ。


 メールには昨日起きた事件について書かれていた。と、いっても記されているのは事件の簡単な概要と発生場所のみで、行って調べてこいと言うことなのである。『あんなのはゴメンか』と返してみたが返信はなかった。――忙しいのだろう。


 吸い殻を排水溝へと投げ捨てヴィンセントはランドマークを見上げる。ここは聖者と死者こそ似合う場所、混成街にある教会だ。

 事件が起きたのは昨日の昼過ぎ、丁度ヴィンセント達がアパートを調べていた頃に弔問客に向けての発砲があったらしい。葬儀の参列者にまで鉛弾を見舞うとは、神も見捨てるどうしようもない街である。誰が狙われていたのかも不明だが、まあそれはいい。ヒト死には見たくないが、起きてしまった事件に気を揉んでも仕方がない。なにより死人は出なかったのだから気にしてどうなる。


 とはいえだ、喜べる状況でもない。

 アパートの現場とこれまでの被害者を見る限り犯人の得物は刃物だと思っていたが、飛び道具も使うのか。あまりにも対照的な凶器の選択に、連続殺人とは無関係なのではとルイーズに意見したが、誰の葬儀なのか聞かされてヴィンセントも納得した。


 ローランド・ブランドナー。

 アパートで惨殺された麻薬組織の構成員。そのローランドの弔問客を狙って銃弾を撃ち込んだとなると、無関係と断定するのは早計だ。そんなわけでヴィンセントは教会まで足を運んだのだが――。

 この賞金首が刃物だけでなく銃器まで扱えるとなるとますます厄介だ、勝ちの目は更に希薄な物になっていく。と、――対峙した時を思うが、仕事は情報収集なのだから捕まえる必要はないのだと思い直す。


「にしても狙撃か……狙撃ねぇ……」


 しゃがみ込んだヴィンセントの足下には鏃型の弾痕がある。調べろと言われても狙撃なんて門外漢もいいところで、さてどうしたものかと顎を撫ぜた。

 弾痕は壁の近くに残っているので撃ち込まれて方向までは察しやすい――そう、撃ち込まれた方向までは。そちらを眺め立ち上がるヴィンセントはどこかうんざりしていた。


 銃弾というのは基本的に直線的に飛んでくるので、線で結べる全ての地点が射点となり得るのだが、見える範囲にはビルが沢山、窓に至っては星の数で数えることすら馬鹿馬鹿しい。教会周辺には高い建物もなく見通しもいい、狙撃にはうってつけだろう。技術さえあれば二㎞先からでも狙えそうだ。着弾しているからには、この景色のどこかから狙ったのは確実だが、それこそどこからでも狙えるから困ったものだ。


「……これ全部調べろってか、まいったねぇ、こりゃ」


 賞金首は逃げ果せているので百mより近いことはないはずだ、手段として狙撃を選んだのなら、距離という圧倒的なアドバンテージを手放すわけがない。知られずに撃ち知られずに去る。目標から離れているからこそ安全に撤収することができるというもの。だが、ここまで考えてみても、窓の数は十分の一も減らないというのが悲しくなる。


「あー……帰りてえなぁ…………」


 ぼやくがしかし働かねば。遠くにそびえるセントラルタワーに望遠の眼差しを向けながら、通り沿いにヴィンセントは歩き出す。下手の考え休むに似たり、他に思いつかないなら小さな手がかりから手当たり次第に調べりゃいい。


 ――ということで探索開始。


 ビル一棟目はハズレだった。一発自摸(いっぱつツモ)を期待したが現実は非常、周囲に聞き込むも空振り。

 七棟目もまたまたハズレ。聞き込みも振わず成果ナシ。

 ビル探索十三棟目。――……何もなし。

 不吉な数字ならば、事件に関する手がかりの一つくらいあってもよくないか? 連続殺人が奇跡だという奴などいないだろうに。楽に見つかるとは思っていないが、ここまで空振り続きだと期待は僅かも膨らまないのである。


 痕跡を残さずに賞金首が逃げたのか、それとも自分が見逃したか。後者だとしたら最悪だ。総当たりをやり直すことを考えただけで気が遠くなる。取りこぼしたアタリを道程から攫い直すのは骨が折れるし、なにより精神的に堪える。


 ……こういう時は気分転換が必要だ。

 そんなわけで昼食ついでに一息付こうとしたヴィンセントだが、ふと呼ばれたような気がして足を止めた。


「おいお~い、オ~ドネ~ル~く~ん! こっちこっちィ~!」


 黄色い声に目を向ければはしゃぐ、グラマラスな女性がそこにいた。彼女は桃色の長髪を靡かせて、ビキニタイプの水着の上からコートという不思議な服装。商売道具の肉体を紫外線から守る為の上着らしいが、それなら裸同然のインナーを替えた方が早いってものだ。


「ああ、ロクサーヌか。――おい、ひっつくなよ」


 駆け寄るが早く、ロクサーヌは人懐っこい笑みを浮かべながらヴィンセントにスルリと腕を絡め、彼の腕がどこに触れようが気にする様子もなくむぎゅうと抱きつく。


「えへへ~、つかまえた~、放さないもんね。久しぶりだね、なんか会いに来てくれたんだって? ごめんね~お仕事中だったんだよ」

「いいさ、稼ぎ時に邪魔したからな。また大口の客捕まえたんだって?」

「ふふん、ロキシーちゃんは人気者なのだ。きみもお仕事~?」

「まあな、調べ物中」

「まぁたまた、そんなこと言っちゃって~、ホントはおさぼりでしょ~。いけないんだ~」

「今は休憩中だ、腹減ってきたとこだからな。飯食ってからもう一働きよ」

「あれ、きみもご飯まだなんだ? じゃあさ、いっしょにお昼しようよ。わたしもご飯食べたいなって思ってたんだ~。誰かといっしょに食べるご飯ってすっごくおいしいよね。ほらほら、行こ~」


「おい、ちょっと……」と言おうがお構いなし。有無を言わさずロクサーヌに引っ張られるようにして、ヴィンセントは昼食を取ることになった。


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