Lying Is The Most Fun A Girl Can Have Without Taking Her Clothes Off 9
無線機が割れた声で警備員を呼び出している。警備室もようやく状況を――正しい状況を把握したらしいが、時既に遅し。
荒らされた金庫、
倒れている四人、
煙が晴れて現れたのは泥棒の技である。
金庫が荒らされてしまったというのに、トランクも警備員も床に突っ伏してまだ寝ていて、警備室からの呼び出しに応じたのは、ゆっくり起き上がったヴィンセントである。
『何が起きている』とがなられても、知りたいのはこっちだ。今更になって騒ぎやがって。
「目隠しされて良いようにやられたんだ! エレベーター動かしてくれ、そっちからなら動かせるだろ」
エレベータに乗り込みボタンを押しただけでは、一向に動く気配が無い。警備室からならばセキュリティを解除して動かすことが出来るのに『トランクさんの指示が無ければ動かせない』と警備室は一点張りだ。
「だったら救急車を呼べってんだ。まだお目々が曇ってんのか、倒れてんだろ⁉ 泥棒が逃げちまうぞ」
『しかしだな……』
「しかしも案山子もあるか、バカ野郎!」
押し問答をしていると、「そもそもお前は誰なんだ」と、とんでもない質問が警備室から投げかけられた。それもそのはず。警備室のこの男、便利屋がビルに入っていることをロクに聞かされていなかったらしい。一から十まで説明してやって、ようやく彼は納得したのかエレベーターを動かしてくれた。
一階に上がるやヴィンセントは、ビルから飛び出す。
と、通りに停車していたセダンがクラクションを鳴らして彼を呼んだ。運転席から手を振っているのはライナスである。
直ぐに乗り込み追跡開始だ。
「もうかなり離されてます、追っかけるの大変っスよ」
勿論、手は打ってある。
ヴィンセントが取りだしたケータイの画面には、八番ドームの地図とその上を移動する光点。どこに行けばいいかは、こいつが教えてくれる。
「すげぇ……オドネルさん、それって発信器っすよね、やっぱハンパねえッス! 泥棒の手口なんてお見通しって事っスねッ!」
「お、おぅ……」
それにしても鬱陶しいくらいグイグイくるな。
「当たり前だ。俺を誰だと思ってんだ。んじゃ運転は任せたからな、先回りして抑えるぞ」
「ハイハイ、お任せです! やったりましょう!」
念願の便利屋デビューで大捕物に立ち会っていることを考えれば理解は出来る。いまが正に人生の最高潮とでもいうのか、ライナスはそれもう賑やかに笑っていた。




