Lying Is The Most Fun A Girl Can Have Without Taking Her Clothes Off 5
黒服達に呼び止められた時は背中に冷や汗が吹き出した。
しかしトロイは窮地を脱し、今や堂々と正面玄関から通りへ出て、流れるように停車したシルバーの日本車に乗り込んでいる。
黒服達がもう少し注意深かかったら清掃員の制服が少しだけ膨らんでいて、制服の下にハーネスベルトを装着していた事に気付いただろう。そして、そのベルトと、バックス達が非常階段に用意したワイヤーを用いて、ロープ降下の要領で一気に地上階まで降りてきた事にも気が付いただろう。
二度の停電は非常階段の施錠を外す為であった。
トロイは二度目の停電を起こす為に使用した、電磁波爆弾の起爆装置をダッシュボードに投げ置く。この起爆装置も電磁波爆弾も、バックス達が清掃員として潜入した時に仕掛けたものだ。
誰もトイレの天井裏に爆弾が仕掛けられていたなんて思いもしなかったろう。
ようやくビルの正面扉が勢いよく開け放たれ、黒服や便利屋達が飛び出してきた。多数の銃口が火を噴いて泥棒を追い立てる。チャンが怒鳴り散らしていた。
「このコソ泥野郎、逃げられると思ったか!」
「バレたバレた! いいぞ、ユニコーン! 出せ!」
向けられる怒号にトロイは楽しげに笑い、エンジンは更に楽しそうに吹き上がり、そして車は急発進する。
バックミラーに写る五台分のヘッドライト。
ここからはユニコーンの領分だ、追跡車を撒けるかどうかは彼女の腕次第。
「そぉら追ってきたぜ、必死だな」
「シートベルトして口閉じて。舌噛むよ、トロイ」
鳴り響くスリップ音。ユニコーンのマシンはドリフトして大通りへ。
深夜零時のビジネス街は、閑散としていても一般車両は走っている。その隙間を縫うようにして、彼女のマシンは目的地点を目指して突っ走っていく。するすると――追跡を嘲笑うかのように、高速で走行する様はまさしく一角獣で、その流麗なボディに傷を付けるのは鉛の弾では難しい。しかし、ルーフに付いている一発の小さな傷は例外だ。
刺さった針は小さく、チカチカと光っている。
アルテミスは月の女神、そして処女神である。と、同時にもう一つ、別の顔を持っている。それは狩猟の神であり、アルテミス自身もまた弓の名手であった。
今夜、金星における狩猟の神は弓の代わりに狙撃銃を構え、絹の衣に代わって橙の毛皮を纏い、五百メートル彼方の獲物を捕食者の眼光で狙い、伏せていた。
――特製だ、この弾は。
思い出されるのは雇い主であるダンの言葉。「予備は一発」と彼はそう言って特製弾を手渡した。
弾が不良でなければ予備は不要だが、ダンの言う通りに持ってきて良かった。今レオナの狙撃銃に装填されているのは特殊徹甲弾では無く、ダン特製の追跡弾である。
一発目は清掃員が乗り込んだシルバーの日本車へ。
その時点で狙撃銃の出番は終えていて、予備弾を使う機会が来るとは思っていなかった。




