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巨乳と義理チョコ byエセハルキスト

作者: 村上はるちゃん

完璧な義理チョコなんて存在しない。

完璧な本命チョコが存在しないようにね。


この言葉の意味を理解したのは、僕の生涯で数少ないとある義理チョコを受け取った時の事だった。


2016年2月12日、ごく普通の寒い冬晴れの日。


事の発端はその先週、友人の女の子からの会いたいという連絡だった。


この子を便宜上麗子と呼ぶことにする。


麗子とは3年以上の付き合いがあり、僕の生命保険のプランナーでもあり、関係を持ったこともあった。

初めて出会った時のことは覚えてないが、そこそこ可愛くて優しくて色白で巨乳という印象であった。

いかにもモテそうな女である。


後で分かったことだが、案の定Gカップだった。

そして化粧を落とした時の破壊力も同時に知った。


巨乳好きにはたまらないかもしれないが、いかんせん巨乳に興味の無い僕には、将来萎み垂れた時の不安の方が大きかった。


そんな心配をする意味は別段ないのだけれど。


そんな麗子から久々にLINEが来た。

「ケンシローに会いたい」

麗子らしいはっきりとした内容に、断ることもなくそのまま会うことにした。


昨年もこの時期にランチをし、バレンタインのチョコをくれたので、今年もくれるのかなと淡い期待を抱いた。


実際に会うのは約10ヶ月ぶりで、いざその日になると久々の再会に少しワクワクする自分がそこには居た。


そして、約束の場所に麗子は居た。


「ケンシロー久しぶり。元気?」

久々に会う彼女は相変わらず巨乳だった。

当然のことではあるが。


「はいこれ。ハッピーバレンタイン!」

その場で紙袋に入ったチョコをくれた。


「ありがとう。やっぱり貰えると嬉しい。」

久々の再会と高級そうなチョコに対しスマートに対応するも内心は凄く嬉しかった。


やれやれ、僕は勃◯した。


「ホワイトデーも忘れないでね。去年はあなた何も無かったんだから。」

歩いて正面を向きながらも確実に伝えられた。


「そうだっけ?今度また時間とるよ。」


「来月なんだから忘れないでよね。」

どこに向かうのかもわからず、そのまま彼女に案内され小綺麗なレストランへ入った。


いかにも麗子が好きそうなオシャレで可愛らしいレストランだった。


案の定僕ら以外の客は女性しかいなかった。


メニューを注文したあと彼女から話を切り出された。


「話があるの。」

少しこわばった表情にまさか結婚か?と内心思ったが敢えて何も言わなかった。


僕の返事を待っていたのか、その間電話線を切った受話器のような完璧な沈黙だった。


「今年結婚するの。」


「おめでとう。相手は?」

どこか寂しげな言い方が気になったが、それには触れず笑顔でお祝いの言葉を述べた。

麗子から見たら引きつっていたかもしれない。


「あなたの知らない人。年下の自衛官よ。一度別れたけど去年ヨリを戻したの」


その自衛官の彼とは会った事は無いが、付き合ってる時期も別れてる時期も知っていた。

「例の自衛官か。別れた事は知ってたけど、戻したのは初耳だね。どっちから切り出したの?」


「実質私ね。別れた後も連絡取ってたんだけど、他の男と付き合うってカマかけてやり直そうって言わせたの。結婚にしてもそうよ。32歳で出産したいって言って、しかも私保険のプランナーじゃない?他人の人生設計に関わる私が突然出産だなんてお客には言えないわ。出産の前に結婚は必須でしょ?だから彼がベロベロに酔ってるタイミングで言わせたの。夜の12時に始めて終わったの深夜2時よ。こっちも骨が折れたわ。」

今年31になる麗子は得意げに話しつつも、どこか寂し気な空気をその笑顔に含んでいた。


「そうなんだ、出産の事も考えると女の子も大変だね。式は挙げるの?結婚式の打ち合わせで離婚するカップルもいるから気をつけないとね。」


「その点に関しては心配ないわ。彼は何も言ってこないから私の自由に決められてるの。式は那須の教会で、披露宴は都内でやるからあなたも来てね。あと言い忘れてたけどチョコと一緒に手紙も書いておいたから。」


「わかった。手紙今読んで良い?」


「さすがに恥ずかしいからやめて。あと私の名前の隣に会社名も書いておいたから。その方が他の女に見られても安心でしょ?」


「そうだね。」


「あなた今は彼女はいるの?」

特に意図のない質問とわかる言い方だった。


「いるよ。リラクゼーションやってる子。」

話しても無意味な気がしたのでそれしか言わなかった。


「へぇー、それは良いわね。ところであなた随分と髪長いわね。伸ばしてるの?似合ってるから良いけど。」


「伸ばしてるつもりはないよ。伸びるとワックスもつけづらいからね。今年入ってまだ切れてないから今夜切ろうと思うんだ。」


「ふーん、そう。男は安く済むから楽よね。私の知り合いの男なんて年に二回だけよ。毎回坊主にしてそのまま半年放置。女はそうはいかないわ。エステや脱毛、ネイルにカラー、あげたらキリが無いわね。」


食事を進めながら他愛の無い話で二時間が過ぎようとしていた。


「いけない、もうこんな時間だわ。私この後三鷹なの。」



「相変わらず忙しいね。今日はチョコありがとう。」


駅まで送り、僕は新宿に残ると伝え改札で別れた。


義理チョコの受け渡しと同時に結婚報告とは、まさに義理チョコの極みであった。


しかしそれとは裏腹に、別れ際に求められた握手がとても暖かかく、心地よかった。


今年のホワイトデーは何か返そうと思う。


といってから、もうすぐ一年が経とうとしている。


やれやれ。


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