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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
公爵の仕事は大変です
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事前準備 1日目

 改めて屋敷に居候することになった俺は朝からあまりよろしくない状態に陥っていた。

 連日の飲酒による二日酔いだ。


「いってぇ・・・これが二日酔いってやつなのか・・・?」


 朝起きてからずっと頭痛が続いて朝食を食べたあとも治る気配はない。友人達から二日酔いの丸薬を渡されて飲んではみたものの少し軽減するくらいであまり効果はなかった。

 俺は元の世界ではまだ青臭い高2に過ぎなかった。だがこの世界に飛ばされてギルドを介して伯爵に拾われてから酒を当たり前のように飲んでしまっている。味も知らなかったのに美味い美味いと普通に。

 自分の謎すぎる順応性が裏目にでることもあると肝に命じトイレで吐いてスッキリすると部屋のベットに寝転がるが直ぐに誰かが来た。


「ハインド公爵。お手紙が届いております」

「はーいよ」


 なぜ俺が何も言わないのか。昨日の宴会から友人達が公爵呼びを止めないのでもう諦めてたりするからだ。

 ドアを開けるとそこには大量の手紙を抱えて郵便局員のような事をしている友人達とスチムソンさんがいた。


「ちょ・・・何ですかそれ⁈」

「伯爵や他の使用人達の分もあるのだから普通だ」

「それよりさ、ハインド公爵様宛に手紙が15通来てるんだ。ほれ」


 友人になったビンセントが渡してくれた手紙の束を解いて確認していくと6通が国からで9通はなんか色々広告みたいなものだ。いわゆるチラシだな。

 この世界にも広告業があるとは知らんかった。


「国からの通知が凄いな」

「本当ですよ・・・あ、給料明細書」

「うわ。さすが公爵」

「頭イかれてる金額だな」


 書いてある金額は1ヶ月白金貨10枚。受け取りは城内へとも書かれていた。

 ビンセントに言わせればこの金額は計画的に使用すれば一生生きていける金で国家予算レベルではないが高いという。一生生きていける金額ということは場違いではあるが日本の経済に合わせるならば一億前後はあるということか。

 もはやここまで来ると感覚が麻痺してくる。自分でも意味が分からない潜在魔力、不老不死、爵位、高額な給金。もう俺は何も考えないぞ。

 そうやってもう何が来ても大丈夫だと信じて手紙をどんどん開けていく。5通の内4通は公爵になるにあたり諸注意が書かれた書類だが一通は違う。他の公爵から届いた手紙だ。


「他の公爵から手紙が届くなんてあるのか」

「俺だって知りませんよ。初めてだし」


 封を開けて中の薄汚れた紙を出すと綺麗な字で


『やあハインド公爵。いきなり手紙を寄越して迷惑だったかな?それより君は公爵になって騎士団の戦闘指揮の仕事をやったことがないよな?だけど騎士団とは公爵自身が構成するんだ。前公爵の騎士達は皆俺とかの他の公爵に吸収されたから君には騎士団がいない。まあその前に君には1人で問題を解決してもらう。君の雷属性とやらがどれだけ強いのか。見せてくれ』


 と書かれた手紙と一緒に地図と王命書、それに準備期間についてのメモが封筒に入っていた。

 メモによると準備期間は手紙が届いてから3日間で解決するまで帰るなとやけに大きい字で書かれていた。


「大変だな。公爵も」

「こんなこともあるのか・・・場所はシラルっていう北にある街で問題は大量発生するリビングデッド。気持ち悪いこと頼まないで欲しいよな」

「ちなみにリビングデッドの弱点は頭部だ」

「炎で焼き尽くすってやり方もあるぜ。廃村とかでよく出るから誰も近づきたくないだろうし。よく後回しされる問題の一つだ」

「「だが俺らは絶対行かないからな!」」

「あ、はい」


 頼もうとした瞬間に行かないと釘を刺された。まあどっちにしろ1人で行かないといけないので誘おうにも誘えない。

 俺は伯爵のいる研究室まで行って今回の話をしたら備品は幾つか揃えてくれると言ってくれた。保存食は特にありがたい。街で食事しようと考えていたが廃村までは遠いらしいので重宝する。

 それと見事に人体実験として試作武器を持たせてくれるという。これはありがたいのか迷惑なのか分からないが協力してくれるという意味ではありがたい。と、信じることにする。


「では私の試作武器をお披露目しよう!といっても造ってから一回も使ってないがな!」


 おいちょっと待て。せめて壊れないかどうか確認してから出してくれよ。自慢気にどんどん出すのは構わないけど所々錆びてる武器もあるし。

 だが王都の市場でよくみるそこらへんの武器と違って独自で開発したものが多い。ボウガンとかはベースがベースなので見た目は同じ。いくつか何かの部品が取り付けられているだけだ。


「こんなところだな。投げナイフ二種類にボウガン3種類、あと近接用の太針4種類。好きに持っていってくれ」

「いや流石に全部は無理なんで伯爵が試したい奴をお願いします」

「そうか・・・そうだな」


 ちょっと残念そうな顔で武器を選んでいく伯爵。10分ほどかけて選んだのは黒色の投げナイフ、長めの太針、通常よりも少し大きめのボウガンの三種類だ。

 他の選定から外れた武器は箱にしまってそれぞれの武器の説明を始めた。まず最初に取り上げたのは黒色の投げナイフだ。


「この投げナイフは私が領主戦の時に装備していた投げナイフのプロトタイプだ。材料費、量産性の低さ、重量のデメリットを無視すれば私が使ったものより明らかに高性能かつ雷魔法の雷を通しやすい。相手を刺してから雷を撃ち込めば確実に始末出来る」


 ということは領主戦で伯爵が使用していた銀色の投げナイフは完全な改良品か、或いは雷の通しやすさ・・・つまり科学技術でいう電気伝導を犠牲に量産性と材料費と重量などの問題をクリアした量産専用の投げナイフということになる。


「高性能というのは?」

「それは別の魔法をナイフ自体に纏わせることが可能だという点だ。私達が使う分にはどうでもいい話だがな」

「というかナイフが4本しかないのですが」

「言っただろう?コイツは量産性が低いと。ドワーフに作らせてもいいのだが制作期間が長い。準備期間の3日では間に合わん」

「じゃあ3本でやってみます。極力持ち帰るようにはしますけど」

「そうしてくれ。あと使った感覚をレポートにまとめておいてくれないか?あとで改良品を作る」


 やはり改良品ではなかった。

 手紙と同じ用紙を渡され次に紹介されたのはこの世界では珍しいスコープを付けたボウガンで使用する矢もやけに太い。

 なんだろうか。無性に嫌な予感がしてきた。


「こいつは矢の中に火薬を入れてある。雷魔法を流せば即!ドッカーンだ。気をつけろ。以上」


 いくらなんでも説明雑すぎないか?そりゃ雷を流して中の火薬に点火するなんて簡単なんだろうけど威力が全く分からない試作品を渡すなんて正気とは思えない!

 あ、違うわ。そもそも俺という存在自体を正気で考えちゃいけないんだ。例外だし。

 ナパームを何億発、何兆発喰らおうと痛みだけで勝手には死ねない身体で気絶はしようとも直ぐに蘇る。死に至る傷でも直ぐに治る。天空の城の王様の言葉ではないが俺は滅ばない!何度でも蘇るさ!と同じだ。

 じゃなくて!


「いやもっと色々あるでしょう⁈スコープとか付属品とか・・・」

「面倒くさいからあまり作り込んでいないのだよ。悪いがそこらのボウガンと一緒だ。違うのは矢だけであって、あとは遊びだから。というか色々付けてるがコレ当たるように造ってないから」


 ここまで言われて言及するのは野暮というものだ。もう何もツッコミを入れないで最後の太針の説明をして貰おう。

 なんか今日は伯爵のテンションもおかしいし早めに休んでもらった方が良さそうだ。


「じゃあ最後は太針だな。一見普通の裁縫太針だが雷属性の魔力を流せば太く、長くなる。槍としても使える。裁縫太針に魔術式が組み込まれているだけだから量産性も高い」


 パリパリッと雷が流れた瞬間、裁縫サイズの太針が槍サイズにまで巨大化した。伯爵の身長より若干長くて雷を纏いつづけている。

 俺が槍として使うのは無理だろうけど投槍として使う分には困らない。

 しかも量産性が高いときた。これは投げナイフより使えそうだ。


「だがこいつは手放してから15秒ですぐに唯の太針に戻る。使うときには収縮する時間を考慮してやらないと自分に隙を与えることになる。気をつけて扱ってくれ」

「分かりました。あと修練場を一日借りてもいいですか?貸し切りでやりたいんですが」

「分かった。今の時間帯で使ってる奴はいないが立ち入り禁止にしておこう。他には?」

「ありません」

「では修練場の件は私から伝えておく。存分にやってこい」

「ありがとうございます」


 研究室から武器を持って出て修練場に向かい修練場の結界を張る魔方陣に魔力を流し込むと結界が全体に張られ居るのは俺1人になった。

 まずやるのは火薬入り矢の実験だ。若干太いだけあって重さもそれなりにある。だが俺にボウガンを使った経験など一切ない。しかも太いからあまり飛距離が無いように見える。

 こんな時は弓矢を出せばいい。軍用で使われる弓矢は確か滑車を応用している。下手な力を入れなくてもいいかもしれない。


「コンパウンド・ボウを生成。ついでに通常用の矢も6本追加」


 ポンッと簡単に出てくるカーボン製の矢。そのあとにネットの画像で見たコンパウンド・ボウが生成され再び頭痛。二日酔いと重なりキツイのもあった。だが何故か今回は2分ほどで治り、もうコンパウンド・ボウを使えるようになっていた。

 近くの的に振り向くとカーボン製矢を構え弦を弾引く。ギリギリと腕の筋肉を軋ませながらホールドし照準器を覗いて藁と木で作られた仮想の敵の真ん中を狙った。

 サイトを覗いてるとあの言葉を言いたくなるな。照準器は似てないけど。


「電影クロスゲージ明度20・・・ってか!」


 残念ながらコンパウンド・ボウから放たれたのは矢だが見事に直撃。藁のど真ん中を貫いていた。肝心の爆発する矢は装填しようとしたものの結局入らずクロスボウにて運用するしかなかった。絶対当たらねぇよなコレ。

 次は太針だ。さてどうかな?


「うおっ⁈」


 雷魔法をかけて巨大化すると手の感触は針が鉄パイプになったのと同じもので扱いにくさは微塵も感じない。まるで如意棒みたいだ。


「ゲイ・ボルグ!」


 その武器とは全く違うのだが何となく投げてみると予想以上に貫通力が高いことが分かった。あまりボウガンの時点で武器に関しては信用出来ていなかったが、これはとてもいい。更に必ず敵を仕留められて戻ってくるような魔法があったら、それこそグングニルと化すだろう。


「で、最後は投げナイフか。意外といい重さじゃんかよ。これならやりやすそうだな・・・ホイッ!」


 見事に藁に刺さる投げナイフ。

 投げナイフに関してはもはや使いやすいといっても過言ではなかった。

 中学時代に自衛隊に憧れ引退した自衛隊員から教わったことがあるので貸してもらっていたナイフに比べたら軽すぎず重すぎず、といったところ。


「ここに雷魔法を流すんだよな。えー・・・テスラコイルみたいなイメージで」


 手から飛び出すテスラコイルみたいな太い電流をどうすれば出せる?イメージしろ。イメージだ。雷が手の平から飛んで投げナイフに当たる?違うな・・・雷が手の中で発生しナイフに向かって飛んでいく!


「俺のこの手が光って唸る!光り輝かせと轟叫ぶ!必殺!瞬間雷撃!」


 ハァッと手の平を突き出して飛び出てきた太い雷は爆発と共に藁と芯の木材を木っ端微塵に粉砕してしまった。ナイフは壊れていなかったが威力があまりにも高すぎる!

 そして俺は今更思い出した。雷の最大の特性を。


「雷は・・・一瞬で対象の水分を蒸発させるんだった!」


 なぜ雷は木を破壊したり曲がったりするのか。

 雷の電力量は平均で家庭用エアコンを10日分動かすことが可能だと言われており空気中では2万度以上の温度が出ている。更に空気中や落ちた場所では雷の音が聞こえる。これは爆発に近い『衝撃波』であり空気が一気に膨張した時や空気が押し退けられた時に発生する。

 こんなものが水分を保つものに当たれば水分は蒸発。稲妻自体は、空気中なので光速は出ないが秒速150kmで落ちるので回避は難しい。

 曲がる理由としては雷が一番通りやすい道を選んでいるからとしか言えない。というか俺はそれ以上は分からない。

 簡単に要約すると雷は空気中にて衝撃波・熱を発生し絶縁破壊という現象を引き起こすのでそれなりの破壊力を持っているということだ。

 雷神術は波・通常落雷・直下と可能だったことから自然な雷と違う点としては形状をイジれて、ある程度なら空気抵抗を無視できるんだろう。


「うん。強すぎるな。修正が必要だ」


 何しろ俺が使う魔法基礎の名前は『雷属性』。それは自然が生み出す破壊力であり科学の世界で家電が使う『電気』とはまた違う。

 そしてそれは同時に制御するものに恩恵を与えるのだからもっと扱いが難しい。


「そういえばスチムソンさんが壁型のシールド魔法を止めたいとかいってたな。フィクションならドーム型シールドとかやれそうなんだけどなぁ」



 とりあえず雷で代用出来るか考えた。ドーム型以外にも四角い結界型など試してもみたがどれも持続性が悪い。ん?待てよ?

 まず俺が使うのを前提としよう。雷の形を変えることが可能だというならば『雷を足まで360度球状に展開し雷特有の稲妻と最大出力で出す雷による空気の熱膨張を利用した強力な衝撃波を利用した攻撃にも守りにも使える』バリアならどうだろうか?


「おお・・・!これなら行けそうだ!やれる!」


 だが俺はまだこの時知る由もなかった。まさかこの球状のバリア兼攻撃魔法が某ロボットゲーム並に強く、そして伯爵と俺だけが使える最強の魔法になってしまうことを。


いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!

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