朝日と来客
エリザベートの話があった翌日。俺はいつも通り寝ていた。普通に寝ていたのだ。マリの身体が密着しているのもいつも通りだ。ただ窓の外に見覚えのある変なものが見える。おっかしぃなぁ。なんで窓からバイザーセンサーが見えるんだろーなー。
「…なんだ夢か…」
《脳波活性度のパターン変化を確認。おはようございます。これは夢ではありません》
「夢だ夢…」
《対象の拒否を確認。パイロット。目標への対処プロセスの直接指示を要請します》
《微笑ましい寝姿を拝見してしまったのは謝るから勘弁してよー》
「朝4時に他国の要人が泊まる屋敷へ来るバカがどこにいる?」
《ここに!》
コックピットのエアロックが解除され、同時に登る朝日を背後に彼女は現れる。中世を思わせる軽装でありながら未来の兵器を操る姿はさぞ映えるだろうな…。
…つかどうやって兵士が気がつかないレベルで迎賓館まで接近できたんだ…。歩兵用陸戦兵器を想定してるから7.2mもある。戦闘も想定した上で作っているから特殊軽合金シャーシとはいえ23t近くあるはず。こんな静かにこれるようなスラスターも搭載していない。いや、してないわけじゃないがせいぜい10秒が限界のホバリング程度しかできない。おまけにうるさい。帰還以外にこんな簡単にワープ出来るようなシステムは載せてないはず…。
《どうやってこんな静かにここに来たかって顔してますね!そりゃあもちろん風魔法で空を走って来たからに決まってますよ!》
《パイロットの発言通り、私は解析不能な力場によって空を言葉通り走ってこちらに来ました》
「なんちゅう無茶を…」
《まあ無茶をするには理由があるわけなんですがね》
コックピットからもう一人ばかし影が出てくる。その影は薄い朝の光と共に薄暗くなっていき、次第に姿が見えてくる。輝くような金色の髪。綺麗な顔。水色の瞳。如何にもといった姿でいながら、着ている服はよくいって機動性重視。悪くいえば継ぎ接ぎだらけ。しかも鼻ちょうちんを出してクゥクゥと眠りこけている。はっきり言うと、貴族としての友人とは思えない。ルーモルト本人としての友人にしか見えなかった。
《我が一生の友!シャルちゃんでぇぇす!》
「…まさか紹介のためだけにきたのか?」
《いやいやいや。私も本来こちらにくる予定は無かったんですけどね。シャルちゃんはちょっとだけ事情が特殊といいますか》
「特殊?」
《不可思議とのデータストリームを試行中…成功。総司令。データをご覧下さい》
ベッドから起き上がり、机の上に置きっ放しにしていた不可思議を開いてデータを受信。スレイヴから送られた動画データには、彼女が謎の集団を相手に大剣一本で渡り合っている一部始終が収められていた。
よく見ると…というか全体的におかしい。錆びが見え見えの大剣であるにも関わらず、それをなんの躊躇もなしに振り回して戦っている。しかも地面に叩きつけただけで不可視の衝撃波を発生させて集団を全て叩き潰している。大剣自体を投げてブーメランのように扱い、挙げ句の果てには敵により召喚されたモンスターを薙ぎ払うだけで一気に6体を一刀両断してしまった。なんちゅう馬鹿力なんだ…⁈
数分後にルーモルトの命令でスレイヴがマイクロミサイルやら質量武器やらで返り討ちにされたモンスターを追撃してるのが見えるが気にしてはいけない。これは正当防衛だ。多分…。
だが、そんなことより気になったところがあった。その彼女はスレイヴのコックピットから立ち上がったまま目を開けない。なぜかは分からない。何かあるのか…?
《シャルちゃん?寝てる?おーい》
《…はっ⁈ここは誰?私はどこ?》
《頭の中を切り替えて〜シャ〜ルちゃ〜ん》
《えー…?じゃあ…ここなの?ルーちゃんが言ってた…今回の交流会の人がとまってるとこ?》
《その通り。で、そこに朝っぱらから迷惑かけられて引きつった笑いをしていらっしゃるのがハインド・ウォッカ公爵殿》
「ハァイ。よろしくぅ…。まあ立ち話もなんだから入りたまえよぉ…」
某番組のウィリー事件を起こした俳優っぽく返答した後、眠い目をこすりながらマリを起こして半裸の状態をなんとか服を着せて人に会わせられるようにはした。それと部屋に備え付けの紅茶を用意してお湯は適当にケトルみたいなものを隠れて生成。沸いたお湯は適度に冷まし、ポットに入れてティーカップへ紅茶を淹れる。
ある程度準備が終わったところでノックが聞こえ、部屋に入ってくる二人の女性。シャルロットという名前の女性は眠たそうな顔でゆっくりと席に座りルーモルトは端末でいつ気付いたのかは分からないがスレイヴをアクティブステルスモードにさせてその場で透明にした。
「んで、狙われた理由は?」
「さあ?分かってたら苦労しないよ。ああでも…これだけは確かかな。スレイヴ。お願い」
《了解。データストリームを試行…データを転送します》
不可思議へスレイヴから送られてきたのは古びた一枚の紙のスキャンデータ。そこにはシャルロット・オルンダールの死亡確認検死書と書かれていた。しかもイスカリオテと書かれた王国の旗の印がしっかりと描かれている正式な公文書。つまり彼女は本来なら死んでいるはずの人間であり存在していない。何がどうなっている?
「これは…」
「見ての通り。ただ、持ち出す訳にはいかなかったのでスレイヴに似たようなものを作ってもらった。ところでハインドさん。こんな便利なことができるなら早く言ってよー!」
「ほら。あまりベラベラ喋ったら面白くないだろ?自分で見つけてこそってやつさ」
「むぅー…」
死んだはずの人間がここにいる。また鼻ちょうちんを膨らませながら俺の目の前で堂々と寝ているシャルロット・オルンダール。その人だ。だが彼女が死んだのは…2歳?まだ幼いというのに…どうやって検死をすり抜けたんだ?
「で、ルーモルト。俺のところに来た理由は?」
「ここならそう簡単に奴さんたちは来ないと思って。あとこれだけのものを作れるハインドさんなら助けてくれるかもしれないから」
あながち間違いじゃないが一度自分の城に帰ろうとは思わなかったのだろうか。しかしよく考えてみると外交問題に発展するのは向こうさん達にとっても望んでる出来事ではない。なら連邦内の国よりも安全な場所は他国の政府要人が泊まっているここに限る。本来ならそんなことを考つくはずもない。だが彼女に限っては考えどころが違う。簡単に言えば素性を明かせず追われている状況で偉い人間が住んでいる屋敷に飛び込んで屈強なガードマンに追い払ってもらうのと同義だ。
奇跡に近いかもしれない。だが彼女は自分の直感を信じて俺たちを頼ってきた。なら助けないわけにはいかない。シャルロットもあれだけの戦いをした後だ。体力を消耗しているのだろう。そっとしておいてあげたほうがいい。
「あんな風に狙われるような理由に心当たりは?」
「私との仲を裂こうとしてるとしても意味がないし、シャルちゃんだけ狙ってるのも変な話だしでさっぱり」
「シャルロットの戦闘能力を見込んだ…とか?」
「襲撃する意味ある?」
「ないわな」
「でしょ〜?」
ルーモルトもさっぱり分からずじまいで、おまけにシャルロット本人は眠りこけたまま…というか座ったまま完全に深い眠りについてしまったらしい。微動だにしない。マリは熱い紅茶で目が覚めたらしく、舌を火傷したのか顔が赤くなっている。なんだただの可愛い俺の妻か。
「惚気は勘弁してくださぁい」
「惚気じゃない。甘いと言え」
「同じじゃない…」
とりあえず今日のところはどうなるか分からなかったため、エリザベートに協力してもらうことで別室に一部屋用意してもらえた。彼女曰く襲撃を受けた時点で保護対象。シャルロット自身の戦闘能力はともかくとして今は一時的に他より安全な場所にいてもらった方がいいという結論に至った。ルーモルトはスレイヴに乗ってシャルロットの両親に事件についてと今後について話し合ってくると言ってまたどこかへ行ってしまった。コックピットに乗るときは軽快なステップで、その後はどこで見たのか軽い敬礼みたいなものをして俺達を後にした。無駄にかっこよかったのが少し腹立つ。
一方でエリザベートとの件は、了承させてもらうことにした。彼女という人材はとても欲しい。主に騎士団のパイプとして。大臣達の話がどうなったかはわからないが、少なくとも俺が前に出て喋らなければいけないわけではないらしい。噂のように流し、他国の要人からも信頼が厚いと浸透させれば自然に流れは変わる。エリザベートはそう言っていた。さてどうなることやら…。
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