危険な交渉
もう何年経ってんだよお前⁈って言いたげな皆様。お待たせいたしました。あまり力を入れすぎず、気分で描いていくことにしました。相変わらずの文ですが、よろしくお願いします!
あれから3日以上が経ち、訪問する機会も少なくなった。一応ガウディで政治論争やら何やらあるらしいのだが、所詮俺達は夫婦揃って政治については素人。第三者視点から見れることはできても大した意見は出せない。取り敢えず迎賓館でCADを使って要塞都市のイメージを作ったり秘密裏にタイタンフォールさせられていたスレイヴの脳波データを回収したりと個人的な仕事をこなしていた。
「ところでどうだ?スレイヴの調子は」
『さほど問題はないんですけどぉ…強いて言うなら左腕の反応が少し遅いです!あと全体的に同調して欲しいかなぁって』
「まだ遅いのか…分かった。早めに直しておく。で?今ルーモルトは何やってんだ?なんか金属みたいな音が…」
『ああ!実はあの後無事バレました!』
「バレたんかい!」
『ただ父さん母さんももさほど何か言ってくるわけじゃないんで、大丈夫…かなぁ?って感じで。今は城の強化工事に駆り出されてます』
「強化工事?」
『スレイヴにあったワイヤーフック?なるものが役立つことに気づきまして。エンデヴァーは自然災害がちょっと多いんですよぉ。なので城を災害に耐えられるような構造にすべく工事をやってるんです』
「それ素人がやっていいのか…?」
『といっても荷物運んだりしてるだけですし。ちなみにエンデヴァーの対災害技術はほかに引けを取らない高さなんです!もし良ければアルスと技術提携しません?』
「ウチの王様が認めてくれりゃあなぁ…」
『アルスとはあくまで連邦単位での関係性でしかありませんからねぇ。ここはひとつ、お願いしますよ』
「分かった分かった。打診はしておくよ」
『よろしくおねがしますね〜』
ルーモルトとの通信が切れて、ふと要塞都市のCADを見る。要塞都市の防御能力は高いが自然災害のことも考えなくてはいけない。ジオフロントを作るわけだが地下水脈やら地盤問題やらまだ幾らか問題がある。解決可能な技術や知識はスキルがあるからいいとして、あとは建設予定地に何かしらの問題があるか…。
そういえばマグノリアはどうしてるんだろう。要塞都市計画の一翼を担っているのだから、いくらか計画データが送られてきてもおかしくないはずなんだが、一向に来る様子がない。念のため自室にある機器にも対してメールを送っておいた。まさか見ないわけにはいかないだろう。あとはしばらく待ってみることにさせてもらおう。
マリはマリで一生懸命に紙に羽ペンを使ってなにかを必死に書き込んでいる。時折悩む様子も見せているが、そこまで深刻なほどではなさそうなのでそっとしておくことにした。いつものように平和に過ぎていく出張生活。もちろんアポを取れば視察をすることもできる。ただ、前日も視察を繰り返していた故に今日はゆったりとしたい気分だった。俺も午後は完全にオフになっていた。
昼食を過ぎてしばらくした頃だろうか。部屋に向かってくる足音が聞こえてきた。別に予定を組んでいたわけでもないので気になった俺はドアを開けて外を確かめる。すると目の前にはカレンに少しばかり似た一人の女性がいた。
「失礼しました。私は正室の娘のエリザベートと申します。ハインド公爵ご夫妻様。以後、よろしくお願いします…」
ドレスを丁寧にあげ、綺麗な挨拶をするエリザベート。正室ということは…もしかしてカレンが言っていた令嬢ってやつか。だが俺が思ったより意外としっかりした雰囲気だな…。
「よろしくお願いします…。立ち話もなんですのでお入り下さい」
「お気遣い感謝いたします…」
エリザベートが中に入ったところでいつのまにかマリが手慣れたこなしで紅茶を淹れてくれていた。いつ習ったのだろうか。またそれは今度聞くことにするとして…
「エリザベート様。ご用件は…なんでしょう?」
「単刀直入に申し上げます。カレン姉様を…この国の国主にするのを手伝っていただきたい」
「な…⁈」
「私とて、野望がないわけじゃありません。しかし民主制に近い形になった今、カレン姉様の力が必要なのです。もちろん中には狙っている兄妹達もいますが…」
「何故それを俺に…」
「外部の意見があるからこそです。第三者の視点、それも国外から見られている情報は大臣達に多少なりとも影響を与えます」
「だが仮になったとしたら君達はどうするんだ?」
「はっきり言いますと公務は腐るほどあります。大臣達では手が回らないほどに。周囲の都市計画に加えて宗教戦争のある程度の終結による国家資金の予算削減。そして各国への貿易。医療体制などの国民生活の水準上げ。とにかくやることは盛りだくさんあります。爵位による救済策も講じています」
「何というか…余裕ないんだな…」
「手が回らなすぎて兄妹達…無論私にも仕事は回ってきます。中には自分から料理人になった弟達もいますから」
「料理人に⁈」
「公務と関係ないわけじゃありません。各国から来られる方々の対応も含まれていますから」
「仮に、仮にカレンが無事国主になったとしよう。しかし…エリザベート。君はどうするんだ?長女ともなるとその後に利用されかねないじゃないか」
「祭り上げようとする痴呆老人の世話役は飽きましたので、あなたの騎士団への入団を考えています」
「…ははは。何をご冗談を?」
「私は本気ですよ。少なくとも団員レベルで関係があるとないとでは大違いかと。簡単な取り引きです。ハインド公爵に意見してもらう代わりに、私はアルスへ行きます。これで問題はないでしょう?」
なに?俺は今から人身売買をしろとでも言われてるのか?そもそもたかが一個人の意見が効果などある訳ない。いやまああるのかもしれないが、そこは置いといて。
結論から言わせてもらうと人材としては欲しい。国とのパイプ。それが団員レベルであるなどという贅沢。あるとないとでは大違い。だがしかしだ。一国の姫を連れ出すも同然の行為を果たして認めてくれるのだろうか?そもそもカレンが許すだろうか。しかも理由がなんかふわっとしすぎている。スパイ…の可能性も否定はできないか。GPS機能付きナノマシンを打ち込むという手段もなくはないが、それは倫理的な問題もある。何よりこんな無茶苦茶な話が通るかどうかすら怪しい。駐在大使じゃあるまいし…ん?駐在大使?
「…エリザベート。君は、大使という役職について知っている…と思うんだが…」
「ええ。今では派遣員などと呼ばれることもありますが」
「はっきり言わせてもらうと、ウチに入るのは歓迎なんだが状況が状況だ。周囲からは何を言われるか分からない。故に理由が必要になる。そこで…君には駐在大使としての役割を果たしてもらう。これなら問題ないはずだ」
「駐在大使…ですか」
「同様の考えが?」
「はい。ただし窓口となる建造物、土地についてはその国のものになるので強制剥奪という可能性に加え、法律はその国のものが適用されますので場合によっては大使を人質にとるという国もありました。今現在、駐在大使などという方法をとる国はどこにもないでしょう…」
まさか治外法権制度すら無しとはな。つまりこの言い訳は使えないというわけだ。さてどうする?こうなっては俺から使える手段はほぼないに等しいだろう。
「外部による手段が無くとも…こういうやり方もありますよ?」
エリザベートが俺に見せてきたのは薄い紙。そこには何とカレン『女王陛下』名義でエリザベート国外追放の処分書が書かれていた。
…誰が書いたかなんてどうでもいい。なんてやり方しやがる。まさか出ていくために自分を国外追放させるなんて。そして国籍を失った彼女は亡命先としてアルスを選び俺に受け入れられてそのままウチの騎士団に流れ込むという算段なのだろうが、問題は上の老人達が本当に逃がすかどうかだ。正室の長女がいなくなるなんて馬鹿な話を本当に受け入れるだろうか?まずない。確実にカレンは様々な人間に責められることになるだろう。
「…カレンにかかる迷惑は考えてないのか?」
「まさか。むしろこれは姉様と話し合い、最善を尽くした結果ですよ。私が座から降りたところで利用されるのは目に見えています。正室長女という肩書きが存在している以上、他の兄妹が私を利用しないとも限りませんから」
「そこまでして出て行きたい理由は?」
「先程申したはずです。私よりカレン姉様の方が優れている。それだけです」
目だけ動かして周囲を見回して異常がないかを確認し、マリに小声で話しかけてカーテンを閉めさせた。
「で…実際のところは?」
「…上の連中が何か企んでいるようで。私や兄妹達、カレン姉様だけでは対処不能です。アヴァ達に調べてもらってますが、未だ計画の全容は見えていません」
「なるほど…」
「兄妹達の中には少々野心的な人間もいます。上の連中がそれを利用しない手はないかと」
「どうする?」
「カレン姉様の政治布陣は完璧です。しかし念には念を入れて対応すべきでしょう。私が出ていくことにより困るのは一部のみ。母様は自由主義。私が無事でさえあれば何をやっても問題はないはずです」
「…エリザベート。仮に母親が否定したら?」
「それでもやります」
「だと思った。で?決行は?」
「形式上では既にカレン姉様は女王陛下。するべきことは就任式でカレン姉様が私を追い出すだけで十二分。あとは…」
「言い渡した瞬間に強い非難を浴びせる不届き者を捕縛すれば良いわけだ。まるで釣りだな」
「その通りです。先程は周囲に聞かれている可能性も考慮して意見して欲しいと申し上げましたが、これが私とカレン姉様の計画です」
「しかしなぜそれを俺達に?」
「アヴァとルンレイから信用できるか聞いていましたから。問題ないと判断しました。それに…どうやら、この国と繋がりが深いようであらせられるそうなので…」
「繋がりが…深い…?」
椅子から立ち上がったエリザベートはドレスを汚さないように跪き、頭を下げてしまった。何をすれば良いのか分からなくなった俺は座ったままでいるわけにもいかずとにかくたたせるために椅子から離れて近づこうとした。
「雷の守護龍様。私の願いをどうか、聞いてください。お願いいたします」
「なっ…⁈」
「ここトシュメロ連邦は守護龍が集う地。貴方様が雷の守護龍であることは神の御告により伺いました。そして同時に、私の願いを叶えてくれる存在であられると」
おお?あのエセイケメンが。やりやがったな。まぁ世界が崩壊しなければ問題ないわけだし、世界の運命にそこまで干渉しているというわけではないというジャッジが下ったことを意味してる。つまりエリザベート入団計画は俺にとっての上のアイツからもOKをもらったお墨付きだってわけだ。
…そうか。守護龍を祭る伝統があるのだから守護龍という存在を身近に受け入れている。だからこそアイツはゴーサインを出した。もしこれが信じていなかったら俺は守護龍である、なんてことを言うわけがない。むしろ異端扱いされかねない。宗教だから仕方ないところはあるんだろうが…。
「エリザベート。守護龍ではなく、俺はハインド公爵として来ているんだ。そこまでかしこまらなくていい。それに…」
「私は賛成かな」
「だ、そうだ。マリーも賛同してくれている。ただしエリザベート。こうなってはもう後戻りはできなくなる。それでもいいのか?」
「いずれはこうなる運命でした。ただ行き先が決まっただけです」
「だが守護龍祭はどうするんだ?」
「大丈夫です。就任式は守護龍祭の後になりますから」
「ならまだ問題無し、か」
「引き続き、私は情報収集に努めます。この話は内密にお願いしますね。それでは…」
静かに礼儀をこなして部屋から退室するエリザベート。俺はそれを笑って見送った。
…正室長女という肩書きの策略に巻き込まれるであろう故に自分から立ち去る。自身の能力よりも高い方を、国の為になる道を選ぶ。争いの火種になろうものは極力消していく精神。もしそれが本当に国の為に考慮した結果だというのなら、彼女の精神は誰よりも国のことを考えた、大局的ななにかを見つめている。仮に皇族の生活に嫌気がさして自分勝手に出ていく為だったとしても、誰かに相談した上で自分が出て行ってしまった後の始末を忘れてはいなかった。だが…これだけの思考ができる人間が本当に出て行っていいものなのだろうか。単純に不届き者を捕縛すれば良いだけの話ではないのか?だが正室長女が側室の長女に女王の座を奪われたとなれば何を言われるか分かったものではない。国に居られる理由は無くなる。派閥の問題もある。エリザベートは全てを無難に終わらせる手段はこれしかないと判断した。実際、ハインド騎士団という受け入れ先が無ければどこへ行っているかすら分からなかった。本人はいくつか候補があるような雰囲気ではあったが…。
他人の脳みそを調べたところで分かるのは脳の仕組みだけだ。その人間の思考を仮にデジタル化出来たとしても、不老不死だろうと中身が人間でいる限り他人を理解することなど永遠にできない。いや…『理解などというものは願望に等しいもの』か。それがなんであれ、自分に他人の中身をコピーしたところで何の意味もない。誰かを欺くためならともかく…。
「…マリーはどう思う?」
「エリザベートさんのこと?うん…とてもいい人なんだけど、やっぱりカレンちゃんと同じだよね。なんだか寂しさを感じる」
「どちらも国を思うが故にこうなってしまうものなのか…それとも…」
「どっちも正しいし、どっちも間違えてるんじゃないかな。誰にも責められない。誰にも責める権利なんてない…」
「そんなものか…」
マリが座っているベッドの横に寝転がり、膝枕をしてもらう。下から見ると中々絶景…おっと。今は忘れよう。今は何のために彼女達は動こうとしてるのか、それくらいはイメージしてこちらから近づいていかないとな。例え願望だとしても、少しくらい理解はした方がいいというものだ。
「ケイ君。あそこから何か聞こえるよ?」
「…不可思議から?」
呼び出し音のような控えめのビープ音。不可思議の画面に映っていたのは自分で開発していたテレビ通話用のプログラム。呼び出し先はマグノリアになっていた。
「マグノリア。どうした?」
《あ!繋がった!》
「マグノリア⁈どうしたんだその怪我…⁈」
《お父さん。怪我については他言無用ってことで。何せ英雄の凱旋ってやつだからね》
《私達頑張ったんだからね!》
《先生のおかげでなんとか倒せたよ。いや一時は本当にまずかったけどね》
「ローディー⁈それにミーティアもどうしたんだ⁈ボロボロじゃないか…⁈」
《ボク達は多少無茶しちゃったけど生きてるからノープロブレム!それと、帰ってきたらこの子に魔力を吹き込んで欲しいんだ》
「…人工妖精?なぜまたそこに?」
《ん、まあ色々あってね。エーキル伯爵に手伝ってもらって作ってもらったんだ》
《先生。帰ってきたら、まずこの子の話を聞いてほしい。私達だとどうなるかわからない》
《ハインドさん。あなたにもらった装備、とても役に立ったわ。ありがとう!》
《じゃあお父さん。そういうことで!あ、CADはまた4日後あたりに送るから!》
そう言ってマグノリアは切れてしまった。あれだけ怪我だらけで無駄に元気なのがほっとするところなのかどうかは分からないが、なんだか三人ともやりきった顔をしていた。なぜ連絡をしてきたかは分からないが…まあ、家に帰ったら聞かせてもらうとするか。彼女達の『英雄譚』を。
ブクマ・レビュー感謝します!次の更新までお待ち下さい!1年以上経っても生きてるので、遅いと思った方は筆者のケツをTwitterで引っ叩いてください。変態的に喜びながら続きを書かせていただきます。なるべく早めに。




