空挺巨人
謝礼を手渡せる日は意外と早く来た。明朝、起きてすぐにカレンからいくつかの決まった予定を聞かされた。そこにはエンデヴァー国へ挨拶へ向かうというものがあり、ルーモルトに会うことも可能だと聞いた。
朝食を終えたところで身支度を整えて朝の8時から馬車で移動することになっており、少しばかり急いだ形での出立となった。馬車の中からいつも通り外を眺めているとマリが話しかけてくる。
「ねぇケイ君」
「どした?」
「ケイ君って…高校時代どうだったの?」
「どうってそりゃもう青春のオンパレードさ。モテはしなかったけど、宴会芸部の先輩は俺にグラスハープを教えてくれたし毎日の特訓でムーンウォークはできるようになったし…」
「ふぅん…」
「どうしたんだよ。いきなり…」
「ただ…ケイ君と同じような生き方してたら、私どうしてたのかなぁって」
「それは…やってみなきゃ分からないだろ。マリにはマリなりの生き方があるだろうし。今だって、マリなりの人生を送ってるわけなんだしさ。まあ…」
「そうだね。でも…」
「「一度は一緒に通ってみたかった」」
珍しくハモってしまったのに二人して笑った。こんなのも朝からあるのは悪くない。むしろあって然るべきだと俺は思う。
そうか…考えを少し変えてみればこの馬車だってバスみたいなもの。その中で幼馴染と2人で一緒。後部座席にある2人掛けのシート。そこに座っているところを想像するだけでラブコメ展開丸出しだが俺は好きだ。あぁ…でもそんな世界があっても良かったよなぁ。基本チャリ通だったし。バス代を削ったお陰で昼飯と夕飯が若干ながら豪華になったのを思い出す。最悪歩きでも行けたけど睡眠時間は削りたくなかったからなぁ。その辺考え出すと節約生活も悪くなかった。
異世界…良い思いばかりになってるのもあるけど、そんなのも良いじゃないか。なんでアルスに守護龍が2人もいるのかは知らん。まさか既に俺が守護龍ってのは知られていて、その上で引き込まれていたとしたら…なんて馬鹿な話あり得るわけない。そんなこと言ったらアルスにはマリという資格者含めて3人もいることになるんだ。偶然だ偶然。
「私は…そうだなぁ。お裁縫とかできる部活に入りたかったなぁ…」
「裁縫は大変だけどな」
「ケイ君は慣れてる?」
「あぁ…もう何度もお世話になったよ…。制服とかほつれたら極力自力で直してた。部長が裁縫得意でさ。教えてくれたんだよ」
「ケイ君の周りって意外とすごい人いっぱいいたんだね」
「俺の影が薄くなるぐらいにな…」
…思い出したぞ。あの天才部長を。今となっては懐かしい程度になってしまったが、どんなことであろうと教えられればそれこそ最短2日で並みのレベルにまでマスターしてしまう。明らかにおかしい成長具合だった。本人は当たり前のように言ってたが。代わりに興味がない勉強については年下の後輩に習うほど不出来だった。中学生の頃から赤点取りまくりで進級すら危うかったらしいが、なんだかんだで俺が高2に上がるときに無事卒業した。進路については誰も知らなかったが、あの人ならきっとどこに行ったって生きてけるだろう。そう言い切れるほどに順応性が高かった。
「朝はちょっと不思議な気持ちになるの。ふわふわしてて、少し浮いてるみたいで、まだ夢の中にいるみたいで」
「…マリ。胡蝶の夢って知ってるか?」
「こちょうのゆめ?」
「昔の人が考えた例え話だよ。ある日男は蝶になる夢を見た。目を覚ました男はこう考えた。もしかしたら本当は蝶になった夢を見ていたんじゃなくて自分は蝶で人間の夢を見てるのではないか。てね」
「じゃあ今私がケイ君と一緒にいるのは夢ってこと?」
「例え話に沿うなら、ね」
「私は夢でも構わないかなぁ。ケイ君に触れてるのは確かだから…」
「俺は夢ではない方がいい。マリと一緒にいたのが幻だったのは勘弁してほしい」
「じゃあ私のこと離さない方がいいよ?目をそらしたら…きっと消えちゃうから」
「意味深な言い方はやめてくれ…」
「ケイ君にも怖いことあるんだね」
「もちろん」
朝から不安げな雰囲気を醸し出しながら馬車は道を行く。マリがこんなに感性があるとは思わなかった。だがこれも、ある意味幼少のまま止まってしまった心の変化を表しているのだろう。つまり綾乃真里という人物が異世界に生まれ、俺という環境条件が重なるとこういう少しだけ儚げな感じの女性になるというわけか。なるほど。
…いやなるほどじゃねぇよ。健気に見えて儚げとか脆すぎるから。いつか枯れる花以上に丁重に扱わないといけないやつじゃないか。ドライフラワーじゃないんだから。
そんな考えを悶々と繰り返していたらいつの間にか目的地に到着していた。目の前にはルーモルトがしっかりした服装でかしこまった雰囲気で俺達を出迎えてくれた。その後の国王がいる部屋への案内なども淡々とこなしていく彼女の後ろ姿は先日の雰囲気とはまた違ったものがあった。そして国王はというと、意外と厳格な顔持ちをしていた。
「エンデヴァー王国の王として歓迎する。ようこそ。我が名はシュローツ。シュローツ・エンデヴァー。其方達の名を教えてもらおうか」
「アルス王国公爵第6席、ハインド・ウォッカと言います。彼女は妻のマリー・ウォッカです。以後、よろしくお願い致します」
「よ、よろしくお願い致します…」
「既に私の娘が挨拶に向かっていたのは知っている。多少世話が焼けるが、私の大切な一人娘だ。よろしく頼む」
「はっ」
短い会話をした後、極力丁寧に退出して案内人による城の案内から始まった。が、すぐにルーモルトが現れて人影がほとんどない別の庭へと連れられた。
「…よしッ!ここなら大丈夫そうね」
「あー…ルーモルト、さん?」
「ルーモルトで大丈夫ですよ〜」
「俺達に話す時も敬語じゃなくて大丈夫。そんな固くならなくてもいいさ」
「じゃあ…えー…ハインド…?」
「私はマリで大丈夫だよ」
「マリ…」
「いや無理はしなくていいんだ」
「じゃあ基本的に今まで通りってことで!」
3人でそんなことを言いながら笑った。
「で、ルーモルト。どうしたんだ?見た感じ、人影がほとんど見えないんだが…」
「そりゃあもちろんハインドさんに例のアレについて聞きたかったからですよ!」
「例のアレ…ああ。シミュレーターか。またやりたいって話だよな」
「アレ思った以上に面白かったんですよ!また時間があればやらせてもらいたんですよねぇ〜」
「まあ期間が過ぎれば俺もこの連邦にはいられないわけだが」
「そんなぁ…なんとかならないんですか?」
「何とかって言われても…いや、何とかなるかもしれん」
「本当ですか⁈」
「ああ。ただし、ちょっと変わった形になるがな」
俺は予め作っておいたプレゼントをルーモルトに手渡した。本人はなんだか分かっていないようだが、取り敢えず形状に沿った使い方を始めた。俺がプレゼントしたのはブレスレット。おまけに金属技術の中でも戦闘機にも使用されている最高峰の強化チタン合金製を使用。軍部が聞いたら卒倒しかねないトンデモ一品だ。おそらく…いや絶対にこの世界の金属加工技術では再現不可能だ。
「すごい…綺麗…」
「それは昨日手伝ってくれた礼だと思ってくれ。受け取ってほしい」
「いいんですか…?こんな…こんな…」
「こんな?」
「こんなカッコいいのに!」
かっこよさ重視で作ったのが良かったみたいだ。俺もかっこよさがどうしてもほしくて強化チタン合金なんて金属を利用したわけだが…別に苦労して加工するわけじゃないし。俺が設計して魔力を犠牲にすればいくらでも量産可能な代物だ。そこまで気にしない。ただ、いくら体内にFクリスタルが入ってるとはいえ武装並みに魔力を消費させられることになるとは思わなかった。アレ一個で攻撃衛星がいくつか生成できるレベルだったからな。流石に大量生産とまではいけないだろう。
さて。こいつはただの端末に過ぎない。ルーモルトの脳波データを元に作った、いわば脳波強化システムでもある。だがこのデバイスの真価はそこではない。こいつの真価。それは…『衛星通信による要請』にある。
「指で軽くをふれてみな」
「こんな感じですか…ってナニコレ⁈時計⁈こんなの魔術ブレスレットじゃない限り…っていうかコレ普通の時計じゃない⁈文字が浮いてるのはともかく数字が並んで秒を刻んでるぅ⁈凄ッ!!」
「驚くのはまだ早いぞぉ。今度は左に指をフリックしてみな」
「フリック?」
「こうやって指を振るんだ」
「フリックして…ってブレスレットが消え…⁈つけてる感覚はあるのに…⁈」
「透明になる。あと他にも諸々機能があるんだが…あとはこの紙を見てくれればいい」
迎賓館の部屋にあった一枚の紙を使ってプリンターで印刷しておいた説明書を渡しておいた。初心者でも分かりやすいようにしてあるから大丈夫だろう。代わりに肝心なところは一切書いていない。誰かにバレて悪用されては困るからだ。
「ありがとうございます!こんないいもの…」
「俺が作った」
「作ッ…⁈」
「まあ落ち着けよルーモルト。そいつはまだ本当の機能を果たしてない」
「これだけあってまだ機能があるのかぁ…」
「ああそうだ。先に聞いときたんだが…ここって荒らしても大丈夫か?」
「え?まあ大丈夫ですよ。どうせ誰も来ない裏庭ですから」
「もう一度本当に聞く。本当に、いいんだな⁈」
「大丈夫ですッ!なんの問題もありませんッ!」
「よろしいッ!では端末に向かって、今から言う事をしっかり復唱するように!」
「はいッ!」
「『タイタンフォール、スタンバイ』!」
「タイタンフォール、スタンバイッ‼︎」
その言葉がルーモルトから放たれた瞬間、頭上を見上げる。空が一部だけ赤く燃え上がり、それは大きな音を出しながら、さながら隕石のごとく落ちて俺達に近づいてくる。ルーモルトを見るとその表情は明らかに何が起きたのか全く理解できていない顔そのものだった。当たり前だ。誰もがいきなり叫べと言われて言ったら隕石が落ちてくるなど想像できるものだろうか。
城全体を包むほどの大きな音と共に俺達を砂煙が舞う。そして砂煙が止んだ頃にルーモルトの目の前に現れたのは隕石…ではなく巨大ロボット。バイザーアイに二足歩行。ゴツい身体。そして何よりも…そいつは『喋れる』。
《おはようございますパイロット》
「しゃ…喋った…」
《おはようございますパイロット。私はスレイヴ機戦闘機兵。RS7649》
「ルーモルト。これが本命だ。君に対する礼。こいつとそのブレスレット。2つがプレゼントだ」
「ハインド…公爵ッ…ありがとうございます!こんなプレゼントは初めてです!」
「お、おう。そうか…」
「ねぇ。あなたの名前は?」
《私はスレイヴ級戦闘機兵、RS7649です》
「なら…よし!そのままスレイヴ!あなたの名前はスレイヴよ!よろしくぅ!」
《パイロット。私の名前はRS7649です》
「長い長い!もっと分かりやすい方がいいよ!」
《了解。本機の登録名を変更…本機はスレイヴ級戦闘機兵RS7649。機体名、スレイヴ》
「スレイヴ。早速だが、ニューラリンク・ネットワークを繋いで欲しい」
《了解》
「さぁて。ルーモルト。ちょっとばかしやることがある。こいつに乗ってくれ。スレイヴ。ハッチオープン」
RS7649…もといスレイヴが胸部にあるコックピットハッチを開ける。いくつかコンソールがあるものの、武器の使用や歩くといった行為は全て脳波管制による制御が可能。AIの補助も加えてある。更にデータは衛星通信を経由してこちらに送られ、アップデートも可能だ。
ルーモルトは軽快なステップでスレイヴのコックピットに乗り込み、ハッチが閉まる。一応問題はないはずだが、いざと言う時はハッチが手動で開く。
《ニューラリンク・ネットワークの設定を開始。パイロット、ルーモルト・エンデヴァーを認識。ニューラリンクのリンク検証を開始…完了。ニューラリンクプログラム始動》
「そうか…これって…」
瞬間、ルーモルトの頭に何が見えたのか俺には分からなかった。だがどうやら外部スピーカーを聞いているあたりでは何の問題もなさそうだ。直接脳に電極を差し込むような危ない技術ではなく間接的に脳と機械をリンクさせる技術だからな。そこまで危険性はない。
《ニューラリンクが完了。衛星通信…異常認められず。ニューラリンク・ネットワークの構成完了。ハッチオープン》
「ルーモルトー。大丈夫かー?」
コックピッから降りる際、ルーモルトの雰囲気は全く別物になっていた。まるで今まで戦ってきたかのような、そんな感じだ。更に不思議なことに、彼女から出ていたプレッシャーが消えた。まさかニューラリンクで脳波が弱まったか⁈いや、間接的に作用するものだ。これで弱まるわけが…。
「ハインドさん…ありがとうございます。何だか、分かったような気がします。今までの直感は使い方が違ってたみたいです。聞いてるだけじゃダメなんですね。この力は」
「なんだと…?」
「集中するんですよ。例えば…⁈ヤバッ!ハインドさん!これ隠せません⁈あと1分もすれば人が来る!」
「スレイヴ!帰還モードだ!クーガーに量子テレポートしろ!」
《了解。また会いましょうパイロット》
ルーモルトの言う通り1分もしない内に衛兵が駆けつけた。何かあったのかと周囲を見回しているが何もなく、やはり俺達に疑惑の目が回ってきた。だがルーモルトはいつもみたいに魔法の訓練をしていたら俺達が見ることになって調子に乗ってしまったと言い訳をしたらあっさり衛兵は引いていった。
「…危なかったァ!いやぁ、毎度毎度魔法の訓練で派手な練習してたのが生きましたよ!」
「ごめんね…ルーモルトちゃんに責任を押し付けたみたいで…」
「大丈夫ですよ大丈夫!もともとこの裏庭は私の訓練所みたいなもんですから。勉強でムカついた時とかここで時々発散してるんです」
「その割には草木が生い茂ってるが…」
「ああ。ちょっと頑張って土魔法で草木を生やしまくって誤魔化してるんですよ。なんでこの辺にある緑を全部消したら昔のガレキとか残骸がわんさかでてきますよ」
意外とガサツというか無理矢理というか…とにかく無茶苦茶やってもおそらく生きていけるんだろう。この姫様は。なんかまた部長思い出した。
「ルーモルト!またあなた何かやったの⁈」
「あ、お母様」
「ダメでしょ。発散する時は空に向けて。それでもって男の急所を仕留められるくらいの怒りを出しながら吹き飛ばさないと」
「はい!」
「あら…失礼いたしました。私、ルーモルトの母のエイダと言います。話は聞いております。ハインド公爵ご夫妻ですね。ルーモルトをよろしくお願いします」
「はい。こちらからもよろしくお願いします。エイダ様。ところで彼女は…一人娘、と聞きましたが、他にはいらっしゃらないのでしょうか?」
「ええ。エンデヴァー王国では一夫一妻。それに、私は一人で良かったと思ってるんです。この子をしっかり見てやれますから…」
「失礼な質問でした。お詫びいたします」
「いいんですよ。今時、後継者が一人しかいないだなんて珍しいですからね。ルーモルト。ところであなた、カレンちゃんのところ行ったんでしょ?手紙は届けてくれた?」
「あー…」
「机の上に忘れたの、知ってるのよ。ハインド公爵様をお送りするときにご一緒させてもらいなさい」
「はい…」
なんだろう。なんだかこういう母親でルーモルトも良かったような気がした。しっかりもので物怖じしない。かといって優しさもある。現代の母親に似たような感じがする。そういえば俺が母さんにあったの、いつだったかなぁ…。もう忘れてしまった。こういう母親を見ると、前の世界を思い出す。だが、今はマリがいる。寂しくはない。
それからは城の案内やら視察やらをして4時間後には迎賓館への帰路についた。
極力早めに上げることを考えてますが、残念ながらこの調子です。もう少し頑張ってみますのでよろしくお願いします。




