俺は貴族になりました
魔法訓練を施された翌日、朝食をしっかりと済ませた俺は王都から派遣されたという馬車にウェスター伯爵と伯爵夫人のジュリアさんと共に乗り城へと向かった。
トラックは王都案内のとき帰りはゆっくり歩いて屋敷へ帰るつもりだったので場内から出た時は既に魔力化している。
ただ乗り心地や速さはトラックの方が若干良いので伯爵は今すぐに馬車を止めて前回のに乗せろと言ってきたがジュリアさん曰く王様からの直接命令によって派遣された馬車らしいので大人しくするしかなかった。
30分馬車の中で暇をつぶし再びあの大きい城に入った俺達は祝賀ムードで玉座の間へと案内され王様の眼前に出た。
相手は一国の王だ。下手すれば何されるかわからないので伯爵達と同様に玉座の前に跪く。
「今回の戦闘の話は耳に入っている。すぐに殲滅出来たらしいな」
「はっ。しかしこの度私が倒せたのは彼の援護があってからのものでした」
「ほう・・・弟子の噂は本当だったか。其方が雷魔法を使う流浪の民とやらか?」
「はっ!肯定であります!」
「よろしい。では其方に聞きたい事がある」
「私が答えられる質問ならばどのようなものでもお答え致します!」
アニメの王直属の騎士団長のように返事したら案外大丈夫そうだ。
というか噂の雷魔法を使う流浪の民ってなんかかっこいい称号だなおい。
それより王様って専用の服とか着けてると思ったけど鎧をバリバリつけてるな。玉座の後ろにある剣なんか明らかに常人じゃ扱えない剣ばかり。もしかしたら玄人なのかもしれない。
「尻と胸。どちらが好きか?」
な、な、何だとぉ⁈
「答えるには時間がかかるだろう。少しだけ時間をやる。私に答えよ」
マジかよ!どこぞの某監獄系学校アニメの理事長じゃねぇんだぞ!
落ち着け。落ち着いて考えるんだ。尻と胸?アニメと同じ考えは出来ない。
どちらかを選べと言われても俺は理由なんて付けられない。適当な理由を付けたら何をされるかわかったもんじゃないぞ。
仕方ない。俺が切り開いてやるよ。この国に新しい未来を!
「・・・です」
「何?」
「太ももです!尻?胸?そんなものは普通であり新しい道を選ばなければ意味がありません!女性に膝枕される時の感覚を知れば赤子にまで戻れる素晴らしき箇所!それを選ばず二つに絞ったのは王が未だに恐れている事を示している!」
「ほう・・・我が恐れていると?」
「その通りです!女性とは胸、尻だけではない!その全身が宝に等しい!その中で私が選んだのが太ももなのです!」
俺はいつの間にか立ち上がり熱演していたことに気づいて再び跪く。何であそこまで言ってしまったのか分からない。
確かに俺は太もも大好き人間さ。でもあそこまで推したのは俺の記憶中で初めてだ。
これは完全に終わった。処刑か?処刑なのか?
「ククク・・・アッハハハ!」
「王様・・・?」
「いいぞ!面白いなお前は!ウェスター伯爵!いい弟子を持ったな!」
「はっ」
あれ?予想外だ。てっきり怒られるかと思った。もう諦めかけてたから正直心中穏やかじゃなかったんだ。良かったぁ。
「では褒美の話をしようか。まずはウェスター伯爵。何を望む?」
「私は研究費の増大を望みます」
「よろしい。予算を増額しておく。詳細額は後で大臣に申請しろ。夫人よ。其方は何を望む?」
「主人の意思が私の意思です」
「そうか。ではウェスターの弟子よ。名前を述べるがいい」
「ハインド・ウォッカと申します」
「ハインドか。実は先の粛清により領主の家族が入っていた地位の座が一つ空いてしまった。本来なら伯爵から昇格させる予定だったのだが・・・伯爵は領主としての仕事が忙しい。よって其方をその地位に入れることにした」
王様は少しニヤつくと俺を立たせて勲章のようなものを右胸に装着した。良く見えないが金色をしていてメダルの部分は円になっているが何も書かれていない。
横をチラ見したら伯爵は少し目を丸くして勲章を見つめていた。
いやちょっと待ってくれ。なんだこれは?
「君を・・・公爵の地位に任命する。異論は認めん。今日からハインド公爵だ」
ん?公爵?待てよ。公爵?
いやいやいやいや何で⁈声も出ないよ逆に!だって公爵って確かイギリス以外の殆どの国が王様に唯一対抗出来る最高権限を持った貴族だぜ⁈伯爵の上に立つ地位で簡単には指定出来ないはず。
「納得していないようだが我が国は家系など重視していない。功労し認められたものに与える。今回はそれが其方に対する私の評価だと考えてくれ。私を後悔させてくれるなよ。以上だ」
王様はパチンと指を鳴らすと玉座の下に隠れていた魔法陣が発動して執事達は一礼。手を挙げ軽い挨拶のあとフッと消えてしまった。
俺達は財務系を中心に活動している大臣に歴代の大臣の肖像画が壁に掛けられた部屋に案内され伯爵は欲しい研究費を書いて申請すると大臣が判子を押す。これで研究費増額は決定らしい。
俺はというと帰り際、胸に付けられた勲章を外して丸い場所を見つめていた。
「その勲章は装着者の好きな絵柄がイメージによってエンブレムが決定するらしい。です。ああ、ええっと・・・ハインド公爵様」
「普通でいいですよ。えっと・・・」
「私もいつも通り伯爵呼びでいい」
ウェスター伯爵がちょっと苦笑いしてそういわれるといつの間にか勲章の円の部分が歪み始めて絵柄が出てきた。おかしいな。俺は何もイメージしてないはずなんだけどなぁ。
まさか今ちょっとだけあれにしようかな?って思った奴が出てくるのか?感度高すぎだろ!
「エンブレムは・・・なんだこれは?」
「これは俺の国で神の使いとして崇められていた三本足の黒い鳥で名前は『八咫烏』って呼ばれてるんです」
円の部分に現れたエンブレムは日本の国旗に跨る八咫烏。これは俺が憧れていた従軍記章に似せてみた昔のイラストで未だに覚えている。こんなイラストを覚えているなら古典の一単語くらい覚えられたはずなんだけどなぁ。
八咫烏のエンブレムを再び右胸に付けて城内から出たらウェスター伯爵に仕舞えと言われた。
当たり前だが貴族だから襲えば身代金も取り立てられる。だが残念ながらこの世界に俺の家族はいないし犯人は不老不死を殺せない。
ちょっと寂しく感じた。
「ハインド公爵!アリーナへ行きましょう。今の時間帯はゴーレムアリーナが開催されています!旦那様も行きましょう!」
「ジュリアさん。公爵は止めて下さい。いつも通りでお願いします」
「分かったわ。では行きましょう」
アリーナに行くまで公爵の仕事などについて伯爵が知っている範囲で色々教えてくれた。
まず公爵は俺を含めて6人存在している。
公爵の主な仕事は国家の緊急時における会議、国王の王位継承儀式の参加、貴族・王の暴走抑止、騎士団での戦闘指揮の4つ。貴族の暴走抑止という点は機能していないのか、今回は伯爵に出番を譲ったのか、どちらかは不明だが一応あるらしい。
ただ公爵という地位故に色々融通は利くので様々な点で動きやすいのだという。
しかし伯爵自身は公爵になったら領主と公爵という二つの仕事に追われ研究が出来なくなってしまうので別にならなくてもいいと言っていた。つまり公爵というのはメリットとデメリットの差がデカい。
「そういえばハインド君。アリーナから帰ったらどうする気だ?」
「そうですね・・・伯爵の屋敷に入り浸りというのもあまりよろしくないので下宿先でもさがそうかなと」
「あら。ずっと屋敷に居ていいのに」
ジュリアさんの気遣いも有り難いがギルド登録してあるにも関わらず何もしないってのはあれだし公爵という身分は楽をする為に手に入れた訳でもない。偶然手に入ったものだ。
やるならせめて自警団みたいなものに入って生成できる兵器とか色々やりたい。
「私としては君を屋敷に留まらせたいのだがな。その君の体に存在する桁外れな魔力と雷魔法は魅力的だ。それにまだまだ雷は未知の領域だ。制御できなければどうなるか分からない。別に私には決定権などない。ハインド君が決めてくれ」
雷魔法か・・・。確かに俺の中に存在する不確定要素の桁外れな魔力と未知の属性『雷』は扱いにくい。また暴走しても困るしアフターケアも雷に詳しい人間が欲しい。
応用もできるようになれば電力が必要な兵器も雷魔法で代用できるようになるかもしれない。
でもそうなるとわざわざしたギルド登録が無駄になっちまうんだよなぁ。ミネさんには悪いけど登録解除してもらうか、或いは公爵の地位を隠す為に利用させてもらうか。ミネさんに相談だな。あまりいい顔をしなさそうだけど。
「さ、着きましたわ。丁度ゴーレムアリーナの最終予選がやっているみたいね」
考えごとをしていたらいつの間にか巨大なアリーナに到着していた。ジュリアさんが何も言わなければ本当に気づかなかったな。
またそんなことを感じていたら受付の人がなんかこっちを見てオドオドしている。何かあったのか?
いや、違うな。俺だ。勲章をしまったはずなのだがバリバリでていた。
「えーっと・・・公爵様のお連れなら通常席は無料にさせていただくのですが・・・」
「じゃあそれで頼むよ」
ゲートをくぐり一般用の座席に座る。まだ予選なのか人は少ない。
アリーナの中心では四脚と二脚の岩ゴーレムが殴りあったり身体をぶつけたりと大暴れしている。岩に欠損がでようが御構い無しにぶつかる四脚に対して二脚は回避したりしならせたりと動きが多様だ。
「ゴーレムってあんな動けるんですね」
「ゴーレムは私の専門外だ」
「・・・すいません」
なんかやっぱりピリピリしてんなぁ。
一方ゴーレム戦は二脚が足を破壊されて崩れ落ちたところを四脚が胸部分にある緑色の宝石を体当たりし吹き飛ばして勝負が決まった。
予選を見て不機嫌になったのか伯爵は帰ると一言言ってアリーナから出ると俺にトラックを出すよう要求。1/2トラックを再生成してジュリアさんを後ろに乗せると俺が運転席に、伯爵は助手席に座り走り出す。
運転中、ジュリアさんは吐息を立てながら寝て伯爵はブツブツ言っていた。こんな旦那で大変なんだな・・・ジュリアさんは。
屋敷に到着したのは14時頃。伯爵の懐中時計を見て初めて知ったがここは1日24時間。俺が元いた世界と大差ない。
「さて。結果は出たか?ハインド君」
「・・・もう少し居させて貰おうかなと」
「ならいいんだ!さあ!今日は祝賀会を開こう!皆!ハインド公爵がお通りだ!酒造から80年を出してこい!」
ドアからでてそう叫んだ伯爵の言葉を聞いてキャーキャーと騒ぎ出す友人達。公爵の勲章を見せると拍手が贈られスチムソンさんからは握手を求められた。その日屋敷はとても賑やかな声で溢れ俺のオヤジギャグが炸裂した。
一方その頃、アルス城では5人の公爵による会議というお茶会が開かれていた。
「聞いたぞ。新しき公爵は雷を使えると」
「マジっすか⁈もしかして伯爵っすかね」
「いや、流浪人らしい。伯爵の弟子でもある」
「私はギルドでEXランクを取得したと聞きましたわ」
「ベリア。EXランクは存在しない・・・」
「私の鳥達の情報が間違っているとでも言うのかしら?クレームならギルドにぶつけて!」
「ベリア!ユキも止めろ。女の喧嘩は泥沼過ぎて私の精神に応えるんだ」
「ペンデュラム。貴方はどっちにつく・・・?」
「そうよ!アンタはどっちなの⁈」
「お、俺っすか⁈いや〜俺に振られても・・・ギルドーザーさん!」
「だから私は女の喧嘩は入りたくないといっただろう!ノルゴル!お前も黙ってないで何か言え!」
「そんなことより紅茶を頂きたい」
男公爵3人はノルゴルと呼ばれる彼に連なって紅茶を頼み熱々の状態で出され精神を落ち着かせるが女公爵二人は未だに睨みあっている。
「ふう・・・さて、本題に戻るぞ。何故我々が王に召集されて我々だけで会議しているか分かっているのか?お前ら」
「え?お茶会じゃないの?」
「ケーキを食べたら帰る予定・・・」
「私は紅茶を飲みに来ただけだ」
「分かってるっす!このアルス王国領土内に存在しているある廃村の対処っす!」
「まともなのはペンデュラムと私だけなのか⁈まあいい。今回王が解決するよう命じたのはこの王国から北に49kmほど離れたシラルの街に近い廃村だ。ここからリビングデッドの目撃情報が多数寄せられた」
地図を机に広げるギルドーザー。王国がある場所に小さな青い魔方陣が出てシラルの街には赤い魔方陣が示される。
「ハンターに任せればいいじゃない」
「残念だなベリア。何故なら今回はわざわざシラルの街から救援要請が来てるんだ。ハンターだけじゃ足りねぇんだよってな」
「はあ・・・じゃあ彼を向かわせれば?」
「ほう。その手があったか。いい案だ」
地図を畳んで足を組むギルドーザー。執事に便箋を用意してもらいハインドに向けた手紙を書くと羽根ペンを置いて不敵に笑う。
「彼の力を見せて貰おう」
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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